わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

文字の大きさ
380 / 430

第三二五話 シャルロッタ 一六歳 欲する者 〇五

しおりを挟む
「……そういうことか……ったく、時間がかかっちゃったわ」

「わ、ワタしの家に案内……スるぅ……」
 わたくしの認識ではこの最初のスタート地点は六回目のループ……すでにターヤの再現も結構雑なレベルになってきていて、青髪青い目という共通点はまあ及第点としても細いディティールは全然本人と違ってしまっている。
 なぜこういう認識を持つに至ったか? 最初の崩壊とともにこのスタート地点に戻されてきたことで、この状況が魔法もしくは何らかの強制力を持った誰かの行いであることは理解できた。
 ただ二回目のスタートとともに違うルートがあるのか? という点がわからなかったため、あえて二回目も同じルートを辿ってみたところ、結果は変わらなかった。
 微妙に端々の作りが異なったことで、どうやら混沌魔法の効果がかなり強力だということに気がついたのだ。
「こっち、コッチへェ……」

「はいはい、ちょっと待ってね」
 混沌魔法狂喜の祭輪サイコサーカス……こいつはちょっと厄介すぎる魔法だ。
 この魔法の効果はおそらく術者と対象を特定の領域へと引き摺り込み、一定の悪夢、狂気、そして恐怖を繰り返し体験させることで精神を崩壊させるというものだ。
 しかも魔法の効果は強制……つまり脱出に使うための一本のルートを見つけ出さない限り、延々と狂気の光景を体験させられてしまう。
 このループを体験している間魔法の効果範囲外ではどのくらいの時間が過ぎているのか全くわからないため、その辺りがかなり怖いところではあるのだけど。
 普通の人間なら二回目で発狂しかねないし、恐怖で動けなくなるだろう……現に三回目のルートでは少し分岐を外れようとした瞬間に攻撃が加わってきた。
 攻撃は絶対的でその幻覚の中では強制的な死を体験したのだけど、死の体験というのは人間にとってはそこ知れぬ恐怖を味わうため、そこで発狂する人間が多いのだろう。
「とコろぉデぇ? なンで狂ワナいノ? おかシイわ」

「……すでに死んだことがあるからよ、イメージがあるから大して怖くないのよ」

「なあにそレェ……冗談ヲ言ウトは思わナカったわ」
 ターヤ……いや姿を模しているだけでこの対象は欲する者デザイアである……ターヤの魂だけでなく、それ以外にも取り込んでいるであろう犠牲者の魂から読み取った記憶を強烈な体験として刷り込んでくる。
 二回目のルートでは檻の中で拘束されたまま無理やり人肉を食わされる幻覚が追加されてたし、四回目には磔にされたわたくしを槍で串刺しにす兵士のイメージも出現していた。
 精神にはかなり強いダメージを与える魔法ではあるけど、二度死んだことのあるわたくしにとってその光景は終わりのイメージではないのだ。
 終わりのイメージではないと言うことはそれに対する耐性があり、恐怖感が欠如してるのだから狂いようがない。
 なので強い恐怖を覚えるようなことにはならなかったのだ……すでにわたくしが狂っていて、そう言う思考にならないだけかも知れないけど。
「……冗談なんかじゃないわ、死は誰にでも訪れる……もちろん欲する者デザイア、貴方にもね」

「何ヲ……言ッて……」

「……ようやく解析が済んだから、そろそろ現実戻りましょうか」

「……は? 何を言って……」
 わたくしの言葉と軽く指をぱちん、と鳴らしたと同時に全ての光景がガラス細工のように甲高い音を立てて砕け散る……まるで美しい雨のようにキラキラと光りを放ち暗闇の中に浮かぶあの場所へ。
 多面結晶体トラペゾヘドロンの置かれた部屋へと全ての風景が元に戻っていく……目の前には唖然とした表情の欲する者デザイアがわたくしをみて立っており、あの時に肉塊と化したターヤの亡骸もそのままだ。
 見たところ物理的な時間はほとんど経過していない……はず、現実世界へと戻ってきたわたくしは着ていた衣服を軽く手のひらで払うと訓戒者プリーチャーに向かって微笑む。
「領域内に引き摺り込んで自他に一定のルートを強制させ、その過程で死のイメージと絶望、恐怖を叩き込み狂気に引き摺り込む……防御結界無視で相手にこれだけのイメージを押し付けるのはすごいことね」

「ば、バカな……狂喜の祭輪サイコサーカスを自力で破るだと……?」

「多くても三回くらいでやめとくべきね、三回目でイメージに同調して解析する手を思い付いたけどうまくいってよかっ……う、うげえええっ!」
 くっそ間抜けな顔を見せている欲する者デザイアは必殺の魔法がこうも簡単に破壊されるとは思ってもいなかったのだろう。
 まあ、わたくしも一回目の時はどうしていいかわからなかったが、二回目をきちんと観察することでやっとこの手を思い付いたのだから。
 だが……わたくしは突然凄まじい嘔吐感に襲われて、その場で血を吐き出す……しまった解析に少し時間がかかり過ぎたのか、肉体にはきっちりダメージ入っていやがる。
 血を吐いて口元を抑えて膝をついたわたくしを見た欲する者デザイアは、それでも魔法のダメージが入っていると認識したのだろう。
 一気に距離を詰めると、渾身の拳を叩き込んでくる……ゴオオッ! という迫力のある音とともに放たれた拳を咄嗟に貼り直した結界で防ぐが、ドキャアアアッ! と言う凄まじい音とともに威力にわたくしの眼前でせめぎ合う。
「クハハハッ! しっかりダメージは入ったようねッ!」

「……くそ……時間かけ過ぎた……」

「ウヒハハハッ! ならここでとどめを……!」
 欲する者デザイアはふわりと後方へと跳躍して距離を取ると魔法行使の構えをとる……こう言うところはわかりやすい。
 訓戒者プリーチャーの使う魔法の威力は大きすぎるのだろう、自らを巻き込む可能性がある魔法なんかそう簡単に至近距離でぶっ放せないしね。
 だがその一瞬距離をとったことで出来た隙を使ってわたくしは一気に肉体に加えられたダメージを修復していく……時間があんまりないから応急処置みたいなもんだけど。
 それでもダメージを気にせずに動けるようになるだけマシ……ゆっくりと立ち上がったわたくしを見た欲する者デザイアは凄まじいまでの魔力を放出し始める。

「混沌魔法……ッ! 罪なる愛欲ギルティオブラヴッ!」
「神滅魔法……雷帝の口付けサンダーキッスッ!」

 罪なる愛欲ギルティオブラヴ……オルインピアーダが放った混沌魔法で、一定距離にいる存在全てを結界内に閉じ込め、蠢く泥濘に沈み込ませ無限の快楽による絶頂の果てに、狂い死ぬというエゲツない効果を持った魔法である。
 まあ初見の際には魔力による防御結界で防げたんだけど……今弱ったわたくしの防御結界で完全に防げるかわからないのと、むしろ防御に徹するとこの手の連中は手がつけられなくなることを経験上わたくしは理解している。
 結界内に泥濘が満ちようとしたその瞬間、わたくしの周囲へ超高密度の雷撃が放たれる……結界内へと閉じ込めようとする混沌の魔力と、それをぶち破ろうとした雷帝の口付けサンダーキッスの雷撃による凄まじい温度上昇で泥濘が瞬時に消滅していく。
 魔法と魔法のせめぎ合い……次の瞬間、魔法同士の効果が対消滅を起こし再び周囲が元の情景へと戻っていく……ほぼ互角? いやほんの少しだけ罪なる愛欲ギルティオブラヴの威力の方が低いか?
「……く……対消滅とは……ッ!」

「その魔法一度見たわよ? さっきの狂喜の祭輪サイコサーカスで出力落ちたんじゃないのぉ?」

「ほざけえッ!」
 だが狂喜の祭輪サイコサーカスのような自他への強制を伴う魔法なんか魔力の消費は尋常ではないレベルである、だからわたくしだってどちらかと言うと質量攻撃とかに振り切ってるんだし。
 欲する者デザイアが魔力を回復するまで少しかかるはず……わたくしはその隙を狙って一気に前に出る……このタイミングで畳みかけるしかねえ。
 凄まじい速度で地面を蹴って前に出たわたくしにギョッとした表情を浮かべる欲する者デザイア……まさか前に出てくるとは思ってもいなかったのだろう。
 だが、さすがは訓戒者プリーチャーと言うべきだろうか? すぐにギラリとした目で同じように前に出てきた。
 ドゴオオッ!! と言う音とともにお互いの拳が正面から衝突するとその威力の凄まじさから、空間が一瞬歪む……この場所は星幽迷宮アストラルメイズによって構成された簡易的な結界内みたいなもんだからな、通常空間ではないゆえに莫大な魔力や破壊を行うと崩壊してしまう可能性があるのだ。
「どこにこんな腕力が……ッ!」

「はっはー♪ 接近戦もちゃんとできるみたいねぇッ!」
 わたくしはそのまま体をコンパクトに回転させると、欲する者デザイアへと回し蹴りを叩き込む……相手が咄嗟にとった防御姿勢の腕へ攻撃がズドンッ! と言う鈍い音とともに食い込んだ。
 メキメキメキッ! と言う音と立てて欲する者デザイアの腕がへし折れ奇妙な方向へと曲がった……だが、その痛みを感じていないのか彼女はそのままわたくしへと膝を繰り出す。
 ゴギャアアッ! と言う音とともに彼女の膝はわたくしの腹部へと食い込む……一気に肺の中似合った空気を強制的に吐き出させられた気分になり、思わず悶絶するが防御結界がうまく働いていない?
 いや、欲する者デザイアの全身に纏っていた魔力が膝に集中してそれが結界を貫いたのか……わたくしは蹈鞴を踏んでヨタヨタと後退すると、彼女は勝ち誇ったように叫んだ。

「クヒハハハハハッ!! これで終いだ……混沌魔法……愛欲の律動リズムオブラヴッ!!!!」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

処理中です...