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第一四六話 シャルロッタ 一五歳 魔剣 〇六
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——当てがわれた部屋のソファに座って少しぬるめの紅茶を飲んでいると、廊下をバタバタと走る音が聞こえた。
「……し、失礼する……ッ! シャ、シャルロッタ嬢?」
バタン! と少し強く扉が開かれるとディートリヒによく似た金髪で強面の男性が部屋へと慌てた様子で入ってきた……アマデオ・コルピクラーニ子爵、この街を支配する貴族でありコルピクラーニ子爵家の当主でもある。
わたくしがなんてことない表情でテーブルの上にあったお菓子を摘んで口に入れているのをみて、ポカンとした表情を浮かべた後、肩をふるふると震わせ顔色を赤く、そしてすぐに真っ青にしながらわたくしの前に見事なまでのスライディング土下座をかましてきた。
「……ご機嫌ようコルピクラーニ子爵……ッ!?」
「シャルロッタ嬢……っ! た、大変なご無礼を……う、うちのバカ息子が……ああああっ!」
「あ、あの……顔を上げていただけますか?」
「ど、どうか……どうかご容赦を……」
コルピクラーニ子爵は必死に土下座して体を震わせる……あれー? なんでこんなに怖がって……確かにコルピクラーニ子爵の勢力は小さく、ぶっちゃけ男爵に毛が生えたくらいの戦力しか持ち合わせていない。
彼自身は見た目は非常に強面なのだけどその実とても繊細で細やかな配慮のできる男性だし、そういった面がとても好感が持てる、とお父様も話していた。
だが子爵はスッと顔を上げると、その表情は「マジで許して」と言わんばかりに怯える大型犬みたいな顔になってしまっている。
「あの……ご子息の件はどうかと思いますけど、わたくし軟禁されておりますが牢屋でもないので……」
「す、数年前にカーカス子爵の領地で起きた事件を私は覚えております……ど、どうかこの街だけは破壊しないでくださいッ!」
「……あ……そちらですか……」
なんだよ、わたくしが気に食わないと街を平気で破壊するあぶねー奴みたいな扱いだったってことか……うーむ……手に持ったお菓子を口に放り込むと、紅茶で喉の奥へと流し込む。
その様子を震えた子犬みたいな目でじっとみていたコルピクラーニ子爵だが、わたくしが少し恥ずかしそうな表情を浮かべているのをみて彼はわたくしがいきなり暴れる気はないとわかったのだろう。
ホッと息を吐くと土下座の状態から一度姿勢を変えて正座した状態でわたくしへと話しかけてきた。
「……シャルロッタ嬢……私はインテリペリ辺境伯家と対立する気はないのです、息子が独断で……」
「そうは言っても現状対立を防ぐような行動を起こしていないではないですか……」
「そ、それは……その……」
「第一わたくしは拘束された状態でして……解放していただけるなら何もいう気はございませんけど、現状この状況で独断なんで許してくださいってのは無理筋ですわよ?」
わたくしが思ったよりも反論してきたことでコルピクラーニ子爵は表情を歪めるが、このくらいの反撃はゆるされるだろ……一応わたくしは辺境伯の令嬢ではあるが、正式に貴族の爵位を持っているわけではないので実家の威光が命綱でしかなく、相手はきちんと爵位を持った貴族であるため、あまり追い詰めるようなことを言ってしまうと色々問題になる可能性が高い。
まあ過去にわがままを突き通した貴族令嬢が、格下だと思っていた爵位を持つ貴族に襲撃され悪行を糾弾されて結果的に追放されてしまうなんて話が王国では読み物として流布しているくらいだからな。
「……そこをなんとか……コルピクラーニ子爵家は貴女の実家と事を構える気はないのです……」
「それは理解しております……とりあえず子爵にご迷惑がかからないように何も言わずに街から出て行くことにいたしますわ」
「……ありがとうございます……衛兵にもその旨は伝えます、大変ご迷惑をおかけして申し訳ない……」
コルピクラーニ子爵は一度頭を下げると、大きなため息をついて部屋から出ていく……あー、なんかひとまわり小さくなっちゃった気がするな。
わたくしは紅茶を飲み干すと、少し状況を整理するためにどうやって今後動くかを整理していく。
コルピクラーニ子爵は基本的に揉め事を起こしたくない、というのは理解できた……そりゃそうだ地方最強と言われるインテリペリ辺境伯家の令嬢を監禁しました、なんて冗談抜きで報復対象でしかないからだ。
これはわたくしがお父様とかに言わなきゃ済む話……マーサやエルネットさん達には口止めをお願いすればいいだろう。
ディートリヒ様と守備隊、特に第一王子派に傾倒している者達の動きが厄介だ……数としては大した人数にはならないだろう最大で二〇〇人程度だろうが、その数で平押しされるとわたくしやユルはともかく「赤竜の息吹」や戦闘能力のないマーサは危険に晒されてしまうだろう。
コルピクラーニ子爵の私兵は同じイングウェイ王国の国民でもあるし、今現在でインテリペリ辺境伯家と敵対しているわけじゃないから、一網打尽なんてことはしたくないんだよね。
少し深く息を吐く……めんどくせーなあ、全部更地にして証拠隠滅したら楽なんだけどなあ、残念ながら貴族令嬢である以上に、クリスの婚約者であるためそんな事をしたら大変なことになるってわかっている。
「……仕方ない、穏便に行きますかね……ではまずはこの邸宅から帰らせていただきますわ」
「父上ッ! シャルロッタをどこへやった!」
ディートリヒは父親であるアマデオ・コルピクラーニ子爵へと詰め寄る……彼が守備隊の任務で詰め所へと出かけていた隙に、シャルロッタは閉じ込めていたはずの応接室から姿を消してしまっていた。
アマデオは一族にしか使用が許可していない隠し通路を使ってシャルロッタを邸宅の外へと送り届け、そこから再び邸宅へと戻っていた。
しかも彼自身が発行した領外への通行許可証を彼女に持たせてもいる……しかもその通行許可証には彼女とその一行がコルピクラーニ子爵の縁者であり身元を保証するので、荷物の改めなどは必要ない旨まで記載して、ほぼ無条件での領内通行が可能なものを持たせている。
「ディートリヒ……お前は現実を見ていない、彼女は決して手に入らないんだぞ? それとアンダース殿下に媚びるのは良いが、バランス感覚を持ってやり取りをするんだ」
「違う、俺はシャルロッタを土産にアンダース殿下の援助を受けるつもりだった! すでに伝書鷲まで出しているんだ、今更逃げられましたでは我が家の名が傷つく!」
「もうやめるんだ、コルピクラーニ子爵家は地方の小貴族でしかないんだ……これ以上インテリペリ辺境伯家に敵対するような真似は避けろ」
「……父上、貴族であるからこそどちらに正当性があるのかを判断するのは間違ってはいないはずだ」
ディートリヒはギリリを奥歯を噛み締める……父親の言っていることが弱気にしか聞こえず、彼自身は全くもって納得できないものだったからだ。
第一王子派の手勢がウッドパイントに到着するまでシャルロッタを拘束し、その後彼は第一王子派とともに王都へと赴く……アンダース第一王子に謁見し、彼は名実ともに大罪人をとらえた英雄となるはずだったのに。
拳を握りしめて体を震わせていたディートリヒだったが、それ以上何かを言っても無駄だと思ったのか、少し乱暴に扉を開けて部屋を出た。
「くそっ……くそっ! 俺はこんな小さな街で終わりたくないんだ……」
廊下を歩きながらディートリヒは悔しさから親指の爪を噛んでいる……どうしたら第一王子派の重鎮となれるのか? まだ若く自信も持つ彼にとってウッドパイントの守備隊長という役職は屈辱だった。
子爵位もアマデオが居なくなるまでは正式に爵位を継承できない……いつになれば父親は引退する気なのか、それがわからないために焦りも募る。
この街の領主という地位も自分のプライドを守るためには小さすぎるという気持ちも強い。
「……誰だっ!」
ふと、彼の背後に気配のようなものを感じてディートリヒは咄嗟に剣を引き抜くと背後にいる存在へと剣を振るう……その姿は彼が単なる甘ったれた貴族の令息ではないと思える見事な剣筋だった。
だが、その鋭い剣による一撃はその場に立っていた不気味な女の指によって止められている……格好はこの邸宅で雇っているメイドのようにも見えたが、ディートリヒが戯れに手を出した女の中にこんなことができるものはいなかったはずだ。
彼は恐怖を感じて後ろへと下がろうとするが、指で摘んでいるはずの剣がまるでびくともしないことに驚き、そしてドッと背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「……ディートリヒ・コルピクラーニ……私は第一王子派の味方、義の心を持つあなたを応援しに来た殿下の部下よ」
「な、なに……? 殿下の?」
女の顔は陶磁器のように滑らかで美しい肌をしている……その髪は艶やかで長い黒髪を仕事着に合わせて高く結い上げており、その首筋は思わず撫でたくなるくらい扇情的な艶を持っている。
瞳は赤くルビーのように輝いており、美しすぎる顔の造形はまさに芸術品のようにも見える……だがその表情は微笑みというには歪んだ笑顔だった。
女はニタアッ! と歪んだ笑みを浮かべると恭しくディートリヒへと頭を下げて話し始めた。
「私は欲する者、アンダース殿下の身の回りのお世話をしているものですよ……貴方に良いことをお知らせに参りました」
「……よ、よかろう……話すがいい、殿下のお言葉であればこのディートリヒなんでも承る」
「良いですね、それでこそ救国の貴族です……殿下はディートリヒ様が義挙する場合、その行動をすべて認めると仰っております」
「な……殿下が俺のことをご存知なのか?!」
「はぁい……それはもう王国貴族に属するもので、殿下の幕僚の一人として有望な人材はすべて記憶されております」
普通に考えればこの欲する者の放つ言葉に信憑性などないことはわかるのだが……妖しく輝く彼女の赤い瞳をみていると、まるでそれが本当に殿下が伝えてきた言葉のように感じてしまう。
調和と呼ばれる混沌の眷属が操る権能がディートリヒの精神を汚染していく……彼の心の中に凶暴な自己顕示欲と自尊心が膨れ上がっていき、彼の思考は誘導されていく。
そうだ、父上がシャルロッタ・インテリペリを匿い逃したのが良くないのだ……ディートリヒの中で父親という障害を排除しなければいけないという強い気持ちが膨れ上がる。
そんな彼を見た欲する者はニタリ、と歪んだ笑みを浮かべると彼にそっと囁いてから姿を消していく。
「……そうそう、お父様は排除して貴方がコルピクラーニ子爵として、シャルロッタ・インテリペリを再度捕らえアンダース殿下の元へと引き出すのです……そしてそれを知ったインテリペリ辺境伯家が軍を挙げるようにうまくやってくださいね、可愛いお馬鹿さん」
「……し、失礼する……ッ! シャ、シャルロッタ嬢?」
バタン! と少し強く扉が開かれるとディートリヒによく似た金髪で強面の男性が部屋へと慌てた様子で入ってきた……アマデオ・コルピクラーニ子爵、この街を支配する貴族でありコルピクラーニ子爵家の当主でもある。
わたくしがなんてことない表情でテーブルの上にあったお菓子を摘んで口に入れているのをみて、ポカンとした表情を浮かべた後、肩をふるふると震わせ顔色を赤く、そしてすぐに真っ青にしながらわたくしの前に見事なまでのスライディング土下座をかましてきた。
「……ご機嫌ようコルピクラーニ子爵……ッ!?」
「シャルロッタ嬢……っ! た、大変なご無礼を……う、うちのバカ息子が……ああああっ!」
「あ、あの……顔を上げていただけますか?」
「ど、どうか……どうかご容赦を……」
コルピクラーニ子爵は必死に土下座して体を震わせる……あれー? なんでこんなに怖がって……確かにコルピクラーニ子爵の勢力は小さく、ぶっちゃけ男爵に毛が生えたくらいの戦力しか持ち合わせていない。
彼自身は見た目は非常に強面なのだけどその実とても繊細で細やかな配慮のできる男性だし、そういった面がとても好感が持てる、とお父様も話していた。
だが子爵はスッと顔を上げると、その表情は「マジで許して」と言わんばかりに怯える大型犬みたいな顔になってしまっている。
「あの……ご子息の件はどうかと思いますけど、わたくし軟禁されておりますが牢屋でもないので……」
「す、数年前にカーカス子爵の領地で起きた事件を私は覚えております……ど、どうかこの街だけは破壊しないでくださいッ!」
「……あ……そちらですか……」
なんだよ、わたくしが気に食わないと街を平気で破壊するあぶねー奴みたいな扱いだったってことか……うーむ……手に持ったお菓子を口に放り込むと、紅茶で喉の奥へと流し込む。
その様子を震えた子犬みたいな目でじっとみていたコルピクラーニ子爵だが、わたくしが少し恥ずかしそうな表情を浮かべているのをみて彼はわたくしがいきなり暴れる気はないとわかったのだろう。
ホッと息を吐くと土下座の状態から一度姿勢を変えて正座した状態でわたくしへと話しかけてきた。
「……シャルロッタ嬢……私はインテリペリ辺境伯家と対立する気はないのです、息子が独断で……」
「そうは言っても現状対立を防ぐような行動を起こしていないではないですか……」
「そ、それは……その……」
「第一わたくしは拘束された状態でして……解放していただけるなら何もいう気はございませんけど、現状この状況で独断なんで許してくださいってのは無理筋ですわよ?」
わたくしが思ったよりも反論してきたことでコルピクラーニ子爵は表情を歪めるが、このくらいの反撃はゆるされるだろ……一応わたくしは辺境伯の令嬢ではあるが、正式に貴族の爵位を持っているわけではないので実家の威光が命綱でしかなく、相手はきちんと爵位を持った貴族であるため、あまり追い詰めるようなことを言ってしまうと色々問題になる可能性が高い。
まあ過去にわがままを突き通した貴族令嬢が、格下だと思っていた爵位を持つ貴族に襲撃され悪行を糾弾されて結果的に追放されてしまうなんて話が王国では読み物として流布しているくらいだからな。
「……そこをなんとか……コルピクラーニ子爵家は貴女の実家と事を構える気はないのです……」
「それは理解しております……とりあえず子爵にご迷惑がかからないように何も言わずに街から出て行くことにいたしますわ」
「……ありがとうございます……衛兵にもその旨は伝えます、大変ご迷惑をおかけして申し訳ない……」
コルピクラーニ子爵は一度頭を下げると、大きなため息をついて部屋から出ていく……あー、なんかひとまわり小さくなっちゃった気がするな。
わたくしは紅茶を飲み干すと、少し状況を整理するためにどうやって今後動くかを整理していく。
コルピクラーニ子爵は基本的に揉め事を起こしたくない、というのは理解できた……そりゃそうだ地方最強と言われるインテリペリ辺境伯家の令嬢を監禁しました、なんて冗談抜きで報復対象でしかないからだ。
これはわたくしがお父様とかに言わなきゃ済む話……マーサやエルネットさん達には口止めをお願いすればいいだろう。
ディートリヒ様と守備隊、特に第一王子派に傾倒している者達の動きが厄介だ……数としては大した人数にはならないだろう最大で二〇〇人程度だろうが、その数で平押しされるとわたくしやユルはともかく「赤竜の息吹」や戦闘能力のないマーサは危険に晒されてしまうだろう。
コルピクラーニ子爵の私兵は同じイングウェイ王国の国民でもあるし、今現在でインテリペリ辺境伯家と敵対しているわけじゃないから、一網打尽なんてことはしたくないんだよね。
少し深く息を吐く……めんどくせーなあ、全部更地にして証拠隠滅したら楽なんだけどなあ、残念ながら貴族令嬢である以上に、クリスの婚約者であるためそんな事をしたら大変なことになるってわかっている。
「……仕方ない、穏便に行きますかね……ではまずはこの邸宅から帰らせていただきますわ」
「父上ッ! シャルロッタをどこへやった!」
ディートリヒは父親であるアマデオ・コルピクラーニ子爵へと詰め寄る……彼が守備隊の任務で詰め所へと出かけていた隙に、シャルロッタは閉じ込めていたはずの応接室から姿を消してしまっていた。
アマデオは一族にしか使用が許可していない隠し通路を使ってシャルロッタを邸宅の外へと送り届け、そこから再び邸宅へと戻っていた。
しかも彼自身が発行した領外への通行許可証を彼女に持たせてもいる……しかもその通行許可証には彼女とその一行がコルピクラーニ子爵の縁者であり身元を保証するので、荷物の改めなどは必要ない旨まで記載して、ほぼ無条件での領内通行が可能なものを持たせている。
「ディートリヒ……お前は現実を見ていない、彼女は決して手に入らないんだぞ? それとアンダース殿下に媚びるのは良いが、バランス感覚を持ってやり取りをするんだ」
「違う、俺はシャルロッタを土産にアンダース殿下の援助を受けるつもりだった! すでに伝書鷲まで出しているんだ、今更逃げられましたでは我が家の名が傷つく!」
「もうやめるんだ、コルピクラーニ子爵家は地方の小貴族でしかないんだ……これ以上インテリペリ辺境伯家に敵対するような真似は避けろ」
「……父上、貴族であるからこそどちらに正当性があるのかを判断するのは間違ってはいないはずだ」
ディートリヒはギリリを奥歯を噛み締める……父親の言っていることが弱気にしか聞こえず、彼自身は全くもって納得できないものだったからだ。
第一王子派の手勢がウッドパイントに到着するまでシャルロッタを拘束し、その後彼は第一王子派とともに王都へと赴く……アンダース第一王子に謁見し、彼は名実ともに大罪人をとらえた英雄となるはずだったのに。
拳を握りしめて体を震わせていたディートリヒだったが、それ以上何かを言っても無駄だと思ったのか、少し乱暴に扉を開けて部屋を出た。
「くそっ……くそっ! 俺はこんな小さな街で終わりたくないんだ……」
廊下を歩きながらディートリヒは悔しさから親指の爪を噛んでいる……どうしたら第一王子派の重鎮となれるのか? まだ若く自信も持つ彼にとってウッドパイントの守備隊長という役職は屈辱だった。
子爵位もアマデオが居なくなるまでは正式に爵位を継承できない……いつになれば父親は引退する気なのか、それがわからないために焦りも募る。
この街の領主という地位も自分のプライドを守るためには小さすぎるという気持ちも強い。
「……誰だっ!」
ふと、彼の背後に気配のようなものを感じてディートリヒは咄嗟に剣を引き抜くと背後にいる存在へと剣を振るう……その姿は彼が単なる甘ったれた貴族の令息ではないと思える見事な剣筋だった。
だが、その鋭い剣による一撃はその場に立っていた不気味な女の指によって止められている……格好はこの邸宅で雇っているメイドのようにも見えたが、ディートリヒが戯れに手を出した女の中にこんなことができるものはいなかったはずだ。
彼は恐怖を感じて後ろへと下がろうとするが、指で摘んでいるはずの剣がまるでびくともしないことに驚き、そしてドッと背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「……ディートリヒ・コルピクラーニ……私は第一王子派の味方、義の心を持つあなたを応援しに来た殿下の部下よ」
「な、なに……? 殿下の?」
女の顔は陶磁器のように滑らかで美しい肌をしている……その髪は艶やかで長い黒髪を仕事着に合わせて高く結い上げており、その首筋は思わず撫でたくなるくらい扇情的な艶を持っている。
瞳は赤くルビーのように輝いており、美しすぎる顔の造形はまさに芸術品のようにも見える……だがその表情は微笑みというには歪んだ笑顔だった。
女はニタアッ! と歪んだ笑みを浮かべると恭しくディートリヒへと頭を下げて話し始めた。
「私は欲する者、アンダース殿下の身の回りのお世話をしているものですよ……貴方に良いことをお知らせに参りました」
「……よ、よかろう……話すがいい、殿下のお言葉であればこのディートリヒなんでも承る」
「良いですね、それでこそ救国の貴族です……殿下はディートリヒ様が義挙する場合、その行動をすべて認めると仰っております」
「な……殿下が俺のことをご存知なのか?!」
「はぁい……それはもう王国貴族に属するもので、殿下の幕僚の一人として有望な人材はすべて記憶されております」
普通に考えればこの欲する者の放つ言葉に信憑性などないことはわかるのだが……妖しく輝く彼女の赤い瞳をみていると、まるでそれが本当に殿下が伝えてきた言葉のように感じてしまう。
調和と呼ばれる混沌の眷属が操る権能がディートリヒの精神を汚染していく……彼の心の中に凶暴な自己顕示欲と自尊心が膨れ上がっていき、彼の思考は誘導されていく。
そうだ、父上がシャルロッタ・インテリペリを匿い逃したのが良くないのだ……ディートリヒの中で父親という障害を排除しなければいけないという強い気持ちが膨れ上がる。
そんな彼を見た欲する者はニタリ、と歪んだ笑みを浮かべると彼にそっと囁いてから姿を消していく。
「……そうそう、お父様は排除して貴方がコルピクラーニ子爵として、シャルロッタ・インテリペリを再度捕らえアンダース殿下の元へと引き出すのです……そしてそれを知ったインテリペリ辺境伯家が軍を挙げるようにうまくやってくださいね、可愛いお馬鹿さん」
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