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第一〇二話 シャルロッタ 一五歳 王都脱出 一二
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「よくきた、それではシャルロッタ嬢の査問を再開するとしよう」
「……はあ……それで今回はどういったご質問を……」
今わたくしは多数のおじさまに囲まれた状態で椅子に座らされているが……周りを見てもお父様くらいの年代の男性が多く味方になりそうな貴族はいそうにないなと、心の中で軽くため息をついてしまう。
真正面に座っているのは第一王子アンダース・マルムスティーン殿下……そしてその脇にマルキウス・ロブ・ハルフォード公爵とバンデルフ・ライオット侯爵が固め、そこから少し離れた位置に宰相であるアーヴィング・イイルクーンが座っている。
それ以外の席には様々な貴族達が座っている……スティールハート侯爵、ベッテンコート侯爵、マンソン伯爵にレーサークロス子爵……唯一味方になりそうな人物は端っこの方でつまらなさそうな顔をしているメレディス・スコーピオンズ女伯爵くらいか。
「どうした、何故キョロキョロしている?」
「あ、申し訳ありません……見事なくらいに一方的な人選なので驚いていたのですわ」
アンダース殿下が周りを見ていた私に少し不機嫌そうな表情で話しかけてくるが、多少は皮肉くらいぶつけても構わないだろうと判断して憎まれ口を叩いてみる。
その言葉に殿下は少し驚いたような表情を浮かべつつも、相当にツボに入ったのかクスクス笑い出す……まあこの反応を見る限り、本人もそれほど乗り気ではないか、それとも面倒なのかどちらかだろうな。
それを見たハルフォード公爵は眉を顰めてから、何度か咳払いをして殿下の笑いを無理やり封じるとわたくしを睨みつける。
「令嬢は今の状況がわかっていない様だな、少しは従順な態度を取りたまえ」
「……善処致しますわ」
ぷい、と別の方向に顔を向けてから答えるとハルフォード公爵だけでなくベッテンコート侯爵も苦々しい表情を浮かべてわたくしを睨みつける。
まあこの程度で怯むようなヤワな令嬢ではございませんのよ? とばかりに持参した扇を軽く広げて口元を隠して見せるが……この仕草はプリムローズ様のやり方を真似て見ているが、結構煽りに使えるなあ。
別の方向からクスクス笑い声が聞こえてくるが、その声はスコーピオンズ女伯爵のものだったため、さらに第一王子派の貴族達が舌打ちをしたり、イライラしているのか机を指でコツコツ叩く音が聞こえる。
やれやれといった表情を浮かべたアーヴィング様が何らかの書状を手に私に向かって語りかけてきた。
「では……今現在シャルロッタ・インテリペリ嬢には複数の嫌疑がかけられている、一つ幻獣ガルムを長年王国に虚偽の情報にて報告してきた隠蔽の罪、二つその契約したガルムが侮辱を行った罪、三つ悪魔の召喚を行い他者を堕落させた罪」
「全部否認しますわ、わたくし後ろ暗いことは何もしておりませんの」
「……だそうだが? ベッテンコート侯爵、何か言うことはあるか?」
「魔導機関による鑑定を実施していただきたい、虚偽を判定しそれを持ってシャルロッタ嬢が魔女であることを証明する」
魔法による鑑定……この王国には魔導機関という魔力で動く機械文明が発達しているが、この場合はいわゆる嘘発見器に当たる機械を使うことを示している。
「審問の瞳」と呼ばれるその機械はわたくしが聞いたことのある嘘発見器と違い、魔力の波を測定してほぼ一〇〇パーセントの確率で嘘を暴くという。
領地でも使用されていて他の魔導機関などと違い非常に小型で洗練された作りをしている見た目なので、おそらく相当に腕の良い魔導機関技師が制作したんだろうなと思っていた。
会場にワゴンに乗せられた少し無骨な箱のような機械が持ち込まれてくる……審問の瞳は四角い箱の上に小さな宝石と羽が取り付けられた簡素なもので、箱の側面から鑑定をする相手に接続する管の様なものが伸びており、その管の終端には小さな竜の顔を模した模型の様なものが取り付けられている。
いつ見てもこの竜の顔……あんまり格好良くないのよね、もう少し作りをよくしたらいいのに……と全然関係ないことを考えてしまい、あまり緊張すらせずに涼しい顔をしている私を見て、アンダース殿下も感心したような視線を送ってくる。
「……緊張せんのか? 普通はこの機械を見て多少は怯えたりするものが多いが……」
「後ろ暗いことはありませんので……緊張のしようがございませんわ」
「フフフッ……やはりお前はクリストフェルには勿体無い女だな、手に入れたくなる」
「……殿下! 恐れ多くもこのような魔性の女を手に入れたいなどと……そんなこと申されるな」
「わかったわかった……さあ始めようか」
王室付きの侍女たちが私の手にその竜の顔を模した模型を取り付けると、わたくしの体に不思議な魔力が圧力のように加わる……ふむ、接続されて理解したけど魔力の波長を読み取って虚偽解答をした精神の揺らぎを検知する様になってるのね。
よく出来ているけど魔力が強いものや、本当にわたくしが悪魔の手先なら誤魔化せてしまいそうな気がするな……まあ普通の犯罪者を裁くにはこの程度で十分ということだろうか。
「では質問を開始する……シャルロッタ嬢、君はプリムローズ・ホワイトスネイクと揉めたそうだが本当か?」
「はぁ……揉めたというより一方的に敵視されただけですわ」
審問の瞳の羽は動かない……まあ、実際本当のことを言っているのだから当たり前なんだけど、それでもほんの少しだけ一応安心してしまう。
わたくしが返答を行なってもピクリともしない機械の羽を見て、軽く舌打ちをするとベッテンコート侯爵は再びアーヴィング様へと続ける様に促す。
「ゴホン……では次だ、ガルムの情報をどうして偽装したのか?」
「報告はお父様……いえ、インテリペリ辺境伯より行なっているため報告書はわたくしも拝見したことはございません」
やはりピクリとも動かない……まあ、そりゃ後ろ暗いことなんかあんまりないし、そもそも報告書の内容なんかわたくしに見せてもくれないのだから何送ったのか知らなくても当然なんだよ。
あまりに反応しない審問の瞳を軽く小突いていたベッテンコート侯爵だが、苦々しげな表情で私へと視線を移す。
その瞬間、背中にゾクッとした怖気が走る……こいつ、嫌な匂いをさせている……この侯爵自身は何か強力な能力を保持しているようには見えない。
だけどその背後には少し前に感じた視線、訓戒者の赤い瞳を思い返させる何かがこちらを見ている気がした。
「……嫌な気配ですわね……」
「何か言ったか? では次だ……クリストフェル第二王子殿下をたぶらかしたお前は、この国家転覆を狙っているのではないか?」
「そんな恐れ多いことは考えておりませんわ……わたくし今の生活気に入っておりますのよ?」
羽の反応はない……だがちょっとだけ自分が今のこのご令嬢生活のことをちゃんと気に入っている、とも取れる自分の発言に内心少しだけ陰鬱な気分にさせられる。
いや、なんだろう……わたくし前世まで男性だったのに、改めて女性である生活を気に入っているとかこういう嘘をつけない装置で改めて再認識しなきゃいけないとかどういう罰ゲームなんだろう……。
うーん、いやいや質問はクリスを扇動しているという話であって、シャルロッタ・インテリペリという一人の女性であることに満足しているのか、という問いではなかったんだから仕方ないよね。
「……ではお前はクリストフェル殿下を婚約者として愛しているのか? それとも地位を目当てに婚約を望んだのか?」
「……え、ちょ……そ、それって今関係あります?」
いきなりそんな質問をブッ込まれたわたくしは、内心心臓が飛び出そうな気分にさせられる……いや、ちょっと待って……地位を目当てに婚約をしたわけじゃない、だけどクリスのことをわたくしが愛している?
その質問はまずい……クリスのことは好き……なのだけど、愛しているか? と言われるとわたくしは正直よくわからない、としか答えようがない。
貴族同士の婚約って愛情が全てではないって話も聞くし、好きじゃない男性と結婚する貴族令嬢も多数存在しているとも言われている。
だけど……この質問形式だと羽が動いちゃうと、地位を目当てに婚約したことになっちゃうし、動かなければわたくしがクリスのことをちゃんと愛している、という表現にもつながってしまう……それはわたくしのアイデンティティの危機ではないか!
いやいやちょっとそりゃないわ……と私は侯爵の方をチラリと見るが、侯爵は早く答えろよと言わんばかりの表情でふんぞり返っている。
「……えっと、質問をもう一度おっしゃっていただけますか?」
「……クリストフェル殿下をお前は愛しているのか? それとも地位を目当てにする売女か、という質問だ」
「……わたくし別に地位は求めておりませんわよ?」
羽は動かない……よおおっしゃあ! この返答ならわたくしの自尊心も保たれるし、羽も動くわけがない。
そもそもわたくしは別に地位や名誉なんかに興味を持っているわけじゃないし、それは嘘なんかついていない……ほっとした気分で手に持った扇を使って軽く火照りそうな頬を冷やす。
あー、恥ずかしかった……もしこのくだらない装置でわたくしですらよくわかっていないクリスへの気持ちに白黒つけられてしまったら、と思うと本当にゾッとする。
「まあ地位を目当てにするような女ではなかろう、そうであったならもう少し上手いやり方を考えるはずだ……そろそろ時間だな、今回はこれまでとしよう」
「娘を下らない査問で呼び止めた……これでいいのだな?」
誰もいなくなった部屋に残っていたアンダース・マルムスティーンは、頭を垂れるハルフォード公爵にそう告げる。
無理筋である二度目の査問、だがこの行動に意味がなかったわけではない……顔をあげたハルフォード公爵はにっこりと笑ってからアンダースへと説明するように話し始める。
どことなくハルフォード公爵の微笑みには作られたような何かが浮かんでいるが、アンダースはそれには気が付かなかったふりをして手元にあったゴブレットからワインを口に含む。
クレメント・インテリペリ辺境伯を行動不能にする……そのため襲撃を計画しているが、彼は剣の達人であり真正面から向かっても返り討ちに会うことが容易に想像できたため、回りくどいやり方だがあえて二度目の査問で娘を呼び出した。
「はい、殿下……娘が査問を受けているということでクレメントの意識はそちらに取られているでしょう……彼を誘き出してから襲撃し行動不能にします」
「……はあ……それで今回はどういったご質問を……」
今わたくしは多数のおじさまに囲まれた状態で椅子に座らされているが……周りを見てもお父様くらいの年代の男性が多く味方になりそうな貴族はいそうにないなと、心の中で軽くため息をついてしまう。
真正面に座っているのは第一王子アンダース・マルムスティーン殿下……そしてその脇にマルキウス・ロブ・ハルフォード公爵とバンデルフ・ライオット侯爵が固め、そこから少し離れた位置に宰相であるアーヴィング・イイルクーンが座っている。
それ以外の席には様々な貴族達が座っている……スティールハート侯爵、ベッテンコート侯爵、マンソン伯爵にレーサークロス子爵……唯一味方になりそうな人物は端っこの方でつまらなさそうな顔をしているメレディス・スコーピオンズ女伯爵くらいか。
「どうした、何故キョロキョロしている?」
「あ、申し訳ありません……見事なくらいに一方的な人選なので驚いていたのですわ」
アンダース殿下が周りを見ていた私に少し不機嫌そうな表情で話しかけてくるが、多少は皮肉くらいぶつけても構わないだろうと判断して憎まれ口を叩いてみる。
その言葉に殿下は少し驚いたような表情を浮かべつつも、相当にツボに入ったのかクスクス笑い出す……まあこの反応を見る限り、本人もそれほど乗り気ではないか、それとも面倒なのかどちらかだろうな。
それを見たハルフォード公爵は眉を顰めてから、何度か咳払いをして殿下の笑いを無理やり封じるとわたくしを睨みつける。
「令嬢は今の状況がわかっていない様だな、少しは従順な態度を取りたまえ」
「……善処致しますわ」
ぷい、と別の方向に顔を向けてから答えるとハルフォード公爵だけでなくベッテンコート侯爵も苦々しい表情を浮かべてわたくしを睨みつける。
まあこの程度で怯むようなヤワな令嬢ではございませんのよ? とばかりに持参した扇を軽く広げて口元を隠して見せるが……この仕草はプリムローズ様のやり方を真似て見ているが、結構煽りに使えるなあ。
別の方向からクスクス笑い声が聞こえてくるが、その声はスコーピオンズ女伯爵のものだったため、さらに第一王子派の貴族達が舌打ちをしたり、イライラしているのか机を指でコツコツ叩く音が聞こえる。
やれやれといった表情を浮かべたアーヴィング様が何らかの書状を手に私に向かって語りかけてきた。
「では……今現在シャルロッタ・インテリペリ嬢には複数の嫌疑がかけられている、一つ幻獣ガルムを長年王国に虚偽の情報にて報告してきた隠蔽の罪、二つその契約したガルムが侮辱を行った罪、三つ悪魔の召喚を行い他者を堕落させた罪」
「全部否認しますわ、わたくし後ろ暗いことは何もしておりませんの」
「……だそうだが? ベッテンコート侯爵、何か言うことはあるか?」
「魔導機関による鑑定を実施していただきたい、虚偽を判定しそれを持ってシャルロッタ嬢が魔女であることを証明する」
魔法による鑑定……この王国には魔導機関という魔力で動く機械文明が発達しているが、この場合はいわゆる嘘発見器に当たる機械を使うことを示している。
「審問の瞳」と呼ばれるその機械はわたくしが聞いたことのある嘘発見器と違い、魔力の波を測定してほぼ一〇〇パーセントの確率で嘘を暴くという。
領地でも使用されていて他の魔導機関などと違い非常に小型で洗練された作りをしている見た目なので、おそらく相当に腕の良い魔導機関技師が制作したんだろうなと思っていた。
会場にワゴンに乗せられた少し無骨な箱のような機械が持ち込まれてくる……審問の瞳は四角い箱の上に小さな宝石と羽が取り付けられた簡素なもので、箱の側面から鑑定をする相手に接続する管の様なものが伸びており、その管の終端には小さな竜の顔を模した模型の様なものが取り付けられている。
いつ見てもこの竜の顔……あんまり格好良くないのよね、もう少し作りをよくしたらいいのに……と全然関係ないことを考えてしまい、あまり緊張すらせずに涼しい顔をしている私を見て、アンダース殿下も感心したような視線を送ってくる。
「……緊張せんのか? 普通はこの機械を見て多少は怯えたりするものが多いが……」
「後ろ暗いことはありませんので……緊張のしようがございませんわ」
「フフフッ……やはりお前はクリストフェルには勿体無い女だな、手に入れたくなる」
「……殿下! 恐れ多くもこのような魔性の女を手に入れたいなどと……そんなこと申されるな」
「わかったわかった……さあ始めようか」
王室付きの侍女たちが私の手にその竜の顔を模した模型を取り付けると、わたくしの体に不思議な魔力が圧力のように加わる……ふむ、接続されて理解したけど魔力の波長を読み取って虚偽解答をした精神の揺らぎを検知する様になってるのね。
よく出来ているけど魔力が強いものや、本当にわたくしが悪魔の手先なら誤魔化せてしまいそうな気がするな……まあ普通の犯罪者を裁くにはこの程度で十分ということだろうか。
「では質問を開始する……シャルロッタ嬢、君はプリムローズ・ホワイトスネイクと揉めたそうだが本当か?」
「はぁ……揉めたというより一方的に敵視されただけですわ」
審問の瞳の羽は動かない……まあ、実際本当のことを言っているのだから当たり前なんだけど、それでもほんの少しだけ一応安心してしまう。
わたくしが返答を行なってもピクリともしない機械の羽を見て、軽く舌打ちをするとベッテンコート侯爵は再びアーヴィング様へと続ける様に促す。
「ゴホン……では次だ、ガルムの情報をどうして偽装したのか?」
「報告はお父様……いえ、インテリペリ辺境伯より行なっているため報告書はわたくしも拝見したことはございません」
やはりピクリとも動かない……まあ、そりゃ後ろ暗いことなんかあんまりないし、そもそも報告書の内容なんかわたくしに見せてもくれないのだから何送ったのか知らなくても当然なんだよ。
あまりに反応しない審問の瞳を軽く小突いていたベッテンコート侯爵だが、苦々しげな表情で私へと視線を移す。
その瞬間、背中にゾクッとした怖気が走る……こいつ、嫌な匂いをさせている……この侯爵自身は何か強力な能力を保持しているようには見えない。
だけどその背後には少し前に感じた視線、訓戒者の赤い瞳を思い返させる何かがこちらを見ている気がした。
「……嫌な気配ですわね……」
「何か言ったか? では次だ……クリストフェル第二王子殿下をたぶらかしたお前は、この国家転覆を狙っているのではないか?」
「そんな恐れ多いことは考えておりませんわ……わたくし今の生活気に入っておりますのよ?」
羽の反応はない……だがちょっとだけ自分が今のこのご令嬢生活のことをちゃんと気に入っている、とも取れる自分の発言に内心少しだけ陰鬱な気分にさせられる。
いや、なんだろう……わたくし前世まで男性だったのに、改めて女性である生活を気に入っているとかこういう嘘をつけない装置で改めて再認識しなきゃいけないとかどういう罰ゲームなんだろう……。
うーん、いやいや質問はクリスを扇動しているという話であって、シャルロッタ・インテリペリという一人の女性であることに満足しているのか、という問いではなかったんだから仕方ないよね。
「……ではお前はクリストフェル殿下を婚約者として愛しているのか? それとも地位を目当てに婚約を望んだのか?」
「……え、ちょ……そ、それって今関係あります?」
いきなりそんな質問をブッ込まれたわたくしは、内心心臓が飛び出そうな気分にさせられる……いや、ちょっと待って……地位を目当てに婚約をしたわけじゃない、だけどクリスのことをわたくしが愛している?
その質問はまずい……クリスのことは好き……なのだけど、愛しているか? と言われるとわたくしは正直よくわからない、としか答えようがない。
貴族同士の婚約って愛情が全てではないって話も聞くし、好きじゃない男性と結婚する貴族令嬢も多数存在しているとも言われている。
だけど……この質問形式だと羽が動いちゃうと、地位を目当てに婚約したことになっちゃうし、動かなければわたくしがクリスのことをちゃんと愛している、という表現にもつながってしまう……それはわたくしのアイデンティティの危機ではないか!
いやいやちょっとそりゃないわ……と私は侯爵の方をチラリと見るが、侯爵は早く答えろよと言わんばかりの表情でふんぞり返っている。
「……えっと、質問をもう一度おっしゃっていただけますか?」
「……クリストフェル殿下をお前は愛しているのか? それとも地位を目当てにする売女か、という質問だ」
「……わたくし別に地位は求めておりませんわよ?」
羽は動かない……よおおっしゃあ! この返答ならわたくしの自尊心も保たれるし、羽も動くわけがない。
そもそもわたくしは別に地位や名誉なんかに興味を持っているわけじゃないし、それは嘘なんかついていない……ほっとした気分で手に持った扇を使って軽く火照りそうな頬を冷やす。
あー、恥ずかしかった……もしこのくだらない装置でわたくしですらよくわかっていないクリスへの気持ちに白黒つけられてしまったら、と思うと本当にゾッとする。
「まあ地位を目当てにするような女ではなかろう、そうであったならもう少し上手いやり方を考えるはずだ……そろそろ時間だな、今回はこれまでとしよう」
「娘を下らない査問で呼び止めた……これでいいのだな?」
誰もいなくなった部屋に残っていたアンダース・マルムスティーンは、頭を垂れるハルフォード公爵にそう告げる。
無理筋である二度目の査問、だがこの行動に意味がなかったわけではない……顔をあげたハルフォード公爵はにっこりと笑ってからアンダースへと説明するように話し始める。
どことなくハルフォード公爵の微笑みには作られたような何かが浮かんでいるが、アンダースはそれには気が付かなかったふりをして手元にあったゴブレットからワインを口に含む。
クレメント・インテリペリ辺境伯を行動不能にする……そのため襲撃を計画しているが、彼は剣の達人であり真正面から向かっても返り討ちに会うことが容易に想像できたため、回りくどいやり方だがあえて二度目の査問で娘を呼び出した。
「はい、殿下……娘が査問を受けているということでクレメントの意識はそちらに取られているでしょう……彼を誘き出してから襲撃し行動不能にします」
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