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第八〇話 シャルロッタ 一五歳 暴力の悪魔 一一
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「ワーボス神は言いました、人間は死ぬ以外に価値がありません、価値なきものは命を投げ出しましょう」
「ああ、もう……うるせえなっ!」
エルネットの一撃をダルランは左腕で受け止める……ガキャーン! という金属同士がぶつかり合うような音を立てて斬撃を受け止めた悪魔は、右腕を目の前のエルネットに向かって振るう。
だがエルネットは左手に持った円形盾を使って受け止める……凄まじい衝撃と恐ろしい重さがエルネットの体にのしかかり、ミシミシと鈍い痛みが左腕に響く。
だが、そこへトビアスがエルネットを押し潰そうとするダルランの左腕へと大剣を叩きつける……その一撃でダルランが大きくバランスを崩して片膝をついた。
「うぐ……リリーナッ!」
「あいよ! デヴィット合わせて!」
リリーナの言葉に合わせて片膝をついたダルランの顔面に爆発が巻き起こる……その爆発に合わせて冒険者達は再び道を走り始める……すでに数回に及ぶ激突で、同じ戦法を使っての足止めができている。
だが……いつかは物資は切れる、矢も残り少ない……このままではジリ貧だな、とエルネットは考えながら鈍く痛みを発する左腕を軽くさするが、触れただけで鋭い痛みが走り顔を顰めてしまう。
大きく息を吐きながらエルネットは懐から小さな小瓶を取り出すと一気に飲み干す……先ほどの一撃で左腕に鈍い痛みが走っていた、骨にヒビくらいは入っているのかもしれない。
鈍い痛みに顔を顰めるエルネットを見て、彼の隣にリリーナが走り寄ってきて心配そうな目を向けてくるが……彼は苦笑いを浮かべてから大丈夫だと言わんばかりにリリーナの肩にそっと手を当てる。
「……大丈夫だ、少し痛めだだけだよ……レッサードラゴンよりタチ悪いな……」
「逃げ切れると思う?」
「このまま逃げても無理だろうな、どこかで立ち向かわないと……」
「しかしあの再生能力は厄介ですな……それと光線に音を立てている剣も……」
エミリオの言葉に全員が頷く……白い稲妻と暴力の悪魔は話していたが、あの強力な攻撃は盾で受けることはできないだろう。
そして轟音を上げながら刃が回転している恐ろしい武器……移動の邪魔になっている木を一撃で破壊するほどの威力がある巨大な剣を片手で軽々と振り回すような化け物だ。
リリーナは走りながら懐から小さな木の笛を取り出すとじっとそれを見つめる……。
『……本当にどうにもならないとか、危ない時に吹いてください、それ以外の時に吹かれるとちょっと困っちゃうんですけど……でもこれを使わない事件であることを祈ってます』
シャルロッタは何かしらの考えのもとに笛を渡してきている……彼女の見立て通りこの場で暴れていたのは悪魔だった……すでに予想は最悪の方向へと進みつつあり、彼らは一時的な足止めは何とかできているものの後退を続けている。
決定的に戦闘力には差があり、このままだと追いつかれて全員が死ぬ……リリーナの脳裏にエルネット達が無惨に体を切り裂かれて倒れている光景が浮かぶ。
恐怖とそして何とかしてでもこの窮地を脱しなければいけないという気持ちで、走りながらゆっくりと口元に笛を運んでいくが、その手をエルネットの傷だらけの手が掴んで止める。
「まだだ、俺たちはまだ負けてない……シャルロッタ様に縋るのは最後だ」
「で、でも……」
「あの頭に何度も攻撃していて……頭にはダメージが入っている気がする、だから頭を潰せばもしかしたら……」
エルネットが軽く後ろを見ると、ゆっくりとだが確実にダルランの巨体がこちらを追いかけて歩いているのが見えている……正確にこちらを追跡してきているのを見るとあの悪魔はこちらの足跡などを捉えて追いかけてきているのだろう、単なる戦闘能力だけでない捕食者としての能力を有しているのだ。
全員が立ち止まるとエルネットは懐を軽く探り、片手に赤い液体の入った小さな小瓶を取り出す。
これには発火性の液体が入っており、一度衝撃を与えると色が変わって黒色へと変化し二度目の衝撃で内部から炎を吐き散らす焼夷瓶と呼ばれる戦争用の武器だ。
「うん、大丈夫まだ衝撃が加わっていないから使えるな」
「はあはあ……焼夷瓶とは用意がいい……な」
トビアスが軽く息を整えながらエルネットの手に握られた小瓶を見つめる……戦争ではこの小瓶に多くの兵士が焼き殺されている。
もう数十年前……イングウェイ王国と近隣の小国であるオズボーン王国で起きた国境紛争にトビアスは従軍したことがあり、そこでオズボーン王国の特殊部隊がこの小瓶を使うところを見た。
液体には炎の魔力が宿っており、粘液の体を持つスライムの死体などを混ぜて作るのだが二度目の衝撃で発生する炎は肉体を焼き尽くすまで消えることがない。
「ちょっと前にオズボーン王国から来たっていう商人から買ったんだ……高かったけど、一度こいつのおかげで命を拾っててね」
「そうか……ワシはそれに仲間を焼き尽くされた思い出しかないが、しのごの言っておれんな」
記憶の片隅に炎に包まれながら耐え難い苦痛で、人とは思えない悲鳴を上げ続ける兵士の姿を思い出して少し眉を顰めるトビアスだったが、今はこの武器があの巨体を持つ悪魔に通用することを祈るしかない。
大きく息を吸い、そして吐き出して息を整えるとトビアスはエルネットの目をじっと見つめる……エルネットはその視線の意味がわからず不思議そうな顔をしていたが、いきなり老人は彼の手から瓶をひったくる。
「あ、おい……! 何してんだ、返せよ!」
「……お前らは逃げろ、ワシ一人で食い止める」
「は? 今更何言って……準男爵一人じゃ勝てないだろう?!」
「さっきの攻撃でお前は腕を痛めたな? それじゃむざむざ死にいくようなものだ」
トビアスはエルネットの左腕……盾を持つ手が小刻みに震えている腕を指さすと、彼は慌てて震えを止めようと腕を押さえるが……余計に痛みが増したのか呻き声と共に顔を顰める。
そんな彼の顔を見てやれやれ……と肩をすくめたトビアスはそっとエルネットの額に手を当てるが、すでに熱が上がり始めており、彼の左腕の骨が折れていることがわかっていた。
ダルランの一撃はエルネットの戦闘能力の大半を奪っている……彼が焼夷瓶を取り出したのは次の攻撃は受けきれない、という判断によるものなのだ。
「ダメだ準男爵……俺はさっき痛み止めのポーションを飲んでいる……すぐに元に戻るよ……」
「……痛み止めじゃすぐに痛みはぶり返すだろう? 戦力にはならん」
「なん……そんなことは……」
「ここから先は老人だけの特権、お前が年寄りになったら参加も認めてやるがな……まだまだ雛鳥だ」
トビアスは少しだけ微笑を浮かべるとリリーナに顎で行け、と促す……その目を見てリリーナは一度頷くと、エミリオに目配せをする。
それに反応したエミリオは、エルネットを押さえつけるように抱えると軽々とその体を持ち上げて一目散に逃走経路を走り始め、それに反応したデヴィットもエミリオの後について走り始める。
エルネットは言葉にならない悲鳴のような声をあげているが、エミリオは気にも止めずに走っていってしまう……。
リリーナは一度トビアスに頭を下げると、何も言わずにエミリオ達の後を追いかけていくが……トビアスの目には彼女の目には少し光るものが見えた気がした。
大剣を担ぎ直すとトビアスは少し震える手を眺めながら、規則正しいダルランの音が近づいてくるのを見て自重気味に笑う。
「……すまんのう……ディルクや……じいじはお前に生まれて初めての嘘をついてしまったようじゃよ……」
「——待ち伏せ確認……生命体反応一体……思考……」
ダルランの感覚にすでにかなり離れている場所を走っている複数の人間と、息を潜めているが緊張した呼吸している人間を感知し悪魔は思考のために立ち止まる。
過去の記録から人間はこのような行動もすることを理解しているが、一人で悪魔に立ち向かうのは愚者の思考でしかない。
フォーン、フォーンという音を立てながらダルランは鎖鋸剣を無造作に構える……暴力の悪魔には技という概念が無い、剣も振り回すだけ……だがその一撃は並の戦士では受け止めきれない。
「ワーボス神は言いました、勝つために知恵を絞る人間の行動は無意味です……諦めて命を捨てましょう」
「そうかい……ならワーボスに告げろ、人間はそこまで弱く無いってな」
その瞬間にダルランの視界に小さな何かがぶつかるが、次の瞬間に小瓶が炸裂し大爆発を引き起こす……あまりの衝撃に悪魔の上体がそり返る。
重い鎧を着ているとは思えないほどの速度で大剣を構えたトビアスが飛び込んでくる……ダルランが上体を起こそうとしたその顔に向かって、全力で横凪の斬撃を叩き込む。
ドガシャーン! という金属と金属が衝突する凄まじい爆音と共にトビアスは全力で剣を振り抜こうとする……が、それ以上に剣が進まない……あまりに巨大な金属の塊を切り裂かんとしているかの如く、腕の筋肉がはち切れそうになる。
「無駄です、ワーボス神の眷属である暴力の悪魔に人間は立ち向かえません」
「うぐあっ……」
いきなりダルランの手が横から伸びると、トビアスの顔面を思い切り掴む……ギリリと締め付けられる痛みで剣を取り落とした彼の前に、悪魔は右手に構えた鎖鋸剣を見せつけるように構える。
ドルゥン! という鈍い音と共に刀身の鋸状の刃が高速で回転していく……ゆっくりとダルランはその刀身を水平に構えるとトビアスが着用している鎧の上からゆっくりとその刀身を突き刺していく。
金属が断ち切られる音と共に、回転する刃がゆっくりと肉を引き裂いて血飛沫と激しい苦痛……辺りに響く凄まじい絶叫を上げながらトビアスの体がビクビクと震え、ダルランの視界を真っ赤に染めていく。
「苦痛は幸せです、痛みはワーボス神への供物です……人間はくだらない生き物です、血反吐を吐いて苦しみながら死にましょう……」
「ああ、もう……うるせえなっ!」
エルネットの一撃をダルランは左腕で受け止める……ガキャーン! という金属同士がぶつかり合うような音を立てて斬撃を受け止めた悪魔は、右腕を目の前のエルネットに向かって振るう。
だがエルネットは左手に持った円形盾を使って受け止める……凄まじい衝撃と恐ろしい重さがエルネットの体にのしかかり、ミシミシと鈍い痛みが左腕に響く。
だが、そこへトビアスがエルネットを押し潰そうとするダルランの左腕へと大剣を叩きつける……その一撃でダルランが大きくバランスを崩して片膝をついた。
「うぐ……リリーナッ!」
「あいよ! デヴィット合わせて!」
リリーナの言葉に合わせて片膝をついたダルランの顔面に爆発が巻き起こる……その爆発に合わせて冒険者達は再び道を走り始める……すでに数回に及ぶ激突で、同じ戦法を使っての足止めができている。
だが……いつかは物資は切れる、矢も残り少ない……このままではジリ貧だな、とエルネットは考えながら鈍く痛みを発する左腕を軽くさするが、触れただけで鋭い痛みが走り顔を顰めてしまう。
大きく息を吐きながらエルネットは懐から小さな小瓶を取り出すと一気に飲み干す……先ほどの一撃で左腕に鈍い痛みが走っていた、骨にヒビくらいは入っているのかもしれない。
鈍い痛みに顔を顰めるエルネットを見て、彼の隣にリリーナが走り寄ってきて心配そうな目を向けてくるが……彼は苦笑いを浮かべてから大丈夫だと言わんばかりにリリーナの肩にそっと手を当てる。
「……大丈夫だ、少し痛めだだけだよ……レッサードラゴンよりタチ悪いな……」
「逃げ切れると思う?」
「このまま逃げても無理だろうな、どこかで立ち向かわないと……」
「しかしあの再生能力は厄介ですな……それと光線に音を立てている剣も……」
エミリオの言葉に全員が頷く……白い稲妻と暴力の悪魔は話していたが、あの強力な攻撃は盾で受けることはできないだろう。
そして轟音を上げながら刃が回転している恐ろしい武器……移動の邪魔になっている木を一撃で破壊するほどの威力がある巨大な剣を片手で軽々と振り回すような化け物だ。
リリーナは走りながら懐から小さな木の笛を取り出すとじっとそれを見つめる……。
『……本当にどうにもならないとか、危ない時に吹いてください、それ以外の時に吹かれるとちょっと困っちゃうんですけど……でもこれを使わない事件であることを祈ってます』
シャルロッタは何かしらの考えのもとに笛を渡してきている……彼女の見立て通りこの場で暴れていたのは悪魔だった……すでに予想は最悪の方向へと進みつつあり、彼らは一時的な足止めは何とかできているものの後退を続けている。
決定的に戦闘力には差があり、このままだと追いつかれて全員が死ぬ……リリーナの脳裏にエルネット達が無惨に体を切り裂かれて倒れている光景が浮かぶ。
恐怖とそして何とかしてでもこの窮地を脱しなければいけないという気持ちで、走りながらゆっくりと口元に笛を運んでいくが、その手をエルネットの傷だらけの手が掴んで止める。
「まだだ、俺たちはまだ負けてない……シャルロッタ様に縋るのは最後だ」
「で、でも……」
「あの頭に何度も攻撃していて……頭にはダメージが入っている気がする、だから頭を潰せばもしかしたら……」
エルネットが軽く後ろを見ると、ゆっくりとだが確実にダルランの巨体がこちらを追いかけて歩いているのが見えている……正確にこちらを追跡してきているのを見るとあの悪魔はこちらの足跡などを捉えて追いかけてきているのだろう、単なる戦闘能力だけでない捕食者としての能力を有しているのだ。
全員が立ち止まるとエルネットは懐を軽く探り、片手に赤い液体の入った小さな小瓶を取り出す。
これには発火性の液体が入っており、一度衝撃を与えると色が変わって黒色へと変化し二度目の衝撃で内部から炎を吐き散らす焼夷瓶と呼ばれる戦争用の武器だ。
「うん、大丈夫まだ衝撃が加わっていないから使えるな」
「はあはあ……焼夷瓶とは用意がいい……な」
トビアスが軽く息を整えながらエルネットの手に握られた小瓶を見つめる……戦争ではこの小瓶に多くの兵士が焼き殺されている。
もう数十年前……イングウェイ王国と近隣の小国であるオズボーン王国で起きた国境紛争にトビアスは従軍したことがあり、そこでオズボーン王国の特殊部隊がこの小瓶を使うところを見た。
液体には炎の魔力が宿っており、粘液の体を持つスライムの死体などを混ぜて作るのだが二度目の衝撃で発生する炎は肉体を焼き尽くすまで消えることがない。
「ちょっと前にオズボーン王国から来たっていう商人から買ったんだ……高かったけど、一度こいつのおかげで命を拾っててね」
「そうか……ワシはそれに仲間を焼き尽くされた思い出しかないが、しのごの言っておれんな」
記憶の片隅に炎に包まれながら耐え難い苦痛で、人とは思えない悲鳴を上げ続ける兵士の姿を思い出して少し眉を顰めるトビアスだったが、今はこの武器があの巨体を持つ悪魔に通用することを祈るしかない。
大きく息を吸い、そして吐き出して息を整えるとトビアスはエルネットの目をじっと見つめる……エルネットはその視線の意味がわからず不思議そうな顔をしていたが、いきなり老人は彼の手から瓶をひったくる。
「あ、おい……! 何してんだ、返せよ!」
「……お前らは逃げろ、ワシ一人で食い止める」
「は? 今更何言って……準男爵一人じゃ勝てないだろう?!」
「さっきの攻撃でお前は腕を痛めたな? それじゃむざむざ死にいくようなものだ」
トビアスはエルネットの左腕……盾を持つ手が小刻みに震えている腕を指さすと、彼は慌てて震えを止めようと腕を押さえるが……余計に痛みが増したのか呻き声と共に顔を顰める。
そんな彼の顔を見てやれやれ……と肩をすくめたトビアスはそっとエルネットの額に手を当てるが、すでに熱が上がり始めており、彼の左腕の骨が折れていることがわかっていた。
ダルランの一撃はエルネットの戦闘能力の大半を奪っている……彼が焼夷瓶を取り出したのは次の攻撃は受けきれない、という判断によるものなのだ。
「ダメだ準男爵……俺はさっき痛み止めのポーションを飲んでいる……すぐに元に戻るよ……」
「……痛み止めじゃすぐに痛みはぶり返すだろう? 戦力にはならん」
「なん……そんなことは……」
「ここから先は老人だけの特権、お前が年寄りになったら参加も認めてやるがな……まだまだ雛鳥だ」
トビアスは少しだけ微笑を浮かべるとリリーナに顎で行け、と促す……その目を見てリリーナは一度頷くと、エミリオに目配せをする。
それに反応したエミリオは、エルネットを押さえつけるように抱えると軽々とその体を持ち上げて一目散に逃走経路を走り始め、それに反応したデヴィットもエミリオの後について走り始める。
エルネットは言葉にならない悲鳴のような声をあげているが、エミリオは気にも止めずに走っていってしまう……。
リリーナは一度トビアスに頭を下げると、何も言わずにエミリオ達の後を追いかけていくが……トビアスの目には彼女の目には少し光るものが見えた気がした。
大剣を担ぎ直すとトビアスは少し震える手を眺めながら、規則正しいダルランの音が近づいてくるのを見て自重気味に笑う。
「……すまんのう……ディルクや……じいじはお前に生まれて初めての嘘をついてしまったようじゃよ……」
「——待ち伏せ確認……生命体反応一体……思考……」
ダルランの感覚にすでにかなり離れている場所を走っている複数の人間と、息を潜めているが緊張した呼吸している人間を感知し悪魔は思考のために立ち止まる。
過去の記録から人間はこのような行動もすることを理解しているが、一人で悪魔に立ち向かうのは愚者の思考でしかない。
フォーン、フォーンという音を立てながらダルランは鎖鋸剣を無造作に構える……暴力の悪魔には技という概念が無い、剣も振り回すだけ……だがその一撃は並の戦士では受け止めきれない。
「ワーボス神は言いました、勝つために知恵を絞る人間の行動は無意味です……諦めて命を捨てましょう」
「そうかい……ならワーボスに告げろ、人間はそこまで弱く無いってな」
その瞬間にダルランの視界に小さな何かがぶつかるが、次の瞬間に小瓶が炸裂し大爆発を引き起こす……あまりの衝撃に悪魔の上体がそり返る。
重い鎧を着ているとは思えないほどの速度で大剣を構えたトビアスが飛び込んでくる……ダルランが上体を起こそうとしたその顔に向かって、全力で横凪の斬撃を叩き込む。
ドガシャーン! という金属と金属が衝突する凄まじい爆音と共にトビアスは全力で剣を振り抜こうとする……が、それ以上に剣が進まない……あまりに巨大な金属の塊を切り裂かんとしているかの如く、腕の筋肉がはち切れそうになる。
「無駄です、ワーボス神の眷属である暴力の悪魔に人間は立ち向かえません」
「うぐあっ……」
いきなりダルランの手が横から伸びると、トビアスの顔面を思い切り掴む……ギリリと締め付けられる痛みで剣を取り落とした彼の前に、悪魔は右手に構えた鎖鋸剣を見せつけるように構える。
ドルゥン! という鈍い音と共に刀身の鋸状の刃が高速で回転していく……ゆっくりとダルランはその刀身を水平に構えるとトビアスが着用している鎧の上からゆっくりとその刀身を突き刺していく。
金属が断ち切られる音と共に、回転する刃がゆっくりと肉を引き裂いて血飛沫と激しい苦痛……辺りに響く凄まじい絶叫を上げながらトビアスの体がビクビクと震え、ダルランの視界を真っ赤に染めていく。
「苦痛は幸せです、痛みはワーボス神への供物です……人間はくだらない生き物です、血反吐を吐いて苦しみながら死にましょう……」
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