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第五一話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 二一
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「このビヘイビアにおける迷宮核はこれね……」
肉欲の悪魔オルインピアーダは目の前に浮かぶ巨大な結晶を見て、感心したように笑う。
ビヘイビアの最深部第七階層の最奥に位置する巨大な部屋、いわゆる迷宮核が設置された最後の部屋には今オルインピアーダ以外の存在は見当たらない。
魔力を凝縮した核は迷宮の通常最深部に設置され、各階層に門を出現させて内部へと魔物を出現させていく。
形状は平面を持たない多面結晶体となっており、発する魔力により表面には複雑怪奇な色彩が表現されている……別の世界では偏四角多面体と呼ばれる混沌の物体でもある。
「美しい色ねえ……でも私が知っている核はもっと美しいものも存在していたわ、だからここはちょっと濁っているわね」
この世界における迷宮には、その属性に応じて傾向と難易度が存在すると公式に認められている。
このビヘイビアにおいては人間型の亜人、つまりコボルトやゴブリン、ホブゴブリンなどの魔物が出現することが知られており、一定時間が経過することで魔物の数がある一定数になるように調整されている。
王都に一番近く、そして初級冒険者の訓練などにも使われる迷宮と呼ばれるのはそのためだ。
知能がある程度高く集団で襲いかかってくるゴブリンへの対処などが学習でき、それでいて戦闘能力はそれほど高くない……まあ下層階に出現するホブゴブリンやオーガなどは一筋縄では行かないが、それらを対処できるならば中級冒険者への道が待っているとも言われている。
なお原理はよくわかっていないが、構造上この核を破壊しない限り魔物の増殖は止まることがない。
しかし核の破壊は迷宮自体の無力化に繋がることが知られており、冒険者による破壊は禁じられている。
とはいえ通常の人間による核の破壊は難しい……魔法や武器による攻撃をほとんど受け付けない上に、歴史的にも破壊に成功したのは勇者アンスラックスのみとされている。
結果的に冒険者という職業が公式に認められていることからも、大陸における共有財産として迷宮の保全と管理は所有している国家が責任を持つという盟約が存在しているのだ。
間引きなどの管理さえきちんと行なっておけば迷宮から魔物が溢れ出すこともないため、通常は最深部まで到達する冒険者は存在していない。
間引きを行わない迷宮は、最終的に大暴走と呼ばれる魔物の暴走を引き起こすことがあるが、ビヘイビアにおいては過去に数回しか記録されていない。
また、迷宮にはボス級の魔物が存在しており核前の部屋で侵入者を待ち構えているが、核への到達に意味がないことから、ビヘイビアにボス部屋が存在していることを知らないものすらいるという。
「さて閣下に命じられたのはこの核に魔力を注いで暴走させるって話だけど……それほど注ぐこともなさそうね」
目の前に浮かぶ結晶は不規則な明滅を繰り返しているが、混沌神の眷属肉欲の悪魔であるオルインピアーダの目には核が溜め込んでいる魔力はかなりの状況であることが理解できる。
どうやら冒険者達は浅い階層の間引きは熱心に行なっているようだが、深い階層まではなかなか足を運べていないようだ……その影響なのか核が生み出す魔力と、異世界から魔物を引き込む力は非常に大きくなっており、ほんの少し手を加えることで容易に大暴走が引き起こせるようなそんな状況になりつつある。
「殿方のアレと一緒でイっちゃうときはあっという間なのよね……ほらぁ、早くあなたの全部出しちゃいなさい……」
軽く腕を振るって手のひらへと魔力を集中させていく……彼女の魔力ではなく媒介として契約者の持つ莫大な魔力を誘導すれば容易に暴走状態が作り上げられるだろう。
ホワイトスネイク侯爵令嬢プリムローズの持つ魔力は凄まじい、本人も意識はしていないだろうが確実に人類としての頂点に近いレベルの魔力をその小さな体の中に持っている。
とはいえ莫大な魔力を持っているだけで、使いこなせるかどうかは本人次第であり、結局のところ魔法使いとしての日頃の努力とちょっとしたきっかけが無ければ宝の持ち腐れになってしまうのだ。
「うふふ……有効活用してあげるわプリムローズ、あなたの魔力がこの迷宮に破滅をもたらすのよ」
「ほいっと……随分たくさん襲いかかってくるのねえ……」
わたくしが剣を振るたびに襲いかかってきたホブゴブリンの首と胴体が切り離され、少し暗い色をした血飛沫が上がっていく。第二階層を進んでいるわたくしの前に現れる魔物はそれほど脅威ではなく、ユルも楽ができるからと言う理由で背後からの襲撃にしか備えていない。
時折地面にドス黒い血液やホブゴブリンやゴブリンの死体が転がっているのは別の冒険者たちが倒したものなのだろうけど……それにしちゃ随分とわたくしに向かって活発な襲撃が何度も繰り返されている気がする。
「妙ですな……ホブゴブリンやゴブリンはそれほど勇敢な魔物ではありません、何かに追い立てられているような印象があります」
「オウルベアの時みたいな感じですわね……」
足元の方からずっと強い波動のようなものを感じて正直にいえば少し気分が悪くなっている、定期的に波のような魔力を当てられ続けているため船酔いに近い状態になっているのだ。
この魔力の波動、それが魔物をより凶暴に、より活性化させているのは間違いない……つまり大暴走はもはや目の前に迫ってきているのだ。
右手の不滅がぼんやりとした光で明滅している……それと同時にわたくしの眼前に複数の巨大なオーガが吠え声を上げながら歩みでる。
「オーガ? この階層に出ないって話だったけど……下から上がってきてるのかしら」
オーガの手にはちぎれた誰かの腕が握られており、魔物はそれをスナック感覚で齧りながらわたくしを見てニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべている。
この魔物は人を喰う……食人鬼の名は飾りではなく人やそれに類する生物の血肉を食らう。そしてそれなりに知能が高いことでも知られ、野外などで遭遇すると初級冒険者では対応が難しい。
まあ迷宮に出てくるようなやつはそこまで厄介ではないだろうけど、それでも黙って立っているわたくしを見て明らかに馬鹿にしたかのような顔で嗤っている。
「……このクソ雑魚がッ」
わたくしが放った斬撃が口元を歪めたままのオーガの首と胴体を一瞬で切り離す……多分この個体は何が起きたのか理解できないだろうけどね。
いきなり隣に立っていた個体が首を切り離されてぶっ倒れたのに驚いたのか、吠え声をあげて騒ぎ始めるオーガ達だったが、次の瞬間には距離を詰めたわたくしの斬撃で細切れになっていく。
通路に血飛沫と地面に肉塊が落ちるドシャドシャ、と言う音だけが響く中、わたくしは軽く剣を振るって刃についた血を払う。
「……割と強いオーガのような気もしましたけどね……シャルにかかると子供扱いですな」
「まあ、この程度ならば……それよりエルネットさん達を見てないけど、大丈夫かしらね」
「かなり奥に進んでいるようですな……微かにですがこの辺りには匂いがしています、この先からも匂いがしておりますね」
「さっきの腕は彼らのではないってことか、まだ生きてるかしら」
わたくしの問いにユルが黙って頷く……なら助けないとな、前世でも助けたいと思っていた人たちが次々と倒れていく場面をよく見ている、そしてわたくし自身が助けられたことだってある。
それにエルネットさんが向けてくれている好意というのはそれほど悪くないと思う……いや、女性としてとかではなく冒険者仲間への気遣いなども含めて彼はとても気持ちの良い人間なんだろうな、と言う意味での好意だ。
……あんなに人に気遣いができる人がこんな場所で死んでしまうのは良くないと思うし、リリーナさんが悲しむ姿はあまり見たくないかな。
「良いのですか? もし貴女の力がバレてしまった場合、冒険者ロッテ……いやシャルロッタ・インテリペリが英雄となってしまう可能性もあります……そうなれば自由に行動ができなくなりますよ」
「それでも目に見える範囲の人は助けたいわ」
この世界においてわたくしはできるだけ仲間を作ることをしていない、と言うのも前世の勇者としての能力ははっきり言ってマルヴァースにおいては異質だからだ。
いや正確に言うのであればレーヴェンティオラでも異質ではあったが……これだけの戦闘能力を持っていると思われた場合、普通の人間は排除する方向に進むだろうしな。
ユルはわたくしの顔を見上げて軽く首を振ると、諦めたように軽くため息をつくと、口元を歪めて静かに笑う。
「承知しました、貴女は時折ひどく頑固になるし、不器用にもなりますな……ただ我は貴女のことを心よりお慕い申し上げております。ご命令とあらば従いましょう」
肉欲の悪魔オルインピアーダは目の前に浮かぶ巨大な結晶を見て、感心したように笑う。
ビヘイビアの最深部第七階層の最奥に位置する巨大な部屋、いわゆる迷宮核が設置された最後の部屋には今オルインピアーダ以外の存在は見当たらない。
魔力を凝縮した核は迷宮の通常最深部に設置され、各階層に門を出現させて内部へと魔物を出現させていく。
形状は平面を持たない多面結晶体となっており、発する魔力により表面には複雑怪奇な色彩が表現されている……別の世界では偏四角多面体と呼ばれる混沌の物体でもある。
「美しい色ねえ……でも私が知っている核はもっと美しいものも存在していたわ、だからここはちょっと濁っているわね」
この世界における迷宮には、その属性に応じて傾向と難易度が存在すると公式に認められている。
このビヘイビアにおいては人間型の亜人、つまりコボルトやゴブリン、ホブゴブリンなどの魔物が出現することが知られており、一定時間が経過することで魔物の数がある一定数になるように調整されている。
王都に一番近く、そして初級冒険者の訓練などにも使われる迷宮と呼ばれるのはそのためだ。
知能がある程度高く集団で襲いかかってくるゴブリンへの対処などが学習でき、それでいて戦闘能力はそれほど高くない……まあ下層階に出現するホブゴブリンやオーガなどは一筋縄では行かないが、それらを対処できるならば中級冒険者への道が待っているとも言われている。
なお原理はよくわかっていないが、構造上この核を破壊しない限り魔物の増殖は止まることがない。
しかし核の破壊は迷宮自体の無力化に繋がることが知られており、冒険者による破壊は禁じられている。
とはいえ通常の人間による核の破壊は難しい……魔法や武器による攻撃をほとんど受け付けない上に、歴史的にも破壊に成功したのは勇者アンスラックスのみとされている。
結果的に冒険者という職業が公式に認められていることからも、大陸における共有財産として迷宮の保全と管理は所有している国家が責任を持つという盟約が存在しているのだ。
間引きなどの管理さえきちんと行なっておけば迷宮から魔物が溢れ出すこともないため、通常は最深部まで到達する冒険者は存在していない。
間引きを行わない迷宮は、最終的に大暴走と呼ばれる魔物の暴走を引き起こすことがあるが、ビヘイビアにおいては過去に数回しか記録されていない。
また、迷宮にはボス級の魔物が存在しており核前の部屋で侵入者を待ち構えているが、核への到達に意味がないことから、ビヘイビアにボス部屋が存在していることを知らないものすらいるという。
「さて閣下に命じられたのはこの核に魔力を注いで暴走させるって話だけど……それほど注ぐこともなさそうね」
目の前に浮かぶ結晶は不規則な明滅を繰り返しているが、混沌神の眷属肉欲の悪魔であるオルインピアーダの目には核が溜め込んでいる魔力はかなりの状況であることが理解できる。
どうやら冒険者達は浅い階層の間引きは熱心に行なっているようだが、深い階層まではなかなか足を運べていないようだ……その影響なのか核が生み出す魔力と、異世界から魔物を引き込む力は非常に大きくなっており、ほんの少し手を加えることで容易に大暴走が引き起こせるようなそんな状況になりつつある。
「殿方のアレと一緒でイっちゃうときはあっという間なのよね……ほらぁ、早くあなたの全部出しちゃいなさい……」
軽く腕を振るって手のひらへと魔力を集中させていく……彼女の魔力ではなく媒介として契約者の持つ莫大な魔力を誘導すれば容易に暴走状態が作り上げられるだろう。
ホワイトスネイク侯爵令嬢プリムローズの持つ魔力は凄まじい、本人も意識はしていないだろうが確実に人類としての頂点に近いレベルの魔力をその小さな体の中に持っている。
とはいえ莫大な魔力を持っているだけで、使いこなせるかどうかは本人次第であり、結局のところ魔法使いとしての日頃の努力とちょっとしたきっかけが無ければ宝の持ち腐れになってしまうのだ。
「うふふ……有効活用してあげるわプリムローズ、あなたの魔力がこの迷宮に破滅をもたらすのよ」
「ほいっと……随分たくさん襲いかかってくるのねえ……」
わたくしが剣を振るたびに襲いかかってきたホブゴブリンの首と胴体が切り離され、少し暗い色をした血飛沫が上がっていく。第二階層を進んでいるわたくしの前に現れる魔物はそれほど脅威ではなく、ユルも楽ができるからと言う理由で背後からの襲撃にしか備えていない。
時折地面にドス黒い血液やホブゴブリンやゴブリンの死体が転がっているのは別の冒険者たちが倒したものなのだろうけど……それにしちゃ随分とわたくしに向かって活発な襲撃が何度も繰り返されている気がする。
「妙ですな……ホブゴブリンやゴブリンはそれほど勇敢な魔物ではありません、何かに追い立てられているような印象があります」
「オウルベアの時みたいな感じですわね……」
足元の方からずっと強い波動のようなものを感じて正直にいえば少し気分が悪くなっている、定期的に波のような魔力を当てられ続けているため船酔いに近い状態になっているのだ。
この魔力の波動、それが魔物をより凶暴に、より活性化させているのは間違いない……つまり大暴走はもはや目の前に迫ってきているのだ。
右手の不滅がぼんやりとした光で明滅している……それと同時にわたくしの眼前に複数の巨大なオーガが吠え声を上げながら歩みでる。
「オーガ? この階層に出ないって話だったけど……下から上がってきてるのかしら」
オーガの手にはちぎれた誰かの腕が握られており、魔物はそれをスナック感覚で齧りながらわたくしを見てニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべている。
この魔物は人を喰う……食人鬼の名は飾りではなく人やそれに類する生物の血肉を食らう。そしてそれなりに知能が高いことでも知られ、野外などで遭遇すると初級冒険者では対応が難しい。
まあ迷宮に出てくるようなやつはそこまで厄介ではないだろうけど、それでも黙って立っているわたくしを見て明らかに馬鹿にしたかのような顔で嗤っている。
「……このクソ雑魚がッ」
わたくしが放った斬撃が口元を歪めたままのオーガの首と胴体を一瞬で切り離す……多分この個体は何が起きたのか理解できないだろうけどね。
いきなり隣に立っていた個体が首を切り離されてぶっ倒れたのに驚いたのか、吠え声をあげて騒ぎ始めるオーガ達だったが、次の瞬間には距離を詰めたわたくしの斬撃で細切れになっていく。
通路に血飛沫と地面に肉塊が落ちるドシャドシャ、と言う音だけが響く中、わたくしは軽く剣を振るって刃についた血を払う。
「……割と強いオーガのような気もしましたけどね……シャルにかかると子供扱いですな」
「まあ、この程度ならば……それよりエルネットさん達を見てないけど、大丈夫かしらね」
「かなり奥に進んでいるようですな……微かにですがこの辺りには匂いがしています、この先からも匂いがしておりますね」
「さっきの腕は彼らのではないってことか、まだ生きてるかしら」
わたくしの問いにユルが黙って頷く……なら助けないとな、前世でも助けたいと思っていた人たちが次々と倒れていく場面をよく見ている、そしてわたくし自身が助けられたことだってある。
それにエルネットさんが向けてくれている好意というのはそれほど悪くないと思う……いや、女性としてとかではなく冒険者仲間への気遣いなども含めて彼はとても気持ちの良い人間なんだろうな、と言う意味での好意だ。
……あんなに人に気遣いができる人がこんな場所で死んでしまうのは良くないと思うし、リリーナさんが悲しむ姿はあまり見たくないかな。
「良いのですか? もし貴女の力がバレてしまった場合、冒険者ロッテ……いやシャルロッタ・インテリペリが英雄となってしまう可能性もあります……そうなれば自由に行動ができなくなりますよ」
「それでも目に見える範囲の人は助けたいわ」
この世界においてわたくしはできるだけ仲間を作ることをしていない、と言うのも前世の勇者としての能力ははっきり言ってマルヴァースにおいては異質だからだ。
いや正確に言うのであればレーヴェンティオラでも異質ではあったが……これだけの戦闘能力を持っていると思われた場合、普通の人間は排除する方向に進むだろうしな。
ユルはわたくしの顔を見上げて軽く首を振ると、諦めたように軽くため息をつくと、口元を歪めて静かに笑う。
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