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第一章:竜生始動篇

第7話『一歩を踏む為の足』

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「そうそう! そんな感じ。
 だいぶ動けるようになってきたね!」

 下宿をして3日経った。
 塔主選定戦まであまり時間がない。
 俺はホノンに鍛えてもらっていた。

「足捌きが綺麗だね。リタに教えてもらったの?」
「ああ。テンポ感を身に着けたらかなり上手くなった。
 体が軽く感じるよ」
「ボク抜きで教えるの、やっぱちょっとズルいなー。
 シンばっか贔屓してちゃ、ボク拗ねちゃうよ?」

 俺はリタの言葉を思い出す。
 リタがホノンを避けるのにはれっきとした理由がある。

『私は体術でホノンに有利をとれる。
 けど、魔術はホノンの方が数段上。
 総括したら実力は五分だね』
『なら、なにで差をつけるんだ?』
『情報』

 リタはここ2週間ほど、ホノンと真面目に戦っていない。
 選定戦において有力視されている2人の勝負はもう始まっている。
 リタはこの短期間でホノンに勝てる実力を身に着けようとしている。

 ホノンの知るリタは、2週間前のリタというわけだ。

「あーあ。なんだか寂しくなってきちゃった。
 ここにリタの同格はボクしかいないんだから、ボクと鍛錬すればいいのに。
 情報戦なのは分かってるけど、これじゃつまらないよ」

 ホノンとて馬鹿じゃない。リタの思惑を察している。
 果たしてこの勝負、どちらが勝つのであろうか。
 全く予想がつかない。

「あっ、エドナおばさんが呼んでるみたいだ」

 ホノンは体を伸ばし、家の方に向く。

「行こう。ボクたちはまだ下宿生だからね」

 選定戦の後、ホノンはここにいるのか。
 それとも、リタがここにいるのか。


  ===


「聖騎士2名の、偵察......?」
「うそ......」

 リタとホノンは絶句していた。
 俺には何がなんだかサッパリだ。

「聖騎士って?」
「人類最強の戦闘集団って言われてる奴ら。
 強さはホントにピンキリだけど、塔主より強い聖騎士もいる」
「今回は下位聖騎士だから、多分大丈夫。
 それでもボクたちは油断できない」

 ホノンとリタの表情が真剣味を帯びる。

「聖騎士協会は、塔主タワーズドラゴン連盟最大の敵なんだ」

 どうやら、ドラゴンと人はバチバチに戦っているらしい。


  ★★★


 聖騎士には5種類いる。

下位聖騎士:そこら辺にいる雑兵程度の奴ら
中位聖騎士:腕の立つ剣士や魔術師
上位聖騎士:多彩な技能を持つ危険な戦力
特異聖騎士:実力不明な聖騎士協会の暗部
九大聖騎士:聖騎士最強の9名

 石っころからダイアモンドまで、本当にピンキリだ。
 九大聖騎士は塔主と同格かそれ以上の戦力だという。
 ホノンでさえ、目があったら降参するレベルなのだとか。

 今回は下位聖騎士。雑兵程度。
 魔物の等級にあてるとD~C。
 程度によっては俺でも簡単に倒せる。

 そんな相手でも、ホノンとリタは入念に準備した。
 なにやら2人とも、聖騎士とは因縁があるようだ。

「聖騎士の偵察ってなにをすればいいんだ?」
「怪しい動きをしているから、その確認。
 できれば接触しないよう隠密行動をする」
「もし九大聖騎士が出てきたら全力で逃げる。
 相手が1人だとしても、ボクたち5人全員が全滅する」

 そう。今回は5人行動だ。
 偵察にそんな人数は要らないだろうと思ったが、別行動をするらしい。
 動ける3人が前方、残り2人が後方だ。

 俺は動ける側に抜擢された。
 正直、ふざけるなと思っている。
 だが事実、俺は下宿組で3番目の実力を持つと、リタとホノンに言われている。

「よし、行こう」

 俺は気を引き締め、聖騎士偵察に挑んだ。


  ===


 予測不能は常だ。
 言い訳は幾らでもある。
 だが、言い訳を吐きたくはない。

 魔術が使えたから勘違いしていた。
 失って、絶望して初めて知った。
 自分に想像力なんて無いのだ、と。


  ===


 ヒョロい男と小太りの男。
 下位聖騎士の二人組が、エトラジェードの北西の森を歩いていた。

 隠密行動のノウハウをホノンに教わり、呼吸も抑えて追跡していた。
 心臓が爆音ライブでもしているかのように鼓動する。
 目は見開かれ、乾燥して涙が滲む。

 聖騎士二人組が足を止めた。
 何やら言葉を交わしているが、よく聞こえない。
 耳を極限まで研ぎ澄ませた時、風音が聞こえた。

「ッ!!」
「シンっ!!」

 体がふわりと浮いた。
 歯を食いしばるリタと目が合う。
 俺は後方に投げ飛ばされ、地面に転がる。

「先ず素人、次に玄人。そうすりゃペースが崩れる。
 着実な一手かと思ったが、まさかなァ」

 地面に血が滴る。剣先が鈍く光る。
 俺は顔を上げ、思わず目を見開いた。

「まさかこんなに上手くいくなんてなァ」

 リタが肩で息をしている。様子がおかしい。
 下位聖騎士を追って、後ろから襲撃されて。
 俺が真っ先に狙われて、リタが......

 俺をぶん投げたリタの足が、ザックリ切られていた。

「このッ......」
「させねェ」
「リタ!!」

 ホノンの殺気を感じ取り、ようやく状況を理解する。
 リタが重傷。聖騎士三名。下位二人はおとり
 なぜこんなことになったのだ。

「俺ァ上位聖騎士『烈刃』のゾフラ。
 てめえ等ガキ共をぶっ殺しに来たぜェ」

 上位聖騎士。想定外の戦力。
 立ち位置が悪い。このままではホノンが挟み撃ちだ。
 なら、俺が......俺が。

 まさか、俺が上位と戦うのか。

「シン、20秒くれ」
「てめえ等、30秒しのげェ」

 ホノンは俺と同じ思考に一瞬で辿り着いた。
 下位二名を早急に無力化し、上位を俺とホノンで対処。
 つまりホノンは、俺が数十秒間上位と戦う選択をした。

 どうすればいい。相手の能力も技も見えていない。
 背後からの攻撃を処理できた今、相手の得手を封じれたのか?
 いや、それだけで上位の名を冠することはできないはず。

 実力差は明白。後退も手か?
 ダメだ。リタを背負って上位からは逃げられない。
 まず、俺は何を、どれをどうすれば......

「"岩槍穿シュタイン・ランツェ"」

 剣閃が走り、岩が飛び散った。
 見ればゾフラは驚きの表情と共に剣を振るっていた。
 呼吸交じりの声が響く。

「......しっかりしろ、シン。
 今必要なのは、お前の冷静さとホノンの柔軟さだ」

 リタが苦痛に顔を歪めつつ、俺の目を見る。
 何かがおかしい。激痛を忍ぶ顔じゃない。
 ......まさか!?

「ったく、ガキは元気で敵わねえなァ。
 俺ァ毒でフラフラな雑魚に構う趣味はねえぞォ?」
「私は、......まだ動ける」
「青い顔でそう言われてもなァ」

 殺気が眼前を覆ったのは初めてだ。
 最初の一撃には毒が盛られていた。
 リタは失神寸前。生死に関わるかは、分からない。

 全身に魔力が伝わる感覚は、血流が暴走しているかのようだ。
 魔力という摩訶不思議な力は全能感を錯覚させる。
 腹に満たされた黒いなにかは、俺の口から飛び出た。

 そしてそれは、ホノンも同じだ。

「「ぶっ殺してやる」」

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