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12 水車
しおりを挟む「あれが私たちの村、テランタです!」
スタイルの良い女性が指差した先には、大きな水車が一基あり、それを囲むように民家が集合した村があった。村の真ん中には、大きな川から枝分かれした小川が一本通っている。
そして入り口には、村に到底似つかわしくない大きな門があり、頑強な口を閉ざしていた。その上には見張り台があり、武装した見張りが二人立っている。
丁度その門が開き、六台の連なった幌馬車と、それを護衛するように、十数頭の馬に乗った男たちが猛スピードで走り去って行った。
「ああ……」
それらを一瞥すると、アスカは心の無い返事をした。表情は暗くゲッソリとしており、遠くを見るその目は虚で何処を見ているのか分からなかった。目の下には隈があり、額にはまるでインディアンの羽飾りのように、葉っぱが無造作に着いていた。
(まさかこの世界に、俺たち三人の他にも転生して来た奴がいたなんて……しかもよりにもよって、おっ君だとは……)
「テイマー様!テイマー様!」
「ああ……」
「テイマー様!」
「え?どうした?ここは何処だ?何だ?あのデカい水車は?」
おっ君に似たオークと別れた後、女性たちの案内でここまで来たのだが、心に深いダメージを負ったアスカは、どのようにして来たのか一切記憶が無かったのだった。
「テイマー様ありがとうございました。あれが私たちの村、テランタです。無事帰り着くことが出来ました」
胸の大きな女声が、深々と頭を下げた。
「そうか……それは良かった」
「モンスターに全く動じないテイマー様も流石でした。泥や葉っぱが降り掛かっても、瞬き一つしないなんて」
美人な女性が、微笑みながら首を倒した。
「モンスター?」
何のことだか分からないアスカも、頭にハテナを浮かべつつ首を倒した。
「追いかけて来たゴブリンには驚きましたが、この子たちのお陰で皆んな無事でしたし」
可愛い女性が、クロを撫でながら言った。
「そ、そうなのか?」
クロたちは嬉しそうにアスカを囲み、お座りをして見上げた。アスカは四匹を、焦点の合わないまなこで見ていた。
(全く覚えてない……心へのダメージが予想以上に大きかった……奴が口を開いただけで、ここまでのダメージとは、なんて恐ろしいスキルなんだ)
『クゥン……』
ブチは心配そうにアスカの手を舐めた。
「こんなに傷だらけになって……」
いつの間にか、切り傷が増えているブチたちを見て、アスカは目に輝きを取り戻した。
「悪りぃ!もう大丈夫だ!心配掛けたな!」
『『『『ワォン』』』』
「お前たちもサンキューな!」
アスカの知らないうちに、シロとチャの背中に乗り移っていたキュウとミミにも優しく触れた。
やはり、キュウとミミも体に傷を負っている。
「すまなかったな。さぁ!雨に打たれ続けて冷えた体を、あの村の旅館で温めようぜ!」
アスカは元気を取り戻し、今度は自分の意思でテランタ村へ向けて歩き始めた。
近くまで来ると村の入り口が慌ただしくなり、大勢の男たちが出て来た。
「おっ!誰か出て来たぞ!」
見張りから聞いたのか男たちは、妻や子供、恋人たちの名前を呼び、その姿を見つけては抱き合い、歓喜の涙を流していた。
「あのテイマー様に助けて頂きました!」
美人の女性が抱き合っていた男性に、抱き合ったまま伝えた。
「ありがとうございます!二度と妻には会えないかと思っていました」
アスカに顔だけ向けた美男子は、それだけ伝えると美女へと向き直り見つめ合い始めた。
「つ、妻!?……よ、良かったな。俺まで火傷しそうだぜ」
笑顔のアスカは、こめかみに血管を膨らませていた。不意に後ろから声をかけられた。
「ありがとうございました!これで僕たちも結婚出来ます!」
筋肉質の男性が、スタイルの良い女性と手を繋ぎお辞儀をすると、村へと入って行った。
「アツアツだなぁ……なんだか俺も体中が熱いよ」
頭が熱くなり血管が更に太くなった。
再び後ろから声をかけられた。
「ありがとう!ワシも妻を助けに行こうとしてたところじゃった」
初老の男性が、可愛い女性に支えられながら村へと入って行った。
「マジか……爺さん無理するなよ……」
血管が消え、体中から力が無くなりガクリと、うな垂れた。
またもや後ろから声をかけられた。
「妻が俺の全てだ!感謝する!」
毛むくじゃらな小柄の男性が、胸の大きな女性にお姫様抱っこをされて泣いていた。
「あれ?俺も泣きそう……」
前後から声をかけられ、クルクル回ったアスカは、とうとうその場に崩れた。目から流れるモノが雨なのか汗なのか、それとも涙なのか、今度は自分でも分からなくなっていた。
「フラれたんじゃない。フッたんだ……」
ドロドロの地面に向けて呟いた後、震える足に喝を入れ根性で立ち上がった。
「嘘だろ……」
見上げた先には、先程までいたはずの大勢の村人たちは、村へと戻り誰も居なくなっていた。
「ふふふ……呪ってやる!村の女どもをイセカイザーピンクで魅了してやる!そしてこの世の全てを破壊してやる!俺はダークヒーローになってやるぞ!」
『キュウ!!!』
「冗談だよ!旅館の温泉に入って、さっさと次の村にでも行こう……」
トボトボと重い足取りで、村の入り口に向かったアスカが目にしたモノは、村人たちが道を挟んで一列になり、アスカに向けお辞儀をしている、何とも嬉しい光景だった。
「はは。これはこれで恥ずかしいな。助けたのは俺じゃないのに……まさか……俺の後ろに…」
アスカは慌てて振り返った。そこにいたのは六匹の可愛い仲間たちであり、周囲を見回しても、おっ君の姿はどこにもなかった。
「だとしたら……夢か?」
アスカは頬っぺたをつねった。痛みを感じ、苦笑いをした。
「テイマー様。村の女どもを救って頂き、誠にありがとうございました」
列の先頭にいた杖をついた老人が、アスカに頭を下げた。
「ワシはこの村の長老をしております、ムーアンと申す者ですじゃ。先程はテイマー様を一人残して村へと戻り申し訳ない。実はこの村には誰一人として戦える者がおらんのです。しかしながら村には結界が張られております。じゃから、何はともあれ先ずは安全な村へと戻りましたのじゃ。テイマー様にも何度かお声掛けしたのじゃが、全く動く気配がなかったもんで、皆の者には村へ戻るようにワシが指示を出したのですじゃ」
「も、勿論だ!こ、こいつらの頑張りが水の泡になるからな」
アスカはキュウを優しく撫でた。
「ん?でも結界が張られてるのに、何でこいつらは入れるんだ?」
「モンスターが入れない訳ではないのですじゃ。入り口の門が開いておれば、誰でも自由に行き来出来るようになっております」
「成程……道理で、こりゃぁ大変だったみたいだな」
周囲を見渡すと、門や家は傷だらけで、剣や矢が刺さったままの物もある。
「皆必死に抵抗したんじゃが、見ての通りですじゃ。じゃからテイマー様には心より感謝しております。村を上げての歓迎をしたいのじゃが、長引く雨のせいで作物が育たんのですじゃ。育つ物と言えば、湿気を好むキノコと毒消し草くらいなもんじゃて」
そう言ってムーアンが視線を家に向けた。アスカもそれを追って家を見ると、家の周りには隙間なくキノコが生えていた。
「凄い量のキノコだな。毒消し草も大量にあるのか?」
ムーアンは首を振った。
「じゃがその毒消し草であるドート草も、全て傷ついた男たちの為に、今し方、隣村の商人のポーションと交換してしもうたのですじゃ。じゃから今この村にはテイマー様に差し上げる者がキノコの他、何もないのですじゃ」
「毒消し草も要らないけどな!」
「何と!毒に侵されているにも関わらず、そのような優しいお言葉まで……」
「毒?誰が?」
「隠さんでも分かります。顔色も優れない上、何度声を掛けても動けない程、意識は朦朧とされておるのに……」
「疲れてるだけだよ。旅館で温泉に入って寝れば治るさ。早く案内してくれよ」
しかしムーアンはアスカの言葉に眉を顰めた。
「はて、リョカンとは何でしょうか?」
「旅館だよ!まさかここには、ホテルしかないのか?」
更にムーアンは、周囲の村人を確認するように見渡したが、皆一様に首を傾げている。
「申し訳ないのじゃが、ほてるとは何でしょうか?」
「何ぃ!?ここには旅館もホテルも無いのか!?じゃあ外から来た人間は、どこに泊まるんだ?」
「おお!宿の事でしたか。分かりました。心優しきテイマー様。残念ながら温泉のような高級な物はありませんが、宿へ案内致します」
「温泉は無いのか……まあ、この村の状況を見ると雨を凌げるだけでも有り難いか」
「申し訳ないですじゃ…皆の者これよりテイマー様を、みずぐるま亭へご案内する。話は明日じゃ!」
『無事村に到着したアスカであったが、その顔は別人であった。やつれ、気力を失った目、額には葉っぱが着いたまま。それはまるでジェロニモ!しかしムーアンの勘違いによりアスカの評価はうなぎ上り。
そしてここは異世界。旅館など無いのである。
上れアスカ!屋根より高くイセカイザー!
次回予告
急襲』
「ジジイが勝手に勘違いしたんだよ!!」
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