異世界版ヒーロー【魔石で変身 イセカイザー】

鹿

文字の大きさ
上 下
11 / 34

11 再会

しおりを挟む
四人の女性は口を閉ざした。

「どういうつもりだ!?」

その不気味さに、魔石を持つ手に自然と力が入る。

「正体を現せ!」

すると突然、堰を切ったように女性たちが涙を流し始めた。

「え?」

その涙にアスカは動揺した。

「お願いがあります。実は村がゴブリンに襲われました」

美人の女性が、綺麗なお辞儀をした。

「私たち村の女は、ほとんどがゴブリンに拐われました」

可愛い女性が、美しいお辞儀をした。

「私たちは幸運にも逃げ出せましたが、まだ上流にあるゴブリンの巣には、村の女たちが捕まったままです」

スタイルの良い女性が、節度あるお辞儀をした。

ここでアスカは状況を理解して顔を引き攣らせた。

「……」

「本当はテランタ村は、あの木よりも下流にあります。上流にあるのはゴブリンの巣です。騙してごめんなさい。でも…是非、他の女性たちも助けてください」

胸の大きな女性が、深々とお辞儀をした。

「(胸元が)ヤバい!」

(ヤバイどころの話じゃぁなかった。その反対だ、ヤバくない。というか全くヤバい話じゃぁなかった。いや、彼女たちにとってはヤバいんだけど。恥ずかしい……川に飛び込みたい。彼女たちはモンスターじゃないのに、お前たち何者だ!正体を現せってデカい声で叫んじまったし。そもそも愛の告白じゃなかったのか?テイマーがモテモテだと言ったのはどこのどいつだ!反対じゃぁないか!反対の反対だ!…ん?モテモテの反対の反対は一周回ってモテモテ?まだ可能性は残ってる?彼女たちに良い所を見せればあるいは…)

独り相撲をしていた事に気付いたアスカは、勝手に希望を見出して、魔石を圧縮し超亜空間に送った。そして戦闘態勢を解き女性たちに向き直った。

「騙すような事をしてごめんなさい。でも早く助けてあげないと。ゴブリンに何をされるか分かりません」

スタイルの良い女性が、顔を上げて笑顔で言った。

「お、おう。ゴブリンな!」

(ゴブリンって誰だ?プリンの仲間か?)

「もう直ぐゴブリンの巣に着きます。巣は川から離れた森にあります」

可愛い女性が、顔を上げて嬉しそうに言った。

「実は、私たち四人は捕まっていた所を助けられたのです」

胸の大きな女性が、顔を上げて微笑んで言った。

「そうなのです。優しくて強い方に」

美人の女性が、顔を上げて頬を赤らめ言った。

「丁度あそこに見えるお方と似ていました……え?あのお方は、まさか」

美人の女性が、アスカの背にある森を指さして言った。

(ダメだ!振り向いちゃぁダメな気がする!)

アスカはまるでスローモーションのように、ゆっくりと時間をかけて振り向いた。

(体が勝手に動いてしまう!しまった!視界の端に見えてきた!)

そこに立っていたのは、見たことのある顔だった。

「お、お、お前は!ま、まさか!!」

そこには異世界に来る前に出会った、出会ってしまった、あの地球人がいた。

「何故?何故なんだ!何故、俺の邪魔をする!」

アスカが振り向いたその先には、大勢の女性たちを引き連れた、いや大勢の女性たちに囲まれた、小太りのオッサン、そう、あの『おっ君』がいた。

「おっ君この野郎ぉ!!」

しかし、実際は『おっ君』に大変良く似た『オーク』である。それでもアスカの目には、その『オーク』は『おっ君』として認識されていた。

地球での最後の経験が、忘れる事が出来ないほどの衝撃と、周りが見えなくなる程の怒りを受けた為であろう。
彼の存在は、アスカにとって、決して許すことの出来ない、憎き存在にまで昇格していた。

「おっ君!!?き、貴様!貴様何故ここにいるぅ~!」

アスカはコンビニでの苦い思い出が、怒りとともに沸々と蘇ってきた。その叫び声を聞き、キュウたちも、只事ではないと頭を低く下げて戦闘態勢をとった。更にシロたちウインドウルフは、唸り声を上げながら、体に風を纏い始めた。

(異世界に転移したのは、俺たち三人だけじゃぁなかったって事か!女神は何のために、おっ君まで転移させたんだ!俺と戦わせる為か?あいつの伸びきった鼻っ柱をへし折れって事か?鼻は低いみたいだけど!)

「俺の邪魔をしやがって!ここで会ったが百年目!昔年の恨み晴らしてやる!豚っ鼻野郎!その女性たちを解放しろ!」

しかし、おっ君に似たオークは、アスカを見てゆっくり右腕を上げて、拳を見せてきた。

「やめろぉ~!それ以上は見たくない!その手を降ろせ!クッソ~!許さん!許さんぞぉ~!」

オークは、拳の親指をゆっくり上げた。

「グ~~ッド!じゃねぇわ!!デジャヴか!そこを動くなよ!」

怒りのボルテージがMAXまで達したアスカは、両手を合わせパチンと鳴らした。
そして、手を離した場所には小さなブラックホールが出来ていた。そこから出てきた緑の魔石を右手でキャッチして、そのまま何の躊躇もせずに胸元に添えた。

「変身!!!」

怒りを露わにした、アスカの怒鳴り声が響き渡る。

しかし変身する事は出来なかった。

「……どうした?これで変身出来るはずだろ?この魔石じゃぁダメなのか?おい!何故、変身しないんだ!?」

イヤーカフを触れて叫んだ。

『説明しよう!
イセカイザーの正体を、ナイナジーの知的生命体に知られてはならない!つまり、イセカイザーに変身するところを、知的生命体に見られていては変身出来ない』

(……イラッ!)

「は~~~っ?なんだその古い設定は!!モンスターも知的生命体だろ!」

『説明しよう!
ここで言う知的生命体とは、言葉を理解し、それを口にする者である』

「だったら人間って言えよ!紛らわしい!」

『説明しよう!
言葉を理解する者は人間だけではない。獣人、魔人、古龍その他にも言葉を交わす事が出来る者は多数存在する。それらを全て総称して、知的生命体なのである。イセカイザーの秘密を話す事が出来る者の前では、決して変身する事は出来ないのであ~る』

「なんだその縛り!どんだけ不便なんだよ!おっ君を倒せば、話す事が出来なくなるんじゃないのか!」

『説明しよう!
倒そうが倒すまいが、変身を見られてはいけないのである!周りの人間たちも見ているのであ~る!」

「ぐっ!そうだった。彼女たちに手を出す事は出来ない!考えたな!おっ君!」

アスカは両手を合わせた。

「圧縮!」

緑の魔石はブラックホールによって、超亜空間に収納された。

「ちなみに、イセカイザーの正体がバレたらどうなるんだ?」

『説明しよう!
正体がバレたら、消滅するのであ~る』

「何ぃ~!!!死ぬのか?消滅って死体も残らないのか!?」

アスカは顔面蒼白になり、女神を睨むように空を見上げた。

「お、おい!キュウ!ミミ!お前たちも、今後イセカイザーになるところを誰にも見られるなよ。解除するところもな!」

小声で肩に乗る二匹に伝えた。

『キュ~!」

『ミュ~!』

「こうなったら生身の姿でやってやらぁ!」

アスカは、いきり立って一歩前へと歩み出した。

「おっ君この野郎!よくも罪のない女性たちを!!!」

すると四人の女性が、アスカの前に立ちはだかり壁を作った。

「わ、私たちを逃してくれたのは、あのオーク様です」

可愛い女性が、狼狽て説明した。

「様っ?おっ君がか!?」

「そ、そうです。私たちも初めは驚きました。オークが人を助けるなんて!しかも女性を」

胸の大きな女性が、慌てて説明した。

「きっと下心だ!間違いない下心があるんだ!!」

「ち、違います!大勢のゴブリンと一人で戦い、傷を負いつつも逃してくれました」

美人の女性が、まごついて説明した。

「……マジでか?いや!騙されない!下心だ!君たちは騙されているんだ!」

「だ、騙されてなどいません!私たちに、お腹が空いてるだろうと、干し肉と水を分けて下さいました」

スタイルの良い女性が、面食らって説明した。

「う、嘘だ……格好良過ぎる」

(渋い真似しやがって!その肉は、うちの子たちが食べちゃいましたけども)

アスカはオークを睨みつけた。しかしその向こうでも大勢の女性たちが、オークを守るように前に出ていた。

(俺の美味しいところを全部かっさらいやがって!異世界に来てまでも俺の邪魔をするのか!)

「クソッ!そんな訳ないだろう何かの間違いだ!そうだ!これは夢だ!いつもの夢なんだ!夢から覚めるキーワードは何だ?『助けてくれ~』か?『のどかだねぇ』か?」

アスカは頬っぺたをつねった。

「痛い……ダメだ現実だ。夢じゃぁないのにどうして、何故おっ君は、いぶし銀なんだ!?」

アスカは恨めしそうにオークを見た。
オークは片方の口角を上げ、『後は任せた』と言わんばかりに牙を『キラリ』と光らせた。

「やめろぉ~~~!おっ君!それ以上はやめてくれぇ~!」

しかしオークは反対側の口角も上げて『グフッ』と笑った。そこには偶然にも、地球のおっ君と同じく、このオークの前歯も一本無かった。

「ガハッ!」

アスカは胸を抑えその場に片膝を着いてしまった。

(なんだあの破壊力!ハァハァ。胸が苦しい。またなのか……ハァハァ。俺はヒーローになっても、奴には勝てないのか?そもそも下心があるのは俺の方じゃぁないのか?)

オークはアスカを一瞥すると、満足気な顔付きで、雨の向こうに消えて行った。

「オーク様!ありがとうございました」

「この御恩は一生忘れません!」

救出された女性たちは、それぞれがオークに感謝の言葉を叫んでいた。
涙を流す者までいる。

「おっ君!待て!俺と闘え!」

アスカの視界がグニャグニャに歪んだ。

(俺は泣いているのか?)

頬を伝う熱いモノは涙か雨か。それはアスカにしか分からない事であった。

(今回も俺の負けだ……)

「これで勝ったと思うなよ!次に会う時が貴様の命日だ!必ず貴様に勝つ!覚えてろよぉ~(涙)」


『必然の出会いは果たされた。こうしてゴブリンに捕まった女性たちを、アスカは傷だらけになり、致命傷を受けつつも無事救出する事に成功した。
そして、子悪党のようなアスカの叫びがこだまする。
吠えろアスカ!遠吠えイセカイザー!
次回予告
水車』

「あぁ!どーせ負け犬の遠吠えでさぁね!救助したのは俺じゃぁないし!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

処理中です...