64 / 88
おさとうきゅうさじ
3.
しおりを挟むぐりぐりと頭に頬を寄せられて、小さく笑ってしまった。遼雅さんが私をほめるタイミングは、どんなに側にいてもよくわからない。
一瞬のさまざまなタイミングで言われるようになってしまったから、ただ胸を掴まれ続けているしかない。
「定期的に俺の熱をあげないと、また冷たくなるのかな」
「う、ん……? たぶん、そう、だと思いますけど」
こんなにもずっと抱きしめてくれた人がいたことがないから、よくわからない。推測して答えれば、遼雅さんが上機嫌に「そうかあ」とつぶやく音が聞こえた。
「じゃあ、たくさん触れたら、そのぶんあつくなるのかな」
「た、ぶん?」
遼雅さんの中はずっとあつい。
今も抱きしめられているだけでぽかぽかして、微睡んでしまいそうだ。実際にすこし前には遼雅さんの腕の中で眠ってしまっていたから、気を付けなければいけないと思う。
「遼雅さん」
「うん?」
「眠くなっちゃいそうです」
「あはは、眠っていいよ。抱きしめているから」
「ううん、今日は、遼雅さんの番です」
「うん?」
私は体温が低いから、全然眠たくなってはくれないだろうと思う。いろいろ考えて、姉にも相談した。姉は軽快に笑いながら一つの方法を教えてくれたから、今日はそれを実践しようと勇んできたのだ。
「遼雅さん、すこしお休みになりませんか」
「柚葉さんがいるのに、もったいないなあ」
「ひざまくら? します」
「……膝枕?」
抱きしめていた腕をやんわりと離した遼雅さんが、真正面から見つめてくる。
私の提案におどろいてしまったみたいだ。
目がぱちぱちと瞬いているのがかわいらしくて、小さく笑ってしまった。
「いやですか?」
「なんか、俺、すごいあまやかされてる」
「もっとあまやかされていいと思います」
「……まいったな」
「困らせましたか? 姉に聞いて、眠ってもらうにはこの方法が良いって教えてもらったんですけど……」
「そっか。お姉さんに聞いてくれたの?」
「あ、う……、そう、です。すこしでも、休んでほしくて」
休んでほしいと思っていることを告げるつもりはなかったはずなのに、ぽろりと口から零れ落ちてしまっていた。
気まずくなって視線をそらそうとしたら、遼雅さんのあたたかい指先に阻まれる。
「りょう、」
きゅっと眉を寄せた綺麗な男性が、私を覗き込んでいる。ひまわりの瞳はあつい。あつくるしくて、どろどろに溶けてしまいそうなくらいだと思う。
「ああ、もう。本当にかわいすぎる」
「ええ? いや、だめなら、忘れてください」
「こんなに魅力的な誘いを受けて、断る男はいないよ」
「みりょくてき?」
「俺のために考えてくれたの?」
「ええ、と。なにか、できたらっていうのは、いつも考えています、よ?」
遼雅さんがそうしてくれているように、私も遼雅さんのために何かができればと思っている。当然のことを告白しているのに、遼雅さんの瞳が、どこまでもあまく揺れてしまった。
「ああー……」
「遼雅さん?」
ふっと顔を伏せて、私の肩に額を押し付けてしまった。
ぐりぐりと擦りつけるように触れながら、片手が私の頭の裏を撫でる。名前を呼べば、大きく息を吐いた遼雅さんが、まっすぐに顔をあげた。
すこしも逸らさせない、あつい瞳だ。
「キスしていい? たくさん」
「え? あ、……っ」
答える暇もなく、あつい唇に塞がれる。
後頭部に回っていた指先に引き寄せられて、拒絶する隙を奪われてしまった。
熱を流しこむようなキスで、どろどろになる。
この調子になったら、遼雅さんはお休みなんてとてもできない。
焦って、遼雅さんの胸に手を置いたら、ぐっと掴まれて、遼雅さんの首の裏に回された。
まるで求めているみたいに身体を操られて、口づけられる合間にどうにか声をあげようと必死になった。
とろけてしまいそうだ。どうにかしなければ。
ただそれだけを思って、途切れそうな理性を保っている。
2
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる