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おさとうきゅうさじ
4.
しおりを挟む「う、りょ、うが……さ」
「ん」
「まっ」
「うん」
「ひざ、まくら」
「ん、」
「うう、だ、め」
聴こえないふりをしている人の肩をぽかぽかと叩いて、ようやく至近距離で、遼雅さんの勢いが止まる。
燃えそうな瞳に映る自分と目が合って、慌てて目をそらした。
「ゆずは」
「は、い」
「キス、だめ?」
「だめ。もう、おわ、り」
呼吸が乱れていることすら恥ずかしい。
恨めしくなって睨むように見つめてみたら、じっとこちらを見ていたらしい遼雅さんのとろけそうな微笑みにぶつかってしまった。
「残念。俺はもっとキスしたかった」
「……だめ、です」
「あはは、ごめんね。あんまりかわいい顔しないで。抑えられなくなる」
掠れた囁きに胸が震えてしまった。
見つめあう遼雅さんが、簡単にまた私の唇に触れて、リップノイズがはじける。また始まってしまいそうで、慌てて遼雅さんの口に手を当てた。
「してない、です。……ひざ、まくら」
「うん?」
「したくない、ですか」
「……したいの?」
私の手を剥がして、恋人のように繋ぎ合わせながら問いかけてくる。
恥ずかしさで俯いた私の耳にそっと囁き入れて、指先で俯く私の唇の際をゆるくなぞる。あやしい動きに背筋が震えてしまった。
どうにかなってしまいそうで、半分やけになりながら言葉を返していた。
「ん、し、したい」
「あはは、もう。かわいい」
「うう、もう、りょうが、さん」
「食べられそうになって逃げだすための口実だったとしても、たまんない。……なんでそんなにかわいい? 心配になるよ」
「もう、やだ。かわいくないです」
「やだやだしてるときも、柚葉さんはかわいいだけだよ」
「ああ、うう」
「ごめんごめん。あんまりかわいくて。……かわいい奥さん、膝枕お願いしてもいいですか?」
くすくすと笑う旦那さんに根負けして頷く。私から提案したはずなのに、いつのまにか遼雅さんのペースになってしまっていた。
ソファの端に移動して、悪戯な笑みを浮かべている遼雅さんをもう一度睨んでみる。
「あはは、かわいい」
「遼雅さん、ちゃんと寝てください」
「はい。じゃあ、重かったら言ってね」
大きなソファなのに、遼雅さんが横になるとすこし足が出てしまうから驚いた。そっと腿に頭を乗せた遼雅さんが、じっとこちらを見つめてくる。
「大丈夫?」
「平気です。……そうだ。遼雅さんは天使なのかも。羽根はどこにあるかなあ」
「はは、それはどこの男の真似ですか」
誰の真似かなんて知っている人がしあわせそうに笑ってくれた。その頬のやさしさだけで、何度でも好きになってしまう。
ずるいなあ。もう、ずっと好きで困ってしまう。
「ひみつです」
「あ、俺には言えないですか」
「ふふ、もう」
「かわいい。見飽きるなんて、ぜったいない」
指先を差し出して、私の頬に触れてくれる。そのやさしさで瞼を細めたら、同じように遼雅さんが笑ってくれていた。
遼雅さんのねつをわけてもらった指先で、遼雅さんがしてくれていることと同じように頬に触れてみる。
「りょうがさん、瞼をおろしてください」
「うーん、もったいないなあ」
「うん?」
「せっかくかわいい奥さんが見放題なのに」
「そんなのは、いつも見られます」
「はは、そうか。じゃあ、約束ですよ」
「やくそく?」
「はい。これからも俺の側から離れないでください」
恋人に願うような声で私を見上げていた。
もう、遼雅さんが手を離さないなら、ずっとそばにいる。言ってしまいたくなって、小さくうなずいた。
「遼雅さんが、望んでくれるなら」
「じゃあ、一生離れられないよ」
「そうなんですか。ふふ、わかりました」
「きみはかわいい。いつもかわいい」
「ええ?」
「今夜も早く帰ります」
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