月夜のフクロウ

弓屋 晶都

文字の大きさ
上 下
3 / 7

3.

しおりを挟む
夜が明けて、朝になりました。
猫はまだ泣いていました。
昼になって、夜になっても猫は悲しみと後悔でいっぱいでした。

家の人たちも猫の元気がないことを心配しています。
いつもよりずっと美味しい特別なおやつを出されても、猫は全然食べる気になれませんでした。

月を見上げる事もなく、窓辺でうずくまっている猫の耳に、みしりという聞き覚えのある音が小さく聞こえました。

けれど、猫は顔を上げる事ができませんでした。
泣きはらした顔を見られるのも嫌でしたが、それよりもどんな顔をして、なんて言ったらいいのかが分かりませんでした。

サワサワ……と、風に吹かれて木の葉が音を立てました。
猫はフクロウが帰ってしまった気がして顔を上げました。
そこには、赤い実をくわえたフクロウがいました。
「君に、これを」

その実は猫へのプレゼントでした。
猫は、嬉しくて泣いてしまいそうでした。
その実は赤くてつやつやと輝いていて、今まで見たこともないほど綺麗でした。

フクロウは、猫からよく見える小枝にその実を引っ掛けました。
猫は、フクロウが自分を気づかってくれたのが嬉しくてたまりませんでした。
「何の実なの?」
猫は聞きました。
「さくらの実だ」
フクロウは答えました。
「さくらってなあに?」
猫の質問に、フクロウは春になると一斉に淡いピンクの花をつける事や、それを見に人間達が集まってお祭りをする事や、散る時は雪のようにひらひらと空を舞うのだという事を少しずつ、分かりやすく教えてやりました。
「素敵。私も見てみたいわ」
「その実を土に埋めれば、いつか見られるかも知れないな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済み】破滅のハッピーエンドの王子妃

BBやっこ
児童書・童話
ある国は、攻め込まれ城の中まで敵国の騎士が入り込みました。その時王子妃様は? 1話目は、王家の終わり 2話めに舞台裏、魔国の騎士目線の話 さっくり読める童話風なお話を書いてみました。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

金色のさかな

くにん
児童書・童話
これは今よりもずいぶんと昔、フランスがまだガリアと呼ばれていたころのお話です。 ローヌ川と呼ばれる清流には、タラスクという守り神の元で、魚や鳥たちが楽しく暮らしていました。 でも、その中には、自分の美しさを自慢するばかりで、周りのものに迷惑をかけてタラスクを困らせる、マルタという金色の魚がいたのでした。

あいうえお絵本

水あさぎ
絵本
オノマトペで楽しくあいうえお♪ リズムにのってレッツあいうえお♪

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

山のうんどうかい

こぐまじゅんこ
児童書・童話
 いまは、あき。  きょうは、山のうんどうかいです。  それなのに、みあげると、いまにもなきだしそうなそら。  きつねくんは、(そらをわらわせたいなぁ)とおもいました。 「ふたりで、おもしろいはなしをしようよ」  たぬきくんをさそって、ごにょごにょ耳もとではなしています。  やがて、きつねくんとたぬきくんがならんで、おもしろいはなしがはじまりました。 「たぬきくん、てぬきしてかけったら、あきまへんで」 「なにいうてますのや、きつねくん。あんたこそ、おしりを、つねって、はようはしりんさいよ」 「なんじゃそりゃ」  ずっこけてみたものの、そらをみあげると、まだそらはなきそうです。 (おもしろくなかったかなぁ。そらがよろこぶことってなにかなぁ)   ふたりは、かんがえます。  きつねくんが、いいます。 「そうだ、くまのおばちゃんにきいてみよう」 「うん、そうしよう」  きつねくんとたぬきくんは、くまのおばちゃんにあいにいきました。  おばちゃんは、ちょっとかんがえてから、いいました。 「そうだねぇ。そらには、もうしんだじいちゃんやばあちゃんが、たくさんいるから、じいちゃんやばあちゃんのすきな、おはぎをつくって、山のおてらにおそなえしたらどうだい?」  さっそく、きつねくんとたぬきくんは、山のなかまをよんできました。  うさぎさんが、あずきをたいて、りすさんが、さとうをまぜて、あんこをつくります。  さるくんが、もちごめとおこめをまぜてたいて、ちょっとつぶしてまるめていきます。  せっせ せっせ とつくります。  あまくておいしいおはぎが、どっさりできました。  そして、みんなで、おはぎを、おてらにもっていきます。  おてらにおそなえすると、みるみるうちにそらは、はれわたり、まるで、わらっているようです。  まっさおなそらのした、山のみんなは、うんどうかいをはじめました。  たまいれに、つなひき。  みんな、わいわい、がんります。  そして、さいごは、かけっこ。  せんしゅは、きつねくんとたぬきくん、さるくん、りすさんです。  よーい、ドン!  きつねくんとたぬきくんが、とびだしました。  たぬきくんは、てぬきしません。  きつねくんも、おしりをつねって、はしります。  ふたりならんで、せんとうをはしっています。  そして、なんと、ふたりいっしょに、ゴールしました。  みんな、おおよろこび。  とてもたのしい一日でした。

仙人のドングリ

morituna
児童書・童話
 全国各地に伝承されているサル婿入り民話は、労力に対した代価により、サルが農夫の娘を嫁にもらう。 しかし、どれも、サルの嫁になった娘の計略にはまって、サルが川に落ちて死んでしまう結末である。  これでは、サルが苦労したのに努力が報われず、サルが浮かばれない。  そこで、仙人のドングリを使って、サルを支援することにした。

ライオンを捨てる

そとねこ
児童書・童話
小5~中学生のための童話です。

処理中です...