月夜のフクロウ

弓屋 晶都

文字の大きさ
上 下
2 / 7

2.

しおりを挟む
それからというもの、猫は外を見ていても楽しくなくなりました。
今まで外に出たいなんて思った事がなかったのに、フクロウの事を思うと、猫は、外の世界が気になってしかたなくなるのです。
毎晩毎晩窓辺でフクロウが来てくれるのを待ちながら、猫は色々な事を考えました。

あのフクロウは、どこに住んでいるのかしら。
今頃何をしているのかしら。
フクロウは何を食べるのかしら。
けれどそのほとんどが、考えてもわからないことばかりでした。


今日も猫は窓辺で月を眺めていました。
月は、青白く冷たい光を静かな街に投げかけていました。
「あの日も、こんな月の綺麗な夜だったわ」
猫は、まだフクロウの事が忘れられませんでした。
その時、視界が一瞬暗くなりました。そして、みしりと小さく木がしなる音がしました。

顔を上げると、あのフクロウが目の前の枝に止まっていました。
猫は、おどろきと喜びのあまり、涙が出そうになりました。けれど、猫の口から出たのはこんな言葉でした。
「どうして今まで来てくれなかったの?」

フクロウは、窓越しに猫を見つめました。
「ずっと待ってたのに……」
フクロウがまた来てくれたら、こんな事を話そう。あんな話をしよう。と猫が何度も練習していた言葉は、すべてどこかに消えてしまいました。
「今まで一体何をしていたの?」
フクロウはゆっくりと、一言答えました。
「君には関係ないだろう」

猫は、あまりに悲しくて泣き出してしまいました。
本当はこんな事を言うはずじゃなかったのに、どうしてこんな事になったのか、猫にはわかりませんでした。
悔しくて、情けなくて、どうしたらいいのか分からなくなった猫は「もう帰って!」と言ってしまいました。
フクロウは、何も言わずに飛び去っていきました。
しおりを挟む

処理中です...