37 / 45
第6話 閉じ込められていたもの (2/6)
しおりを挟む
「えーと、どういう事かな?」
大きなゴーグルを頭の上にあげて、ラゴが私たちをじっと見る。
エメラルドのような緑色の透き通った大きい瞳。ちょっと人間離れした大きさの瞳に不審の色が浮かんでいて、ちょっと怖い。
「こいつは元はみさみさのペットだったんだ。いや、今もまだみさみさのペットだ」
その言葉に、私は慌ててペットのプロフィール画面を確認する。
確かに、きなこもちは姿は変わってしまったけれど、私のペットのままだった。
ラゴは「バグがペットだなんて……」と言いかけて、その表示を確認したのか言葉を失う。
「……君たちは、今までに二度バグを見ていたはずだよ? バグと知っていてそれを……。いやそもそも、どうやってそんな事……」
そこまでで、ラゴは両手にボワッと炎を生み出した。
あゆが反射的に何かの呪文を唱える。
「効かない!?」
ラゴはニッと口端を上げて不敵に笑う。
「残念だったね、ディスペルは効かないよ。僕のこれは魔法じゃないからね」
ラゴは私たちに向きなおると、緑の瞳でじろりと睨む。
「二度ならず三度まで、バグとともにいる君たちは、バグの……いや、そのウィルスの発生に関与していると断定してもいいかな?」
「えっ!?」
「それはちょっと横暴じゃないですか!?」
私とあゆの声に、カタナが叫ぶ。
「っ! 俺たちは、清く正しいプレイヤーだ!!」
あまりに大きな声に、私は驚く。見れば、あゆも驚いた顔をしていた。
冬馬くんは、どんな時でも冷静で、こんなふうに感情のままに怒鳴ったりはしないイメージだった。
DtDが本当に大好きなカタナだからこそ、それを疑われた事が許せなかったんだね……。
「じゃあどうして、そんなものをペットにしてるんだい?」
ラゴの声が冷たく響く。
「三人とも、アカウントはロックさせてもらうよ。話は問い合わせフォームから聞かせてもらおうか」
「待ってくださいっ!!」
私は思わず叫んでいた。
「ロックするなら私だけにしてください! 二人は本当に、何も関係ないんです!!」
「みさみさ!」
「みさみさちゃん!?」
「……君だけが、ウィルスを作っていたと言うことかい?」
ラゴが緑の瞳をスッと細めて私を見る。叱られているみたいで身がすくむ。
「ウィルスを作ったりはしてません! でも、フニルーをペットにしていたのは私です」
「フニルー? ……そっか、これは、フニルー擬態型のウィルスなんだね」
ラゴは少年らしい仕草でコクコクと納得したように頷く。
「けど、フニルーは元々ペットにはならないはずだよ?」
「……でも、私、その日始めたばかりで知らなくて……、手を出したら、乗ってきて……。テイムしますかってウィンドウが出て……」
声が震える。声だけじゃなくて、私は全身が震えていた。
ぽん。と私の肩にカタナが触れる。
何も言われなかったけど、励まされたような気がして、心に勇気が満ちてくる。
「なるほど。もしかしたらウィルスのせいでデータが変異しちゃったのかも知れないね。一応、ロックの後で行動ログを検証させてもらうけど、それに問題がなければ一週間以内にロックは解除しておくよ」
わかって……もらえたんだろうか。
私がホッとしたのも束の間、ラゴは両手の炎をもう一度振りかぶる。
「それじゃ、ウィルスを焼くから離れて」
「ま、待ってくださいっ! その子は、見た目はそうかもしれないけど、人を傷付けるような事はしませんっ」
私が慌てて両手を広げれば、ラゴは小さく首を傾げた。
「……そうかな? ログを見たけど、カタナ君にダメージを与えてるみたいだよ?」
さらりと答えられて、私は言葉に詰まる。
「それは、俺から触っただけで、それ以降はありません」
「触れてダメージが出るなら、それは敵だよ。ただのモンスターならともかく、それはウィルスだ。バグじゃない。僕はこれを放置できない」
言い切られて、何て返せばいいのかわからなくなる。
「君たちがこれまで見ていた二体も、僕は一般プレイヤーに心配をさせないようにバグだと言ったけど、本当はウィルスなんだ」
そう言われても、私には、バグとウィルスの違いはよくわからない。
私の顔を見て、ラゴは補足する。
「バグはゲームを作った側の、僕たちのプログラムミスだけど、ウィルスは外部の悪意のある人が、この世界を壊すために意図的に侵入させたプログラムだ」
悪意……。
その言葉に、私の背をヒヤリとした寒気が走る。
ラゴは不意に片手の炎を消すと、耳元の通信機のようなものを押さえて、誰かとやりとりをする。
ラゴが静かに私たちに向き直った時には、その緑の瞳に穏やかな色が戻っていた。
「うん、今、他のGMが君たち三人の行動ログを確認した。その子がDtDに登録してから今日までのログを全部確認したが、不審な点はなかったそうだ」
大きなゴーグルを頭の上にあげて、ラゴが私たちをじっと見る。
エメラルドのような緑色の透き通った大きい瞳。ちょっと人間離れした大きさの瞳に不審の色が浮かんでいて、ちょっと怖い。
「こいつは元はみさみさのペットだったんだ。いや、今もまだみさみさのペットだ」
その言葉に、私は慌ててペットのプロフィール画面を確認する。
確かに、きなこもちは姿は変わってしまったけれど、私のペットのままだった。
ラゴは「バグがペットだなんて……」と言いかけて、その表示を確認したのか言葉を失う。
「……君たちは、今までに二度バグを見ていたはずだよ? バグと知っていてそれを……。いやそもそも、どうやってそんな事……」
そこまでで、ラゴは両手にボワッと炎を生み出した。
あゆが反射的に何かの呪文を唱える。
「効かない!?」
ラゴはニッと口端を上げて不敵に笑う。
「残念だったね、ディスペルは効かないよ。僕のこれは魔法じゃないからね」
ラゴは私たちに向きなおると、緑の瞳でじろりと睨む。
「二度ならず三度まで、バグとともにいる君たちは、バグの……いや、そのウィルスの発生に関与していると断定してもいいかな?」
「えっ!?」
「それはちょっと横暴じゃないですか!?」
私とあゆの声に、カタナが叫ぶ。
「っ! 俺たちは、清く正しいプレイヤーだ!!」
あまりに大きな声に、私は驚く。見れば、あゆも驚いた顔をしていた。
冬馬くんは、どんな時でも冷静で、こんなふうに感情のままに怒鳴ったりはしないイメージだった。
DtDが本当に大好きなカタナだからこそ、それを疑われた事が許せなかったんだね……。
「じゃあどうして、そんなものをペットにしてるんだい?」
ラゴの声が冷たく響く。
「三人とも、アカウントはロックさせてもらうよ。話は問い合わせフォームから聞かせてもらおうか」
「待ってくださいっ!!」
私は思わず叫んでいた。
「ロックするなら私だけにしてください! 二人は本当に、何も関係ないんです!!」
「みさみさ!」
「みさみさちゃん!?」
「……君だけが、ウィルスを作っていたと言うことかい?」
ラゴが緑の瞳をスッと細めて私を見る。叱られているみたいで身がすくむ。
「ウィルスを作ったりはしてません! でも、フニルーをペットにしていたのは私です」
「フニルー? ……そっか、これは、フニルー擬態型のウィルスなんだね」
ラゴは少年らしい仕草でコクコクと納得したように頷く。
「けど、フニルーは元々ペットにはならないはずだよ?」
「……でも、私、その日始めたばかりで知らなくて……、手を出したら、乗ってきて……。テイムしますかってウィンドウが出て……」
声が震える。声だけじゃなくて、私は全身が震えていた。
ぽん。と私の肩にカタナが触れる。
何も言われなかったけど、励まされたような気がして、心に勇気が満ちてくる。
「なるほど。もしかしたらウィルスのせいでデータが変異しちゃったのかも知れないね。一応、ロックの後で行動ログを検証させてもらうけど、それに問題がなければ一週間以内にロックは解除しておくよ」
わかって……もらえたんだろうか。
私がホッとしたのも束の間、ラゴは両手の炎をもう一度振りかぶる。
「それじゃ、ウィルスを焼くから離れて」
「ま、待ってくださいっ! その子は、見た目はそうかもしれないけど、人を傷付けるような事はしませんっ」
私が慌てて両手を広げれば、ラゴは小さく首を傾げた。
「……そうかな? ログを見たけど、カタナ君にダメージを与えてるみたいだよ?」
さらりと答えられて、私は言葉に詰まる。
「それは、俺から触っただけで、それ以降はありません」
「触れてダメージが出るなら、それは敵だよ。ただのモンスターならともかく、それはウィルスだ。バグじゃない。僕はこれを放置できない」
言い切られて、何て返せばいいのかわからなくなる。
「君たちがこれまで見ていた二体も、僕は一般プレイヤーに心配をさせないようにバグだと言ったけど、本当はウィルスなんだ」
そう言われても、私には、バグとウィルスの違いはよくわからない。
私の顔を見て、ラゴは補足する。
「バグはゲームを作った側の、僕たちのプログラムミスだけど、ウィルスは外部の悪意のある人が、この世界を壊すために意図的に侵入させたプログラムだ」
悪意……。
その言葉に、私の背をヒヤリとした寒気が走る。
ラゴは不意に片手の炎を消すと、耳元の通信機のようなものを押さえて、誰かとやりとりをする。
ラゴが静かに私たちに向き直った時には、その緑の瞳に穏やかな色が戻っていた。
「うん、今、他のGMが君たち三人の行動ログを確認した。その子がDtDに登録してから今日までのログを全部確認したが、不審な点はなかったそうだ」
1
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる