36 / 45
第6話 閉じ込められていたもの (1/6)
しおりを挟む
「きなこもちっ!」
きなこもちを包んでいた、黄色いフニルーの殻が弾け飛ぶ。
その内側で、膝を抱えるようにしていた黒い生き物が、ゆらりと立ち上がった。
「っ、やっぱり……そうなのか……」
やっぱりと言いながらも、信じたくないような、カタナの苦しけな声。
黒くてつるりとしたロボットのようなその生き物が、ゆっくり目を開く。
明るい水色のライトが点るように、その瞳は光を放っていた。
「あれって、もしかして……噂のウィルスなんじゃ……?」
あゆは杖を握って、いつでも呪文が唱えられるようにしている。
「前に見たのより、ちっちゃいけど……」
と私が答えた途端、その姿がじわじわと大きくなっていった。
わ、私のせいじゃないよね?
バグの姿になったきなこもち。
でもその足元にはまだ『きなこもち』という名前が残っている。
「ヴルルル……ルル……」
低く唸りながら、その黒い姿のモンスターはじわりと両腕を持ち上げる。
その瞬間、あゆがきなこもちと私たちとの間に炎の壁を張った。
けれど、持ち上げられた両腕は、きなこもちの頭を包む。
「ヴルル……」
小さな唸り声は、どこか戸惑っているように聞こえた。
「きなこもち……」
私は思わず炎の壁を通り抜けて、きなこもちの側へ行く。
プレイヤーの魔法はプレイヤーには効果がない。
「みさみさちゃんっ」
あゆの慌てるような制止の声。
「みさみさ……」
カタナは小さく私の名前を口にしただけで、止めようとはしなかった。
「大丈夫? 苦しいの……?」
私は頭を抱えてうずくまるきなこもちに手を伸ばす。
「触れるとダメージが入るかも知れない」
同じように炎の壁を抜けて歩いてきたカタナが、隣で助言する。
「みさみさではHPが足りないかも知れない。俺が先に撫でてもいいか?」
「え……? い、いいけど……」
「きなこもち、撫でてもいいか?」
カタナは、フニルーとは似ても似つかなくなってしまったその黒い生き物へも、真摯に尋ねた。
「ヴルルル……」
顔を覆っていた手を少しだけずらして、きなこもちは細く目を開いてカタナを見る。
そっと伸ばしたカタナの手が、光を返さない漆黒のボディに触れた瞬間、バチッと弾かれて、カタナから赤い数字がこぼれた。
「――っ!」
こないだのように4桁になるほどではなかったけど、800に近いダメージは、私では即死になる数字だった。
カタナのHPは1/3ほど減っていて、すぐにポーションを飲んでいる。
それに動揺したのは、私たちじゃなくてきなこもちだった。
カタナのダメージに怯えるように、きなこもちがジリジリと下がる。
「大丈夫だ、もう治した」
カタナがそんなきなこもちを慰めるように、いつもよりも優しく声をかける。
「お前が気にする事じゃない。俺が迂闊だっただけだ」
黒い生き物は両手で頭を覆ったまま、いやいやと小さく首を振った。
私たちがきなこもちを傷付けたくないように、きなこもちも、私たちを傷付けたくないんだ……。
その事が、私にはすごく嬉しくて、でもそんなきなこもちをどうしたらいいのかわからない。
「きなこもち……」
突然フッと空がかげって、私とカタナが顔を上げる。
虹色の空から、真っ赤な髪を揺らして真っ赤な翼を広げた少年が舞い降りる。
両手をぐんと振り上げた少年が、その手をまっすぐ振り下ろしながら言う。
「離れて!!」
カタナが両腕を広げてきなこもちを背に庇う。
「待ってくれ!」
私も、カタナの後ろに隠れるようにしてきなこもちとの間に入った。
「!?」
GMのラゴが理解できないという顔で私たちを見る。
ズダンッと大きな音を立てて、ラゴは私たちの前に立った。
あゆがそれを避けるように、ぐるりと回って私たちの斜め後ろに立つ。
きなこもちを包んでいた、黄色いフニルーの殻が弾け飛ぶ。
その内側で、膝を抱えるようにしていた黒い生き物が、ゆらりと立ち上がった。
「っ、やっぱり……そうなのか……」
やっぱりと言いながらも、信じたくないような、カタナの苦しけな声。
黒くてつるりとしたロボットのようなその生き物が、ゆっくり目を開く。
明るい水色のライトが点るように、その瞳は光を放っていた。
「あれって、もしかして……噂のウィルスなんじゃ……?」
あゆは杖を握って、いつでも呪文が唱えられるようにしている。
「前に見たのより、ちっちゃいけど……」
と私が答えた途端、その姿がじわじわと大きくなっていった。
わ、私のせいじゃないよね?
バグの姿になったきなこもち。
でもその足元にはまだ『きなこもち』という名前が残っている。
「ヴルルル……ルル……」
低く唸りながら、その黒い姿のモンスターはじわりと両腕を持ち上げる。
その瞬間、あゆがきなこもちと私たちとの間に炎の壁を張った。
けれど、持ち上げられた両腕は、きなこもちの頭を包む。
「ヴルル……」
小さな唸り声は、どこか戸惑っているように聞こえた。
「きなこもち……」
私は思わず炎の壁を通り抜けて、きなこもちの側へ行く。
プレイヤーの魔法はプレイヤーには効果がない。
「みさみさちゃんっ」
あゆの慌てるような制止の声。
「みさみさ……」
カタナは小さく私の名前を口にしただけで、止めようとはしなかった。
「大丈夫? 苦しいの……?」
私は頭を抱えてうずくまるきなこもちに手を伸ばす。
「触れるとダメージが入るかも知れない」
同じように炎の壁を抜けて歩いてきたカタナが、隣で助言する。
「みさみさではHPが足りないかも知れない。俺が先に撫でてもいいか?」
「え……? い、いいけど……」
「きなこもち、撫でてもいいか?」
カタナは、フニルーとは似ても似つかなくなってしまったその黒い生き物へも、真摯に尋ねた。
「ヴルルル……」
顔を覆っていた手を少しだけずらして、きなこもちは細く目を開いてカタナを見る。
そっと伸ばしたカタナの手が、光を返さない漆黒のボディに触れた瞬間、バチッと弾かれて、カタナから赤い数字がこぼれた。
「――っ!」
こないだのように4桁になるほどではなかったけど、800に近いダメージは、私では即死になる数字だった。
カタナのHPは1/3ほど減っていて、すぐにポーションを飲んでいる。
それに動揺したのは、私たちじゃなくてきなこもちだった。
カタナのダメージに怯えるように、きなこもちがジリジリと下がる。
「大丈夫だ、もう治した」
カタナがそんなきなこもちを慰めるように、いつもよりも優しく声をかける。
「お前が気にする事じゃない。俺が迂闊だっただけだ」
黒い生き物は両手で頭を覆ったまま、いやいやと小さく首を振った。
私たちがきなこもちを傷付けたくないように、きなこもちも、私たちを傷付けたくないんだ……。
その事が、私にはすごく嬉しくて、でもそんなきなこもちをどうしたらいいのかわからない。
「きなこもち……」
突然フッと空がかげって、私とカタナが顔を上げる。
虹色の空から、真っ赤な髪を揺らして真っ赤な翼を広げた少年が舞い降りる。
両手をぐんと振り上げた少年が、その手をまっすぐ振り下ろしながら言う。
「離れて!!」
カタナが両腕を広げてきなこもちを背に庇う。
「待ってくれ!」
私も、カタナの後ろに隠れるようにしてきなこもちとの間に入った。
「!?」
GMのラゴが理解できないという顔で私たちを見る。
ズダンッと大きな音を立てて、ラゴは私たちの前に立った。
あゆがそれを避けるように、ぐるりと回って私たちの斜め後ろに立つ。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
ヒミツのJC歌姫の新作お菓子実食レビュー
弓屋 晶都
児童書・童話
顔出しNGで動画投稿活動をしている中学一年生のアキとミモザ、
動画の再生回数がどんどん伸びる中、二人の正体を探る人物の影が……。
果たして二人は身バレしないで卒業できるのか……?
走って歌ってまた走る、元気はつらつ少女のアキと、
悩んだり立ち止まったりしながらも、健気に頑張るミモザの、
イマドキ中学生のドキドキネットライフ。
男子は、甘く優しい低音イケボの生徒会長や、
イケメン長身なのに女子力高めの苦労性な長髪書記に、
どこからどう見ても怪しいメガネの放送部長が出てきます。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
ヒョイラレ
如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。
階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている!
しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。
その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。
どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
<第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>
銀河ラボのレイ
あまくに みか
児童書・童話
月うさぎがぴょんと跳ねる月面に、銀河ラボはある。
そこに住むレイ博士は、いるはずのない人間の子どもを見つけてしまう。
子どもは、いったい何者なのか?
子どもは、博士になにをもたらす者なのか。
博士が子どもと銀河ラボで過ごした、わずかな時間、「生きること、死ぬこと、生まれること」を二人は知る。
素敵な表紙絵は惑星ハーブティ様です。
せかいのこどもたち
hosimure
絵本
さくらはにほんのしょうがっこうにかよっているおんなのこ。
あるひ、【せかいのこどもたち】があつまるパーティのしょうたいじょうがとどきます。
さくらはパーティかいじょうにいくと……。
☆使用しているイラストは「かわいいフリー素材集いらすとや」様のをお借りしています。
無断で転載することはお止めください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる