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第5話 青い髪 : 青い髪をした姉弟は、やはり、根本的なところでとても似ていて……。

1.ランタナ(1/4)

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「見たことないお花が咲いてる……」

フォルテが、店の軒先に下げられたプランターを見上げながら呟いた。
「そっか、フォルテは家のこっち側に来るのって初めてだよな」
スカイがそれを聞いてふわふわのプラチナブロンドに声をかける。
私達は今、家から北西に二日ほど行った場所にある村に立ち寄っていた。

四人パーティーになってからは、比較的安全で、道も整備されているザラッカやトランドの方面にばかりクエに出かけていたので、フォルテが北西側に来たのは初めてだった。

フォルテの住んでいた村があるのもザラッカやトランドと同じく東の方角だし、こちら側に咲く花や建物は、まだまだこの先もフォルテにとって珍しいものばかりに違いない。

私達は、もうあと八日ほど西に行った場所にある、国境に程近いランタナと言う大きな町を目指している。
ランタナは、沢山の情報と人が行き交う、この国の入り口の町だ。
そこに今回の目的地である盗賊(シーフ)のギルドがある。
事の始まりはスカイの独り言からだった。

「あー……そろそろ一度シーフギルドに寄らないとなぁ……」
夕方、フォルテと皆の洗濯物を畳んでいると、その後ろのテーブルでよく分からない盗賊アイテムの手入れをしていたスカイがポツリと洩らした。
「え、どうしたの?」
転職にはまだ早いだろうし……。
あのデュナですら、やっと二次職になったばかりだ。
「ああ、聞こえてたか。ごめんごめん」
スカイは椅子越しに振り返ると、軽く苦笑する。
「ギルドで覚えたい技があってさ、それを習えるレベルになってるんだよな」
「ふーん……」
正直、盗賊の技だとかにはまったく心得がない。
父は狩人だったし、母は私と同じく魔法使いだった。
「けどシーフギルド遠いんだよな……」
「えっと、ランタナだっけ?」
「ん。まあ、行くとしたら俺1人で行ってくるよ。皆はしばらく家に居てくれればいいからさ」
地図で見る限り、直線距離ならランタナまではそう遠くない。
けれど、ランタナへ真っ直ぐ向かう人は滅多に居なかった。
ここからランタナに行くまでの間には、そこそこ大きな森があって、そこには凶悪なモンスターが多く生息しているためだ。

腕に自信のある冒険者達だけが、時々、クエを受けて何かを探しに入ることはあるものの、ショートカットにと突っ切る人はまず居ない。そんな危険な森だった。
「あら、丁度いいわね」
そこへデュナの声がする。
さっきまで出かけていたはずのデュナが、ひょっこり居間へ顔を出していた。
「「おかえりなさい」」
私とフォルテの声がハモると、「おかえりー」とスカイも声をかける。
「ただいま。さっき、村長に頼まれて断ってきた依頼がランタナ行きなのよ」
と告げると、すぐさまくるりと背を向けて
「簡単なお使いクエだし、それなら引き受けてくるわ」
と出て行ってしまった。

その背に三人で「いってらっしゃい」と声をかける。
この小さな村を拠点に活動している私達には、時々、こうやって村の人からのクエスト依頼があったりもする。
そのほとんどが、お届け物や探し物などのお使い系クエストなわけだが、まだ小さいフォルテを連れてうろうろする私達には、有難い仕事だった。
「お届け物……かなぁ」
フォルテが、隣でくりっと小さく首を傾げる。
「なんだろうね」
と答えながら、出発が明日だとしたら、今夜のうちに保存食をあれこれ作っておかねばならないな……と、家にあるはずの食材を思い浮かべる。

ランタナまで往復でどのくらいかかるだろうか。
また長期間フローラさんを1人にするのだとしたら、今度こそ不足なく食料を確保しておかなくては、クエから戻った時、家が燃え尽きている可能性だって否定できない。
火を使わなくても済む保存食は、通常、塩辛いものか甘ったるいものばかりになって、あまりバリエーションを用意できないものだが、幸い、この家にはとても大きな冷凍庫がある。
魔法の力で内部を氷点下に冷却し続ける、食料保存用の箱だ。
買おうとすると、とても高価なものなのだが、フローラさんの話しによれば、昔、クロスさんがクエストの報酬として貰い受けたのだそうだ。
この魔法の箱は、私達にとって、フローラさんの命を繋ぎ、この家を守る大事なアイテムだった。
「畳み終わったよー?」
顔を上げると、フォルテがきちんと畳まれた洗濯物の山を一人分抱えて立ち上がっていた。
「ありがと。じゃあ、これ仕舞ったらお料理に取り掛かろうか」
笑顔で答えて、私も目の前に畳んだ衣類の山を抱え上げる。
「何か手伝うことあるか?」
とスカイに声を掛けられて
「うーん、それじゃ、燻製作るから、くるみの木を細かく崩しておいてくれる?」
と返事をして階段を上がる。
とりあえず、お肉をなるべく温燻して冷凍庫に入れておこう。

全員の洋服棚に衣類を仕舞いつつ、旅の荷物に必要なものを抜き取ってゆく。
四人分の旅荷物をひとつの大きなリュックに詰め込む。
前回はスカイとデュナの二人分だけで荷物を作った。
四人での旅は、言ってもほんの十日しか置いていないわけだが、なぜかとても久しぶりのような気がして、楽しみに思えた。
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