後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第三話 賢妃の才能は底知れない

02-12.

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 母親の違う妹弟を疎んでいたところでおかしくはない。

「後宮かラ、離れなさイ」

 翠蘭の言葉はところどころ聞き取りが悪くなる。
 それはこの世のものではない証拠だ。

「できません」

 香月は即答した。

 それから氷叡剣を翠蘭に向ける。

「私は賢妃の役割を担いました。その役目を任された時より、後宮で生き抜くことを覚悟しております」

 香月の言葉は翠蘭に届いた。

 翠蘭は眩しそうに眼を細めた。襲い掛かる様子はない。

「翠蘭姉上。あなたはこの世のものではなくなりました。この場に留まっている理由もないはずでしょう」

 香月は淡々とした口調で告げる。

 相手は霊だ。魂の欠片だけが残っている存在だ。強い未練を持っているわけでもなく、ただ、地縛霊としてこの場に留まっていた。

 穢れの影響が少ないのは、ここが神聖な場所だからだろう。

「……わたしハ、死んだノ?」

「はい。亡くなったと聞いております」

「そう……」

 翠蘭は死を否定しなかった。

 それから、濁った眼で香月を見つめる。

「ごめん、ね」

 翠蘭は香月に謝った。

 それは香月にとって想定外のことだった。

 ……恨んでいない? なぜ、謝る?

 情報があまりにも少ない。

 翠蘭は香月が困惑していることに気づいたのか、優しく微笑んだ。それは成仏すると決めたかのようだった。

「わたし、守り、たかった」

 翠蘭は涙を流す。

 ……泣いている?

 霊が泣くなどと聞いたことがなかった。反射的に香月は距離をとり、すぐにでも攻撃を仕掛けられるように身構える。

 守りたかったものがなにか香月は知らない。
 だからこその行動だと翠蘭は気づいていたのかもしれない。
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