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第三話 賢妃の才能は底知れない
01-16.
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……灰となったのか。いまだに暗躍をしているのか。
呪術に魅入られた者は死する時まで呪術から離れられない。人を呪わば穴二つ、死する時まで呪術は人に付き纏い、死した後もその痕跡を残す。
……どちらも確信のない話だ。
蜂貴人が呪術を扱っていた確信もない。
しかし、俊熙には根拠のない確信があるのだろう。
「父上たちを殺めたのは――」
「陛下。それは口にしてはなりません。憶測で話を進めても良いことはございません」
「――そうだな。香月の言う通りだ。証拠などどこにもないというのに」
俊熙は空を見上げる。
満天の星空が輝く夜空にしか俊熙の目には映らない。そこにあるはずの皇帝として見えなくてはならない守護結界の姿は、なにも見えやしなかった。
「母を探そうと思ったことがある」
俊熙は空を見上げながら、呟いた。
「しかし、一向に母の行方は掴めぬまま。母はもういないのだと諦めるしかなかった」
俊熙は母が恋しかったわけではない。
冷遇され続けた母に皇太后として権力の座につかせたいと思ったのだ。それは漠然とした願いであり、叶えてはいけないことだとわかってはいた。
しかし、俊熙にとって母は唯一の存在だった。
父や兄弟たちが次々にこの世を去っていく中、次は自分の番かと怯える日々を支えてくれたのは母であった。その母が呪術を使っていたかもしれないなどと頭を過るまでは、冷遇されていても、幸せな幼少期に違いはなかった。
「母の捜索を再開させる。父上たちの件に関与しているのか、香月ならば見ればわかるだろう?」
「……万が一、呪師ならば。呪術の痕跡が残っているのならば、なにかしらのものは見つけられるかと思います」
「そう言ってくれると思った。ああ、話してよかった。これで父上たちの無念も晴らせる日が来そうだ」
俊熙は皇帝として、先帝の死の真相を明かせなければならない。
先帝とその御子の死は普通ではなかった。しかし、それを解き明かせるほどの実力者は後宮にはおらず、御子を失った妃は次から次へと狂っていき、自らの命を絶っていった。
……麒麟の加護を破るほどの力があったのだろうか。
考えにくい話だった。
呪術に魅入られた者は死する時まで呪術から離れられない。人を呪わば穴二つ、死する時まで呪術は人に付き纏い、死した後もその痕跡を残す。
……どちらも確信のない話だ。
蜂貴人が呪術を扱っていた確信もない。
しかし、俊熙には根拠のない確信があるのだろう。
「父上たちを殺めたのは――」
「陛下。それは口にしてはなりません。憶測で話を進めても良いことはございません」
「――そうだな。香月の言う通りだ。証拠などどこにもないというのに」
俊熙は空を見上げる。
満天の星空が輝く夜空にしか俊熙の目には映らない。そこにあるはずの皇帝として見えなくてはならない守護結界の姿は、なにも見えやしなかった。
「母を探そうと思ったことがある」
俊熙は空を見上げながら、呟いた。
「しかし、一向に母の行方は掴めぬまま。母はもういないのだと諦めるしかなかった」
俊熙は母が恋しかったわけではない。
冷遇され続けた母に皇太后として権力の座につかせたいと思ったのだ。それは漠然とした願いであり、叶えてはいけないことだとわかってはいた。
しかし、俊熙にとって母は唯一の存在だった。
父や兄弟たちが次々にこの世を去っていく中、次は自分の番かと怯える日々を支えてくれたのは母であった。その母が呪術を使っていたかもしれないなどと頭を過るまでは、冷遇されていても、幸せな幼少期に違いはなかった。
「母の捜索を再開させる。父上たちの件に関与しているのか、香月ならば見ればわかるだろう?」
「……万が一、呪師ならば。呪術の痕跡が残っているのならば、なにかしらのものは見つけられるかと思います」
「そう言ってくれると思った。ああ、話してよかった。これで父上たちの無念も晴らせる日が来そうだ」
俊熙は皇帝として、先帝の死の真相を明かせなければならない。
先帝とその御子の死は普通ではなかった。しかし、それを解き明かせるほどの実力者は後宮にはおらず、御子を失った妃は次から次へと狂っていき、自らの命を絶っていった。
……麒麟の加護を破るほどの力があったのだろうか。
考えにくい話だった。
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