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第二話 玄武宮の賢妃は動じない

06-6.

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「頼む。翠蘭のように死んでくれるな」

 俊熙は懇願するように囁いた。

 ……姉上のことが好きだったのだろうか。

 香月は見当違いなことを考えていた。

 似ても似つかない女を傍に置きたがるほどに恋しくてしかたがないのだろうと、勝手に決めつけた香月は俊熙の言葉に頷くわけにはいかなかった。

「私は陛下の臣であります。それ故に陛下の為ならば、死さえも恐ろしくありません」

 香月は淡々とした口調で答える。

 胸の奥が痛いのはなぜだろうか。泣きそうな顔で懇願する俊熙を見ていると、心が穏やかではいられなくなる。そのような感情を香月は知らなかった。

 ……私が守らなくては。

 俊熙がなにも知らなくても皇帝の座に座っていられるように支えることができれば、香月は不安に思わなくなるだろう。そうすれば、感情の整理がつくかもしれない。

 俊熙は弱い。

 それは香月にとって庇護の対象だ。

「しかしながら、陛下。陛下がお望みになられるのならば、香月は陛下のお傍におりましょう。唯一無二のお方が出向くところに私も行かせてくださいませ」

「……嬉しい言葉だが、ここでは意味が変わるのはわかっているのか?」

「当然でございます。陛下の考えこそが最優先するべきことでございます」

 香月の言葉に対し、俊熙はため息を零した。

 呪いに対して俊熙は対抗策を知らない。しかし、呪いを跳ね飛ばしたと思われて皇帝の座に座らされている限り、そういった現場には身に行かなければならない。

 臣下の恐怖を取り除くのは、呪いの効かない皇帝の姿だ。

「賢妃を伴い、検視に立ち会おう」

 俊熙の言葉を聞き、宦官長は深く頭を下げた。

 地面に擦りつけるように必死に許しを乞うようにも見えた。

 宦官長も皇帝に直談判すればただではすまないと理解をしていた。しかし、報告をしなければならず、自らの命を捨てる覚悟でこの場にいたのだ。

「俺は、知らせを持ってきた者を罰するほどに弱い皇帝ではない。先に昭媛宮に向かい、調査報告を受ける。黄家の処分の参考にはなるだろう」

 俊熙はゆっくりと立ち上がる。

 それよりも早く移動をしていた香月は、当然のように俊熙の隣に並んだ。四夫人の一角である賢妃は健在であると周囲に見せつけなければいけないからだ。
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