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第三話 ヒロインのいない物語
04-3.彼女は世界の真実を語る
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* * *
頭の中が真っ白になったのは一瞬だったの。
そういえば、私、なにをしようとしたのだったかしら。思い出せないわ。
私、どうしてここにいるのかしら?
気付けば、私は森の中にいたわ。周りには可愛らしい見た目の動物ばかり。どうやってここまで来たのかわからないけれど、きっと、私の中に眠っている力が目覚めたのだわ。
だって、とても身体が軽いのだもの。とても幸せな気分なのだもの。
私には何も力が残っていないって思っていたけど、それは私の思い込みだったんだわ! 私にはこんなにも素敵な力が残っていたのだから。
なんて気分が良いのでしょう。なんて幸せなんでしょう!
これでみんなを救うことができるのね。
* * *
クリーマ町を襲った魔物たちも話をしてみれば、素直なものだったの。
定期的に襲わなくてはいけないって命令をされていたんだって。
信じられないわ!
私がその呪いを解いてあげれば、みんなはクリーマ町を守ってくれるって約束をしてくれたの。これは聖女だから出来る奇跡だと思うわ。
そしたら、みんな喜んでくれたわ。
きっと、ママとパパも喜んでくれるわよね。もしかしたら、イザベラも領地を救ってくれた恩人だ、なんて言って喜んでくれたりして!
「ねえ、みんな、私が助けてあげるからね」
私は聖女なの。この物語のヒロインなの。
だから、神様は私に試練を与えたのね。
ヒロインとしての資格を奪うようなことをして、私に新しい力を与えてくれたのね。
もしかしたら、あの時に会った毛布のようなものを被った人は神様だったのかもしれないわ。
だって、私に素敵な魔法をかけてくださったのだから!
……あれ、そんなことあったかしら?
おかしいわね。寝ぼけているのかしら。私ったら会ったこともない人のことを神様と思うなんていけないことだわ。
毛布を被った人なんているわけがないじゃないの。
色々な事があり過ぎて夢と現実が混ざっているのかしら?
「大丈夫よ。私がみんなを守ってあげるわ」
私を守るようにすり寄って来る魔物の可愛い姿は、きっと、この世界の誰もまだ見たことがないわ。
私が魔物と共存することが出来る世界を作っていけるのよね。
そうすれば、ローレンス様は私のことを迎えに来てくれるかしら?
もしかしたら、イザベラはまた私の事を大切にしてくれるかもしれないわ。
そうよね。ヒロインとしての力を失ったって良いじゃないの。私は私だもの。
私は愛される為に生まれてきたようなものなのだから、ヒロインの力がなくなってなにも変わらないわ。みんなから愛されるのが運命なのよ。
……それなのに、どうしてかしら。
こんなにも幸せなのに、頭がとても痛いの。
「ぎゃう?」
「あら、怖がらなくても大丈夫よ。私はね、あなたたちの秘密を知っているの」
そうよ。きっと、そうなの。
この世界が乙女ゲームだと知っているからこそ、私は最初から秘密を知っているの。だからこそ、魔物と言葉が交わせるのだわ。
新しい力を手に入れて、攻略対象の彼らの心を取り戻すことが出来るように神様がくれた力なのね。神様はやっぱり私を愛しているんだわ。
「私がみんなを救ってあげるからね」
魔物っていうのは、昔、帝国が実験していた人工兵器が独自に進化をしていった姿だったはずだわ。
帝国の人たちが魔物を狩ることで力を身に付ける為の独自の方法として生み出されたもので、今では、他の国への脅威として使われているだとか。物語の展開次第では、ヒロインは魔物に関する機密文書を見つけてしまうのよね。
それから帝国との戦争に発展していくの。
前回はそれを見つけることが出来なかったから、バッドエンドになってしまったようなものだったわ。
だから、今度こそ見つけようと思っていたのに。
ヒロインとしての力を失ってしまった今は無理なのよね。
戦争を引き起こしたら、私だって死んじゃうもん。それだけはなにがあっても嫌なのよ。
――死んじゃう?
おかしいわ。そんなわけないじゃない。
だって、この子たちが私を襲うわけがないんだから。
「うふふ、イザベラに逢いたいなぁ」
あぁ、なんて素敵なのかしら!
考えがまとまらないのに。ここがどこなのかわからないのに。幸せなの。
「うふふ、きっと、そしたら、もっと幸せになれるわ」
邪魔者が生きているのは嫌だけど。
でも、イザベラが私を大切にしてくれたらそれでいいわ。
私が欲しいのはイザベラなんだから、それを邪魔しようとしてくるあの女は大嫌い。
死んだ時は笑えたのに。恨み言の一つや二つ言うのかなって待っていたのに、泣きもしなかったんだもの。
公開処刑をされてもつまらなかったわ。
ただ汚いだけだったのよね。見なきゃよかったわ。
今回もそうなると思っていたのに、なにもかも、変わってしまった。
私を守ってくれる魔物たちにお願いをして、あの女を襲ってもらうのもいいかもしれない。そのまま殺してくれたらいいのに。
だって、それでみんなが幸せになれるならいいじゃないの。
私はとっても気分がいいのだもの。きっと、みんな、幸せになれるわ。
「ぎゃうぎゃう」
「ふふ、心配はいらないわ。私がいれば大丈夫よ。みんな、分かってくれるわ」
私の言葉が分かるみたい。
嬉しそうに笑っているように見えるもの。
そうよ。どうして忘れていたのかしら?
町の中に居たら危ないから迷いの森にまで連れて来たのよ。……あれ、どうして私は迷いの森へ続く道を乗り越えて来られたのだろう?
記憶に靄が掛かったみたい。
変なの。思い出せないことがあるなんて、今まで、なかったのに。
ママのところに戻ろうとすれば着いて来ようとするから、私はまだ帰れない。
ママ、心配していないかしら。
もしかしたら、パパも心配しているかもしれないわ。早く戻らないと。早く帰らないと。……あれ、どうやって帰ればいいのかしら?
「ぎゃう」
「なあに? ……ちょ、ちょっと、みんな、どうしたの!? 急に立ち上がったらびっくりするじゃないの!」
足元に転がっていた魔物が鳴いたのを合図に一斉に立ち上がった。
その姿は私に撫ぜられて気持ちよさそうにしていた可愛いものじゃない。町を襲っていた怖い顔をしているの。さっきまでは私を守ってくれていたのに、手のひらを返すように私を蹴り飛ばしたのよ! 信じられない!
「痛いわ! 何をするのよ!!」
仲間外れをされたみたいじゃないの。
私を中心から蹴り飛ばした魔物の尻尾を掴めば、痛そうな声を上げてすぐに逃げちゃったわ。なんなのよ。
言いたい事が分かっても急にされたらびっくりするのよ。
もっと私を大切に扱うべきだわ!
「――驚いたな。本当に魔物を手懐けていたのか」
この声は……!!
魔物たちが威嚇をしている方向を見れば、イザベラがいる。
一か月ぶりに見たけど、やっぱし格好いい。一周目の時の騎士団の制服を着ていた時も恰好良かったし、制服を着ている時も恰好良かったけど、これはこれで素敵!
「あ、はっ」
なんて言うのかしら? 公爵としての姿?
騎士様を意識しているかのような動きやすそうな恰好なんだけど、地味じゃない。でも、派手過ぎない。手足の長さを強調するようなデザイン。
一か月ぶりに会うイザベラはやっぱり素敵だわ。
「イザベラ。来てくれたのね」
あれ、私、今までなにを考えていたんだっけ? おかしいわ。さっきまで考えていたことを思い出せないの。
「会いたかったわ!」
ねえ、イザベラ。私を助けて。
おかしいの。私、こんなのことを望んでいたわけではないと思うのだけど……。
頭の中が真っ白になったのは一瞬だったの。
そういえば、私、なにをしようとしたのだったかしら。思い出せないわ。
私、どうしてここにいるのかしら?
気付けば、私は森の中にいたわ。周りには可愛らしい見た目の動物ばかり。どうやってここまで来たのかわからないけれど、きっと、私の中に眠っている力が目覚めたのだわ。
だって、とても身体が軽いのだもの。とても幸せな気分なのだもの。
私には何も力が残っていないって思っていたけど、それは私の思い込みだったんだわ! 私にはこんなにも素敵な力が残っていたのだから。
なんて気分が良いのでしょう。なんて幸せなんでしょう!
これでみんなを救うことができるのね。
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クリーマ町を襲った魔物たちも話をしてみれば、素直なものだったの。
定期的に襲わなくてはいけないって命令をされていたんだって。
信じられないわ!
私がその呪いを解いてあげれば、みんなはクリーマ町を守ってくれるって約束をしてくれたの。これは聖女だから出来る奇跡だと思うわ。
そしたら、みんな喜んでくれたわ。
きっと、ママとパパも喜んでくれるわよね。もしかしたら、イザベラも領地を救ってくれた恩人だ、なんて言って喜んでくれたりして!
「ねえ、みんな、私が助けてあげるからね」
私は聖女なの。この物語のヒロインなの。
だから、神様は私に試練を与えたのね。
ヒロインとしての資格を奪うようなことをして、私に新しい力を与えてくれたのね。
もしかしたら、あの時に会った毛布のようなものを被った人は神様だったのかもしれないわ。
だって、私に素敵な魔法をかけてくださったのだから!
……あれ、そんなことあったかしら?
おかしいわね。寝ぼけているのかしら。私ったら会ったこともない人のことを神様と思うなんていけないことだわ。
毛布を被った人なんているわけがないじゃないの。
色々な事があり過ぎて夢と現実が混ざっているのかしら?
「大丈夫よ。私がみんなを守ってあげるわ」
私を守るようにすり寄って来る魔物の可愛い姿は、きっと、この世界の誰もまだ見たことがないわ。
私が魔物と共存することが出来る世界を作っていけるのよね。
そうすれば、ローレンス様は私のことを迎えに来てくれるかしら?
もしかしたら、イザベラはまた私の事を大切にしてくれるかもしれないわ。
そうよね。ヒロインとしての力を失ったって良いじゃないの。私は私だもの。
私は愛される為に生まれてきたようなものなのだから、ヒロインの力がなくなってなにも変わらないわ。みんなから愛されるのが運命なのよ。
……それなのに、どうしてかしら。
こんなにも幸せなのに、頭がとても痛いの。
「ぎゃう?」
「あら、怖がらなくても大丈夫よ。私はね、あなたたちの秘密を知っているの」
そうよ。きっと、そうなの。
この世界が乙女ゲームだと知っているからこそ、私は最初から秘密を知っているの。だからこそ、魔物と言葉が交わせるのだわ。
新しい力を手に入れて、攻略対象の彼らの心を取り戻すことが出来るように神様がくれた力なのね。神様はやっぱり私を愛しているんだわ。
「私がみんなを救ってあげるからね」
魔物っていうのは、昔、帝国が実験していた人工兵器が独自に進化をしていった姿だったはずだわ。
帝国の人たちが魔物を狩ることで力を身に付ける為の独自の方法として生み出されたもので、今では、他の国への脅威として使われているだとか。物語の展開次第では、ヒロインは魔物に関する機密文書を見つけてしまうのよね。
それから帝国との戦争に発展していくの。
前回はそれを見つけることが出来なかったから、バッドエンドになってしまったようなものだったわ。
だから、今度こそ見つけようと思っていたのに。
ヒロインとしての力を失ってしまった今は無理なのよね。
戦争を引き起こしたら、私だって死んじゃうもん。それだけはなにがあっても嫌なのよ。
――死んじゃう?
おかしいわ。そんなわけないじゃない。
だって、この子たちが私を襲うわけがないんだから。
「うふふ、イザベラに逢いたいなぁ」
あぁ、なんて素敵なのかしら!
考えがまとまらないのに。ここがどこなのかわからないのに。幸せなの。
「うふふ、きっと、そしたら、もっと幸せになれるわ」
邪魔者が生きているのは嫌だけど。
でも、イザベラが私を大切にしてくれたらそれでいいわ。
私が欲しいのはイザベラなんだから、それを邪魔しようとしてくるあの女は大嫌い。
死んだ時は笑えたのに。恨み言の一つや二つ言うのかなって待っていたのに、泣きもしなかったんだもの。
公開処刑をされてもつまらなかったわ。
ただ汚いだけだったのよね。見なきゃよかったわ。
今回もそうなると思っていたのに、なにもかも、変わってしまった。
私を守ってくれる魔物たちにお願いをして、あの女を襲ってもらうのもいいかもしれない。そのまま殺してくれたらいいのに。
だって、それでみんなが幸せになれるならいいじゃないの。
私はとっても気分がいいのだもの。きっと、みんな、幸せになれるわ。
「ぎゃうぎゃう」
「ふふ、心配はいらないわ。私がいれば大丈夫よ。みんな、分かってくれるわ」
私の言葉が分かるみたい。
嬉しそうに笑っているように見えるもの。
そうよ。どうして忘れていたのかしら?
町の中に居たら危ないから迷いの森にまで連れて来たのよ。……あれ、どうして私は迷いの森へ続く道を乗り越えて来られたのだろう?
記憶に靄が掛かったみたい。
変なの。思い出せないことがあるなんて、今まで、なかったのに。
ママのところに戻ろうとすれば着いて来ようとするから、私はまだ帰れない。
ママ、心配していないかしら。
もしかしたら、パパも心配しているかもしれないわ。早く戻らないと。早く帰らないと。……あれ、どうやって帰ればいいのかしら?
「ぎゃう」
「なあに? ……ちょ、ちょっと、みんな、どうしたの!? 急に立ち上がったらびっくりするじゃないの!」
足元に転がっていた魔物が鳴いたのを合図に一斉に立ち上がった。
その姿は私に撫ぜられて気持ちよさそうにしていた可愛いものじゃない。町を襲っていた怖い顔をしているの。さっきまでは私を守ってくれていたのに、手のひらを返すように私を蹴り飛ばしたのよ! 信じられない!
「痛いわ! 何をするのよ!!」
仲間外れをされたみたいじゃないの。
私を中心から蹴り飛ばした魔物の尻尾を掴めば、痛そうな声を上げてすぐに逃げちゃったわ。なんなのよ。
言いたい事が分かっても急にされたらびっくりするのよ。
もっと私を大切に扱うべきだわ!
「――驚いたな。本当に魔物を手懐けていたのか」
この声は……!!
魔物たちが威嚇をしている方向を見れば、イザベラがいる。
一か月ぶりに見たけど、やっぱし格好いい。一周目の時の騎士団の制服を着ていた時も恰好良かったし、制服を着ている時も恰好良かったけど、これはこれで素敵!
「あ、はっ」
なんて言うのかしら? 公爵としての姿?
騎士様を意識しているかのような動きやすそうな恰好なんだけど、地味じゃない。でも、派手過ぎない。手足の長さを強調するようなデザイン。
一か月ぶりに会うイザベラはやっぱり素敵だわ。
「イザベラ。来てくれたのね」
あれ、私、今までなにを考えていたんだっけ? おかしいわ。さっきまで考えていたことを思い出せないの。
「会いたかったわ!」
ねえ、イザベラ。私を助けて。
おかしいの。私、こんなのことを望んでいたわけではないと思うのだけど……。
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