悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０３－３．

「恋人を家に帰したくないのは、当然のことでは？」

「はぁ。いや、それが普通なのか、よくわからねえし」

　アレンの言葉に対し、ディーンは露骨にため息を零した。

　……告白は受けたが。付き合うとは言ってねえし。

　酷い言い訳になるだろう。

　それを口にしたところで、アレンが納得してくれるとは思えない。

「父上の許可を得てからの話だろ」

　了承を得なければならない。

　勝手に話を進めた挙句、駆け落ちをする気かと騒がれてしまっては厄介だ。

　それがわからないアレンではないだろう。

「今日は家に帰る。後日、父上宛に俺と婚約したいとでも手紙に書いて送ってくれ。その後は、俺がなんとか父上を説得するから」

　ディーンは、それが最適解であると思っていた。

　……意地でも動かねえか。こいつ。

　服を渡さなければ大公邸から出られないと考えたのだろうか。

　アレンは無言のまま、ディーンの頬に手を伸ばす。それから、遠慮なく頬を指で掴み、力を込める。

「痛いんだけど」

　ディーンはアレンの手を叩き落とし、摘ままれた頬を撫ぜる。

　痕には残っていないが、掴まれた頬が痛い。

「なにがしたいんだよ。黙っていられてもわかんねえよ」

　ディーンは臆することなく、アレンに問いかける。

　……そんなに俺に帰ってほしくないのか？

　人肌が恋しいわけではないだろう。

　大公邸は広い。管理する為の使用人たちは侯爵家より大勢いる。両親が恋しい年齢でもないだろう。

　……よくわかんねえな。

　ディーンにはアレンの考えが理解できなかった。

　……恋人ができると、一緒にいたいものなのか？

　恋人と共に暮らしたいなどと考えたことがない。

　Domとして生きるように強制させられていた日々の中、友人たちと流行っていた悪い遊びの一環として、女性に手を出したことがある。

　しかし、ディーンには、友人たちが好む悪い遊びは合わなかった。

　社交の場では女性と軽い交流をした後、なにかと理由をつけて距離をとる。不名誉なことに女好きという噂を消すことはできなかったものの、最低限の接触だけに止め、自身を守ってきた。