悪役は初恋に溺れ、Domに支配される

第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる

０３－２．

　アレンを見つめているだけで鼓動が速くなる。

　アレンに触れていると思うだけで心が満たされていくのを感じる。

　これが恋なのだとしたら、ディーンは生まれて初めて恋に落ちたことになるだろう。

　……まだ、起きないのか。

　もう少し、眺めていてもいいのだろうか。

　ディーンは恐る恐る、頬に触れていた指をアレンの口元に近づけようとした時だった。アレンの目が見開いた。

「なにをしている」

　寝起きとは思えないはっきりとした声だった。

　それに対し、ディーンは悪戯がばれた子どものような顔をする。

「少し、触っていただけだろ。他にはなにもしてねえよ」

　ディーンはアレンから手を放そうとしたのだが、素早く、その手を掴まれた。

「おい、放せよ」

「なぜ？　触れていたいのだろう？」

「お前が起きてるなら、話は別だ。さっさと放せ」

　ディーンは素っ気ない返事をしながら、振り払った。

　それから、アレンに捕まえられるのはごめんだと言わんばかりの勢いでベッドから降りる。

「……昨日の約束、忘れてねえだろうな」

　ディーンは昨日着ていたはずの洋服を探すかのように、周囲を見渡しながら問いかけた。

「覚えている」

　それに対し、アレンは面倒そうに上半身を起こす。

「俺の服は？」

「処分した」

「はぁ？　……それなら、アレンの服を寄越せ。このまま、帰るわけにはいかねえだろ」

　ディーンは文句を言いたいのを我慢しながら、振り返る。

　それに対し、アレンは首を左右に振った。

　……俺に寝間着で帰れと？

　いつの間にか着せられていたのは、寝るとき用の服だ。

　それを着たまま、外を出歩くのはありえない。

　……大体、なんで、俺の服を捨てたやがったんだよ。

　昨日、身につけていたのは購入したばかりの服だった。

　侯爵家とはいえ、一回着ただけの服を捨てるのには抵抗がある。