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第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる
01-5.
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「ヘンリエッタにも、母上の遺品は渡されたのだろう?」
母親から抱きしめられる愛は知らなくとも、母親のことを思い出す遺品の一つでも手元にあれば、救いになるかもしれない。
今まで問いかけることのできなかった言葉を口にしたディーンに対し、セバスは静かに首を横に振った。
「……いいえ。アリシア様の遺品はご家族のみに与えられるものでございます」
セバスの答えは、侯爵家の執事として正しいものだった。
しかし、ディーンが望んでいる答えではなかった。
「ヘンリエッタはそれを知っているのか?」
ディーンはヘンリエッタに協力はしている。
しかし、それをヘンリエッタに告げたことはない。
それは、将来の王太子妃の立場を守る為であり、母親がヘンリエッタのことを愛していたことを知っているからこその行動だった。
それが家族の愛なのか、ディーンにはわからない。
ディーンがヘンリエッタにしてあげられる行動は僅かなものだ。
それは、ディーンが家族から与え続けられている溢れんばかりの愛情と比較すれば、微々たるものであり、同じくらいの愛情をヘンリエッタに向けることはできなかった。
「いいえ。彼女は知ることはできないでしょう」
セバスは答えをごまかさない。
しかし、ヘンリエッタの名を口にすることもなかった。
* * *
セバスが御者を務める馬車は、ほとんど揺れない。
安全性を重視して運転しているのは、セバスの生真面目な性格によるものだろう。
貴族たちの邸宅が立ち並ぶ場所を走り抜け、目的地に辿り着いた。
指定された場所に馬車を停車され、慣れた手つきで扉を開ける。
当然のようにエスコートをしようと伸ばされた手を払いのけ、ディーンは馬車を下りた。
……レッドフォード大公邸。
実際に目にするのは初めてである。
大公家が社交界を主催する場合、招かれるのは大公領にある邸宅で行われるものに限る。大公家は政治に関りはするものの、基本的には大公領内で過ごし、王国の安全を守っている。
つまり、王都に存在する大公家に住んでいるのは、大公家の子息であるアレン・レッドフォードということになる。
母親から抱きしめられる愛は知らなくとも、母親のことを思い出す遺品の一つでも手元にあれば、救いになるかもしれない。
今まで問いかけることのできなかった言葉を口にしたディーンに対し、セバスは静かに首を横に振った。
「……いいえ。アリシア様の遺品はご家族のみに与えられるものでございます」
セバスの答えは、侯爵家の執事として正しいものだった。
しかし、ディーンが望んでいる答えではなかった。
「ヘンリエッタはそれを知っているのか?」
ディーンはヘンリエッタに協力はしている。
しかし、それをヘンリエッタに告げたことはない。
それは、将来の王太子妃の立場を守る為であり、母親がヘンリエッタのことを愛していたことを知っているからこその行動だった。
それが家族の愛なのか、ディーンにはわからない。
ディーンがヘンリエッタにしてあげられる行動は僅かなものだ。
それは、ディーンが家族から与え続けられている溢れんばかりの愛情と比較すれば、微々たるものであり、同じくらいの愛情をヘンリエッタに向けることはできなかった。
「いいえ。彼女は知ることはできないでしょう」
セバスは答えをごまかさない。
しかし、ヘンリエッタの名を口にすることもなかった。
* * *
セバスが御者を務める馬車は、ほとんど揺れない。
安全性を重視して運転しているのは、セバスの生真面目な性格によるものだろう。
貴族たちの邸宅が立ち並ぶ場所を走り抜け、目的地に辿り着いた。
指定された場所に馬車を停車され、慣れた手つきで扉を開ける。
当然のようにエスコートをしようと伸ばされた手を払いのけ、ディーンは馬車を下りた。
……レッドフォード大公邸。
実際に目にするのは初めてである。
大公家が社交界を主催する場合、招かれるのは大公領にある邸宅で行われるものに限る。大公家は政治に関りはするものの、基本的には大公領内で過ごし、王国の安全を守っている。
つまり、王都に存在する大公家に住んでいるのは、大公家の子息であるアレン・レッドフォードということになる。
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