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おまけ 134
しおりを挟むかすが兄さんはオレの手本だし、小さい頃に親と引き離されてからはたった一人の身内として、何が良いのか何が悪いのかを丁寧に教えて導いてくれた。
そして、今もこうして導いてくれている。
「……私に続いてゆっくり呼吸するんだ。心の中に湖面を作って、そこに満ちる水を考えて」
静かな言葉はイメージのままだ、凪いで波一つ立たない水を思わせる声がオレの耳に入ってはそこから沁みるように何かを洗い流していく。
さらさらと気持ちのいい冷たさを持つものが体の中にあるのがわかって……
合わせた掌からかすが兄さんと溶けて混ざって、境目がわからなくなるような感覚になった時、ふとすくい上げられる感覚がした。
「あ……」
「集中して。怖いことはないよ、はるひの中にある神様の力を使わせてもらうだけだからね」
体の中の水がすくわれて、どんどんと広がっていく感覚に震えそうになると目の前の銀色に変わってしまった瞳が優しく微笑む。
黒い瞳ではなくなってしまったけれど、昔から変わらないかすが兄さんの優しい眼差しに励まされるようにしてその感覚に身を委ねる。
体の中を清涼な水が勢いよく流れるような感じがして、反射的にぎゅっと目を閉じてしまった。
瞼の裏は真っ黒なはずなのに、そこにパチパチと弾ける何かを見つけた瞬間それが神から与えられた聖なる力だと唐突に理解した。体の中にあるものがわかってしまうと、かすが兄さんがそれに対して導きの手を差し伸べていたんだってことがコトコトとブロックをはめ込むように把握できていく。
かすが兄さんが欲しがっているのはこれだと確信して差し出すイメージを取ると、ぴくりと重ね合わせていた手が動いた。
するすると体の中から何かがかすが兄さんに託されて行って、瞼の裏が光でいっぱいになって閉じていられなくなった頃、頬にぽつん と雨が落ちてきた。
それに促されるようにして目を開けると、オレを静かに見つめていた目がゴトゥス山脈の方へと向けられている。
「……わ…… 」
鏡のように景色を映す瞳のその先で、銀色を纏った光の粒が幾筋も幾筋も天と地上をつなぐ架け橋のように降りていた。
それはまるで陽光を光の粒にして降らせているかのような奇跡で……
銀の雨は光を弾いてか虹色にも見えて、それは不思議な光景だった。
「かすが兄さん……これは?」
ぽかんと言うオレに微笑み返しながら少し言葉を探したかすが兄さんは「奇跡かな」と言って泣きそうな顔で雨に包まれて行くゴトゥス山脈を見上げた。
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