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黒鳥の湖
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しおりを挟む「それとも貴様が、那智黒の客か?」
「 ち、が だから、 っ」
なんとか時宝にしがみつき、ぶるぶると首を振って見せるがそんなオレの制止なんてあって無いようなものだった。
ゆっくりと神田様に向き直る姿に、ひぃ と喉の奥がか細い音を立てて……
辛うじてオレを支えていた腕の力が抜けて時宝の足元に崩れ落ちると、そこで初めて自分が威嚇フェロモンを出していることに気づいたのか、狼狽の表情を見せてオレを乱暴に抱え上げた。
「 ひ、 ぁ、っ 」
足が地につかない恐怖と威嚇フェロモンの残り香に晒されて、きつく握り締めた拳がカタカタと震えて言うことを聞かない。
抵抗らしい抵抗も、「降ろしてください」の言葉もうまく紡げなくて、オレの血の気の引いた顔を見下ろす時宝をただただ怯えて震えながら見上げるしかできなかった。
「どこへ?」の言葉をやっと絞り出せたのは、時宝が明らかに他の階とは雰囲気の違う部屋に入ろうとした時だった。
「 ……話の出来る所だ」
噛み締めた歯の間から絞り出すような声は、時宝自身も激情を堪えているのをはっきりと表していて……
「いけませんっ」
なんの躊躇いもなしに扉を押し開けて入ろうとした時宝の腕の中で、身を捩ってがっしりとした胸板を両手で突っぱねるけれど、そんなことで揺るような腕ではないのはオレが一番知っている。
力強く、固い腕は思った通り一切緩むことはなく……代わりに部屋へ入ろうとする足が止まった。
「 二人だけで部屋に入るのは規則違反ですっ」
ぎゅう と渾身の力を込めてはみるけれどやはり腕からは降ろしては貰えず、結局なにも抵抗らしい抵抗もできないまま奥へと進んでソファーへと降ろされる。
ふかふかとしているのに不愉快に沈み込まない弾力に包まれて、初めて触れる感触に身を縮こめた。
「お願いです……旦那様以外と部屋になんて 」
密室内で何が行われているか は重要じゃなくて、その事実があるだけで時宝にはペナルティーになってしまう。
神田様からオレを庇ってそんなことになったりなんかしたら、申し訳なさすぎる。
急いでソファーから降りようとしたオレを押し倒し、かすかな軋みの音をさせながら無遠慮に身を乗り出してくる。
その距離に……
鼻先に時宝の匂いがちらついて、くらくらと目が回りそうだった。
「駄目です!いけませんっ」
「俺でもか?」
「 え?」
ぐい と力強い指が顎を捉えてくる。
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