OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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黒鳥の湖

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「……運命と、そうでないオメガとの間に産まれる子では、前者の方が優れる傾向にあると聞く」

 膝の上で作った拳に嫌な汗が伝って、今すぐ逃げ出したい気分だった。

 震える視線の先で、時宝の舌が艶めかしく動いて唇を湿らせるのが見えて、


「だから俺は、運命を選んだ」


 ぎゅっと固く目を瞑ればその言葉が聞こえないんじゃないかと願って、目を閉じて俯いてしまいたかったけれど叶わず、時宝が髪を撫でる動作を甘んじて受け入れることだけがオレに出来た全てだった。



 綺麗に洗い、消毒されたガラスの小瓶は蓋がなければどれがどれだかわからない。

 もしかしたら今持っている瓶があの時、時宝が先に手にした物かもしれなかったし、後に手にした物かもしれなかった。どちらにしても、匂いがわかるαはいないし、消毒までされた瓶には匂いも残っていない。
 すべては過ぎてしまったことで、何度見直してもどうだったかはわからないから無駄だと思うのに、何か時宝との繋がりがないものかと探してしまうのは、時宝に選ばれたかった と言う思いがどうしても消えてくれないからだ。

 ────もしかしたら、瓶が入れ替わってたんじゃないかって、細やかに思ってしまうから だ。

 でも、オレと入れ違いに座敷に入った蛤貝を見た瞬間の時宝の表情を思い出すと、何もかもが無駄だと言うことを痛感した。




 ぷりぷりと怒っている蛤貝に、「そんな顔をしていると変な癖がつくよ」って注意すると、眉間に寄せた皺をほんの少しだけ和らげる。けれど怒りは収まっていないのか、傍らを通り過ぎた小石に「うるさく歩かない!」って鋭い言葉を投げかけていた。

「   何が不満なの?」
「何が!?」

 どうしてわからないの!?とでも言いたげに蛤貝はぎろりとこちらを睨む。

 正直オレにはさっぱりわからない。

 怒っている事柄が時宝に関してだろうと言うことはわかるけれど、時宝は金も持っているし見た目も悪くない、それにあれから何度も蛤貝に会うためにこちらに足を運んでくれているのだから、思い遣りがない訳ではないだろうし。

 少し、威圧感があるかな とは思うけど。

「仏頂面で偉そうだし、話してても全然面白くない!」
「じゃあこっちから面白い話題を振らないと」
「何振っても、ああ、とか言わなのに!酒も飲まないし!芸も見ないって何しにここに来てるんだよ!」

 何 と言っても、蛤貝と親しくなるため以外に何があると言うんだろうか?

 時宝自身、そこまで騒いで楽しむタイプではないように見えるから、静かにゆったりできる時間を一緒に過ごせればそれで十分じゃないのかって思う。

「でも、お金出してるから元を取ろうとがつがつしてくる人よりいいんじゃないか?」
「そう言う人は論外!そんな人には興味ないもん」

 つん と言って蛤貝はやっぱり腹の虫が治まらないのかいらいらとした風に腕を組む。



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