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かげらの子
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しおりを挟む伊次郎の部屋に置いてある荷物に未練がない訳ではなかったが、危険を犯してまで取りに行く程の物はない。金がなくては困るかと逡巡したが、家に連絡を取る間だけ凌げばどうとでもなるだろうと段取りをつける。
どこに行けば宇賀に会えるのかと悩みもしたが、山に入って行けばいいだけだ と自分を励ます。
「……宇賀に、会えるなら…………蛇なんて 」
白い腹が頬を撫でて行く感触を思い出し、「蛇なんて恐るるに足らず」の言葉は蚊の鳴く程の声でしか言う事が出来なかった。
どうしてここまであの紐状の生き物が恐ろしいのかが分からないまま、それでも少しでも前に進もうと捨喜太郎はまた天井に手を当てて力を込める。
かさ かさ
捨喜太郎は草を踏む音を聞いて警戒すると、音を立てなようにそっと力を抜いて持ち上げた天井を元に戻して息を潜めた。
「 ────」
「──── …… 」
話し声が聞こえる と言う事は少なくとも二人以上の人間が近づいていると言う事で、捨喜太郎はそれが誰か分かるまで息を潜めている事にする。
「やっと捕まったって」
「 おお。留夫様のお屋敷ん傍におったらしいの」
「よそもんは大慌てやったらしいで?」
そこで「あはは!ざまぁみろ」と二人で大いに楽し気に笑う声が聞こえて、捨喜太郎は怒鳴り出したいのを堪えるのに必死だった。
捕まった……と言うのは宇賀ではなかろうかと、そう思うと心がざわりと波打ち落ち着かない気分になって、今すぐにでもここから飛び出してこの声の持ち主を吊るし上げたいと言う欲求がふつふつと湧き上がる。
────宇賀は、きっと自分に会いに来たんだ。
捨喜太郎には何故だかその確信があり、そのせいで宇賀がまたこの村の人間に掴まったのだと分かると、怒りで目の前がちかちかと明滅するようだった。
普段の扱いを見ていれば、今こうしている間にも男達の慰み者になっている可能性は高く、その事を思うと天井を押し上げる腕に今までにない程の力が籠る。
ざり……ざり……と天井の荷物がずれ、荷物との間に詰まった土が鑢のように木の天井を削る音が聞こえた。
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