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狼の枷
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しおりを挟む「部屋に行くぞ」
重さなんて感じさせない動きであかを抱え上げ、先程うたがしたようにそちらに一切視線をやらずに大神は歩き出した。
「乱暴は止めて!」
駆け寄ってそう抗議するも、足の長さの違いかあっと言う間にうたは置いてきぼりにされ、瀬能に宥められて泣きそうな顔になっていた。
「ちょっ 自分で歩ける!」
「女に支えてもらってか?」
ぐっと言葉に詰まる。
「一人で、歩ける」
密着した状態で、体の震えはばれてしまっているだろう。精一杯の虚勢だとお互い分かっている筈なのに、視線を逸らせずに睨み合った。
ちりちりとお互いの視線が絡まって火花が飛びそうだ。
あかに出来ることは、ただ泣かないように鋭い相貌を睨み返すだけで、それだけなのに酷い息苦しさに意識を手放してしまいそうだった。
「そうか。では歩くといい」
そう言って降ろされた先はすでに絨毯で、足の裏の痛みは最小限だ。
ふか と指先が入る柔らかさに、一瞬あかは顔を輝かせそうになったが、自分の足の裏の事を思い出して急に青ざめた。
「こん こんなとこ駄目だ!」
素早い動きで辺りを見回し急いでこの絨毯から降りようとするも、逃げ場を見つける事が出来ず、あかは震えながら足元に視線を遣った。
「何を気にしている」
「汚して しまう 」
真っ青な顔でぶるっと震える姿は、本当なんだろう。
大神は何を言ってるんだと溜め息を吐いてもう一度あかを抱え上げた。
「降ろせと言ったり汚れると言ったり、忙しい奴だな」
「だ っこんな絨毯の上に下ろすなんて思ってなかったから!」
「下に敷く物だぞ?足で踏む物だ。汚れる物だろう」
至極当然だろう?と大神は同意の要らない同意を求めてあかに問いかける。
「でも 汚していいわけじゃ 」
「汚れが気に食わんのなら毎日替えさせよう」
「そんな話じゃない!」
「じゃあ何が気に食わない?」
「か 金でなんでも解決できるって思ってるとこ」
ふぅんと片眉を上げて一瞬睨んだ後、大神はあかを抱いたままソファーへと腰を下ろした。
膝に下ろされて、目を白黒させて大神を振り返る。
「では、治療が済むまでここにいる事だな」
「な んで……」
「椅子も汚す気か?」
ひっ と小さく息を飲んだ。
「それとも椅子も毎日替えさせようか?」
「大神君は好きな子は苛めるタイプかい?」
「いえ、可愛がりますよ」
そう返すと瀬能は意味ありげに片眉を上げた。
「じゃあ足裏が診やすいように向かい合って抱っこしてくれる?」
「は⁉︎あの っ」
抗議の声を上げようとしたが喋り出す前に大神の手がくるりとあかをひっくり返した。対面で膝の上に座らされて、往生際悪くばたばたと暴れたが、「うまく診れないよ」の声に唇を噛み締めて俯いた。
「噛むな、傷になる」
「今更だろっ」
口元に触れようとした手を弾き、どうしても正面に見えてしまう大神の顔から視線を逸らす。
否応なく太腿に感じる男の熱に、落ち着かなくてもぞもぞと何度も座り直した。
「ああ、石が入ってる。この足で良く二階から飛び出せたね」
「…………」
背後は見えなかったが、瀬能が足に触れた感触は感じる。足の裏と言う敏感な部分を触られて、傷の痛みと擽ったさと、正面から不躾に注がれる視線にじっとりと汗が出た。
「うた君が物凄く心配してたよ」
「 っ」
「大神君もね」
「人 を、金で買うような奴に そんな事されたくないっ」
ふと、瀬能の手が止まる。
「大神君が?」
面白そうに笑い、瀬能はピンセットを取り出した。
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