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狼の枷
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しおりを挟む「来るな‼︎」
今にもひっくり返りそうな声で怒鳴るが、体は小さく震え続けている。
「そうか」
「 っ ふ、 ぅ 。ホント、こっち来ないで 」
充血してしまった目からまた涙がポロポロと溢れる。
全身で大神を拒否する姿は頑なで、これ以上刺激しても碌なことにならないのは明白だった。
「水分だけでもしっかり摂っておくといい」
ベッド脇のサイドテーブルに置いてあるペットボトルを指差すが、その動作だけで震え出す始末だ。
細い体を、小さく縮こめ……
寄る辺ない……
ひどく庇護欲をそそる。
「また来る」
だが幾ら守ってやりたいと思っても、自身が恐怖の対象では意味がないと大神はよくわかっていた。
正気の今、自分の姿を見ない方が良いだろうと部屋を後にした。
陰鬱な気分だった。
抑制剤のせいだけではない、昏い気分だ。
けれどそれがあかに拒絶されたからからかもしれないとは、思い至らない。
コンコンとノックの音が聞こえ、煙草を咥える合間に「入れ」と告げる。
「失礼します。 やっぱり変わりないようですね。勝手かと思いましたが、瀬能先生に連絡を入れておきました。オメガの方を連れてこちらにいらっしゃるそうです」
するなと言ったことした部下に対して、怒ることもできたが、大神は煙を吐きながら小さく頷き視線を逸らす。
この状況で、それが最善なのは十分に分かっている。
けれど、
それでも、
あかを自分以外の誰かに触れさせる事に抵抗があった。
あの目が自分以外を見なければ良いと思うし、
あの体に自分以外が触れたら狂うと思った。
正気じゃない と呟いて笑う。
「大神さん?」
「 」
独特なキツい臭いに目が回りそうだった。
「勝手な真似をしてすみませんでした」
重ねて謝る直江に手を振って退出させ、大神はまた雨の降り出した外に目をやった。
普段、なんでも飄々と受け流す瀬能がベッドの隅で蹲るあかを見た途端、青くなって大神を振り返った。
「なんてことをしたんだ 」
その声に非難が混じっていたが、大神は何も言わずに受け止める。
「君、 あか君?だったよね?ぼくは医者なんだけど、ちょっと怪我を診せてもらえないかな?」
両手を広げて何も持ってないとアピールして、ジリジリとベッドに近づくが、少し近づいた所であかが首を振った。
寄らないで の仕草に、瀬能は頷いてゆっくりと下がる。
「じゃあ、ぼくじゃなくて、同じオメガ性の子ならどうかな?」
「オメガ……」
瀬能が手招くと、入口から少女がとことこと中に入ってくる。
人目を引く容姿にあかの視線がそちらに移った。
「うた と申します」
長い髪を揺らして丁寧にお辞儀をする彼女に、あかははっと動揺を見せた。
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