OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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雪虫

22

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 逆に睨みつけてやったが、直江は特にどうと反応はない。

「   はぁ」

 本業とこんな駆け引きで勝てるわけがない。

「車に乗って」
「迷子じゃないし、買い物して帰るんで大丈夫」

 それでなくとも払いきれなくて埃っぽくて、車に乗るのは躊躇ってしまう。
 ましてやそれが、いかつい黒塗りの車なら尚更だ。

「大神さんが乗っています」

 耳元で早口で言われ、ひどく危ないことのように思えて躊躇った。

「急いで」

 抑揚のない短い言葉に弾かれて、触れるのが申し訳ないほど磨かれた車のドアを開けて乗り込んだ。

 威圧感と、キツい煙草の臭い。

「随分とのんびりだったな」

 他の車に比べてだいぶゆったりしているはずの車内なのに、息苦しく感じて首元を摩った。

 ちらりと盗み見ると、存在感と威圧感の割に今日は機嫌が良さそうで、煙草を咥える口の端が上がっている。

「駅のおっちゃんのスイッチ入れちゃったみたいで  話してた。城好きみたいで 」

 この情報はどうでもいい話らしく、そうかとだけ返される。

 滑らかな滑り出しと、振動の無さに落ち着かなくて何度も座り直す。

「海は楽しかったか?」

 どこかで見られていたのかと思うと息が詰まる気にもなるが、気分転換になったのは確かだ。

「小さい頃思い出して懐かしかったんだよ。あんな親でも、昔はまともで……  」
「そうか。いつからああなった?」
「え  さぁ、なんかパチンコ行くようになってからかな」

 とん と灰を落とすのを目で追う。

「そこで知り合ったそっちの筋の人とつるむようになってから   」

 だったはず。

 昔は普通の家庭だった。
 ジジィは他所に手は出さなかったし、ババァもギャンブルにのめり込まなかった。

 何がきっかけだったのか、元々だったのに気付かなかったか、小さすぎて覚えていないからか……

「どうしてさっさと見捨てなかった?」

 見捨てて?

 高校を辞めた時に考えなくもなかったことだったけれど、

「   それでも、楽しかった記憶もあったからかなぁ」
「  お人好しだな」

 惰性とかそう言ったものだと思っていただけに大神の言葉が新鮮で、思わずパチリと目を瞬く。

「そんないいもんじゃないけど  」

 惰性よりは、お人好しと言われた方が心地良くて、面映い思いで窓の外に目をやった。

 緩やかに景色が流れるのを見て、明らかに方向がおかしいことに気がついた。

「あの、アパートに向かってるんじゃ……」
「先生からの呼び出しだ」
「え、じゃあ雪虫は?」
「セキが見ている」

 それなら安心かと思うも、雪虫がべったりだったのを思い出すと面白くない。

 万一にも何かあるとは思わないが……

「ベータの人間も置いてある。やきもきするな」
「   大神さんはセキにしないのか?」

 大人な一言にむかついて、つっけんどんに言い返してやると煙草持つ手がぴくりと動いた。

「しない。あいつには番を見つけてもらわんとな」

 そう言う割には、べったりとマーキングしてあったり、常に傍に置いてあったりするのは……言ってることとやってることが違うと指摘すると、海の藻屑になるパターンか?

「番と言えば、雪虫に当てられたそうだな」
「ぅ  」

 袖口から見える包帯を思わず隠してしまうのは後ろめたいからか。
 ぎゅっと手首を掴んでそっぽを向いた。

「ラットの感想はどうだ?」
「    」

 ぞっとした  と言うのが、正直な感想だった。

「…………なったことある?」
「ある」

 簡潔な一言に全てが集約されているようで。

 窺う視線で互いを見合い、その瞳の中の感想を探り合う。

「わかるな?」
「   わかる」
「なら、専門職のオメガと練習してこい」

 ────は?

「あの怖さがわかっているなら、雪虫を傷つけないようにテクニックだけでも覚えてこい」

 ────はぁぁぁ⁉︎

 いきなり親元から引き離されたのは別にいい。
 いきなり世話しろと連れてこられたのもいい。
 いきなり会うなと言い出したのも……しょうがない。

 でもいきなり他のやつとヤれと言われて承知できるはずがない!

「なん   ──ぃだっ!」

 急に立ち上がったせいで頭をぶつけて蹲る。

 涙で滲んだ目の前の爪先に動揺はなく、見上げた表情もいつものままだ。

「さすがに乱暴ですよ」

 見かねたのか直江が口を挟んでくれたが、大神にひと睨みされて黙ってしまった。

「わかる と言ったな?」

 Ωの誘惑の素晴らしさを、
 αの理性の脆さを、

 噛んだら堪らなく気持ちよくなれると言う確信も。

 ──わかる。

 何より、それを求める自分自身の欲求の強さを、骨の髄まで知らされてしまった。

「根性論でどうにかなるなら世の中にヒートレイプなんかない」
「わか  てる よ」

 以前ならば、美味しい話と飛びついたかもしれない。

「    」

 別に処女厨でも童貞厨でもないけれど……

「雪虫としか、したくない」

 そう呻くように言って大神を睨み返す。

 鋭い目は触れると切れそうで、正直怖いどころじゃない。

 この人に逆らえるなんて微塵も思えないけれど。

「   オレは、雪虫以外抱かない」

 大神に睨みつけられてもう少しで悲鳴をあげそうになった時、車が大きく揺れて直江が「もう間もなく着きます」と声をかけてくれた。

 苛つきを隠しもしないで、大神は煙草を消して舌打ちをする。

 逸らされた視線に、ほっとして外を見ると、奇妙な形の白い建物の地下へと入るところだった。
 比較的新しい建物だとは分かるものの、その割には増築を重ねたような印象がある……そんな場所だった。



「やぁ!」

 車内の空気を変えるように、ひょっこりと瀬能が窓から覗き込んできた。

 相変わらずの胡散臭い笑顔だが、大神の厳めしい表情より幾分もマシで、救われた気分でほっとした。

「大神くん、機嫌、悪そうだねぇ。前途ある若者に凄まないって前も言っただろー?」
「経験者から助言を言ったまでです」
「アフターピルは常備しとくようにって?」

 イラッとしたのが傍にいるオレにも分かるほど、大神の苛立ちは高まっているようで、何か起こっても巻き込まれないようにジリジリと距離を取るが、それを詰めてくるのが瀬能と言う男だ。



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