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第二十七集
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容容は取扱説明書を読破したと言う天祐さんに感心した。すると、今度は サクサク、スマホを使いこなして、ある画面を私に見せた。その画面を見て目を見開いた。初めて本物の徐有蓉を見た。写真の下には徐有蓉と書いてある。とても自分と同姓同名だとは思えない。赤い口紅を塗り、あでやかな笑みでみんなを誘惑している。まるで女優さんみたい。
髪の毛はキラキラ、肌はツヤツヤ、唇はプルプルしている。こんな綺麗な人と私を間違えるなんて信じられない。私は一度も綺麗だとか可愛いだとか言われた事無いのに……。
「名前を検索したらコレが出て来たんだ。それで居場所が分かったのだ」
お店のホームページか……。すごい。そんなことを思い付くなんて。本当に昔の時代の人?
「本当にこの時代に来て一月ですか? 私よりくわしいです」
「ふふっ、郷に入っては郷に従えと言うだろう」
疑うわけではないけど……。
とても信じられない。見知らぬ地で人探しなんて宝くじに当たるようなものだ。運が良い人はいるものだ。そんなまなざしで見ていると、勘違いした天祐さんがはげしく首を横にふる。
「なんだその目は。店に入っていない。本当だ!」
容容に驚愕の目で見られて気分が良い。本当のことを言えば全部王元の受け売りだ。人を探していると言ったらこのSNSの存在を教えてくれた。今の時代はSNSをしていない人間は居ないと言っていた。それなのに今度は 疑惑の目に変わってしまった。 私はそんな
好色な男ではない茶店だって行ったことがない。硬派な男だ。
3の39
東岳国 過去
本物の徐有蓉は乱れてしまった髪の毛を
掻き上げた。
(せっかく ヘアアイロンとムースでふんわり仕上げたのに……)
憂鬱になる。見える景色が変わってしまった。
そのことも憂鬱だ。明るくて乾いた空気。
清潔な建物。だったのに……。また、この時代に戻って来てしまった。地味で、じめじめしていて、小汚いこの時代に。これも全て沈天祐のせいだ。新しい時代で心機一転生きようと思っていたのに!
すくっと立ち上がると持っていた柄杓を腹立たしさに投げた。すると派手な水しぶきがあげて沈んでしまった。けれど直ぐ、ぷかぷかと浮かび上がった。その柄杓を見てまるで自分のようだと口角をあげた。そうよ。どんな事をされてもこの柄杓のように私は沈んだりしない。気持ちを切り替えた。
まずはこの服を何とかしないと囚の字が、でかでかと書かれている。
衣を探そうと一度も足を踏み入れたことも無いような貧困街を歩いた。
(人目につかないようにここまで来たけれど……)
台風が通り過ぎたのかと思うほど真面な家は無く。壊れたものが散乱している。
こんな所に人が住んでいるなんて……。
嗅いだことのない 臭いに指で鼻を押さえた。
同情も何も無い。感じるのは嫌悪感だけだ。
そんな中、女物の洗濯物を見つけた。
家人の目を盗んで干してある洗濯物をクルクルと巻きながら小さくして盗んだ。その後、空き家を探して窓から誰も居ないことを確かめて素早く中に入る。長く誰も住んでないらしくカビ臭く、歩く度に埃が巻き上がる。
しかし、贅沢は言ってられない。
コンコンと咳をしながら手では埃を払うと盗んだ服に着替えた。証拠隠滅にと近くの甕に今まで着ていた服を押し込んで隠した。これで歩き回れる。戸を少しだけ開けて外の様子を伺う。大丈夫。誰も居ない。
足早に通りに戻ると市井の者に紛れた。
兵でいっぱいかと思ったが何時もと同じことに笑みが浮かぶ。まだここまで追手が来ていない。これなら目的の人物に会える。
あの方が私を拒否することは絶対出来ないんだから。どんな顔をするかしら? 楽しみだわ。その顔を想像して自信ありげに笑みを浮かべた。夜になったら行動しよう。
3の40
天祐は箪笥を開けると、しまい込んでいた行季(こおり)を取り出した。こんなに早く開けることになるとは思ってもいなかった。蓋を開けると此処に来たとき着ていた衣を取り出した。一月経っても消えることなく在る。私が他の時代から来たという証拠品だ。
容容の話では二回入れ替わったが二回とも体以外はその時代の服になっていたと言っていた。私もそれは目撃している。しかし、私は徐有蓉たちと違って刀も衣もこの時代に持ち込めた。
(何故だろう…………)
まぁその事は後で良い。先に考えるのは別の事だ。容容の話を聞いてこれからの事を考えた。徐が向こうの時代に戻ったら俊豪が捜索するはずだ。そうなれば、あの方へ助けを求める。しかし、あの方にとって徐有蓉は今や無用の長物。生きていられたら、命取りでしかない。となれば徐の命を狙うはず。そうなれば、今回のように容容を自分の身代わりに使って逃げようとすることは充分考えられる。
(もし自分にも同じ力があったなら何のためらいも無く使うだろう)
もしまた、入れ替わるなら容容に頼みたい事がある。こっちの時代の徐有容は地獄のような生活をしているのに善良なままだ。頼めば叶えてくれそうだ。そうなれば俊豪の力になるし、妹に私はこの時代で元気に生きていると伝えられる。私の仇を打つために牢に侵入したと言う。そんな事は望んでない。例え本当に死んでいても普通に嫁いで幸せになって欲しい。だが、自分の無念を晴らして欲しいと言う思いもある。どちらの気持ちもあって、どちらか片方だけと言う訳には行かない。だからと言って妹に危険な事をして欲しい訳じゃない。自分の中の矛盾した気持ちを自分でも持て余している。自分本位で考えるなら、妹は幸せに、敵討ちは俊豪にやって欲しい。俊豪なら友の願いを聞き入れてくれるだろう。
しかし、この時代の物を持ってはいけない。となれば、スマホはもちろんのこと現代の紙だから手紙も駄目。容容に口頭で伝えてもらうしか手が無い。だが、奇想天外な話だけに信じて貰うには俊豪たちが信じる証拠になるようなものが必要だが………。
自分の予想では前の時代の物なら一緒に移動するはずだ。それならその時代から持って来た物を持たせれば良いのではないだろうか?
徒労に終わるかもしれないが、万が一にでも好機が訪れるならやって損はない。
衣を捲ると佩玉を取り出した。代々家長に渡される物だ。私の代で途絶えるのかと思うと先祖に顔向けできないな……。
(あの世に行ったらその時謝ろう)
佩玉に付随して付いている玉をバラバラにして首飾りを作る事にした。その珠の中で一番大きい玉を手に出ると日に透かした。
龍の模様に目尻が下がる。
3の41
一人で何平方メートルを掃除するのは大変だ。容容は額の汗を拭いた。それでも綺麗になるのは気持ちが良い。
スーパーで買った安物のホウキで、すみからすみまで掃除していると天祐さんが声を掛けてきた。
「お~い容容」
呼ばれてリビングに行くと天祐さんが手招きする。さそわれるがままそばまで行くとテーブルの上に水色の組紐が置いてあった。昔お母さんのないしょくの手伝いをした事があるから出来が良いのが一目でわかる。ペンダントネックレスのように左右対称で珠結び、あわじ玉、帳結び、梅結びで作られて最後に黄色い玉が付いている。公主が身につけるみたいにな品だ。
(かわいらしい……)
思わず手に取りそうになる。それをギュッとこぶしを作って止めさせる。勝手にさわってはダメだ。私なんかが触ったら汚れてしまう。
「ご用は何でしょうか?」
「これだ」
そう言って天祐さんが指指した。
これがどうしたと言うんだろう?
テーブルに置かれたネックレスを見てどう言う事か分からず首をかしげた。
「首飾りだ」
「はぁ……」
それは分かる。見るからに女の子の物だ。
でも何で私にわざわざ見せるんだろう……。
ここには二人しか居ない。まさか……。
期待に踊る自分の顔を指指した。
「……私に、ですか?」
髪の毛はキラキラ、肌はツヤツヤ、唇はプルプルしている。こんな綺麗な人と私を間違えるなんて信じられない。私は一度も綺麗だとか可愛いだとか言われた事無いのに……。
「名前を検索したらコレが出て来たんだ。それで居場所が分かったのだ」
お店のホームページか……。すごい。そんなことを思い付くなんて。本当に昔の時代の人?
「本当にこの時代に来て一月ですか? 私よりくわしいです」
「ふふっ、郷に入っては郷に従えと言うだろう」
疑うわけではないけど……。
とても信じられない。見知らぬ地で人探しなんて宝くじに当たるようなものだ。運が良い人はいるものだ。そんなまなざしで見ていると、勘違いした天祐さんがはげしく首を横にふる。
「なんだその目は。店に入っていない。本当だ!」
容容に驚愕の目で見られて気分が良い。本当のことを言えば全部王元の受け売りだ。人を探していると言ったらこのSNSの存在を教えてくれた。今の時代はSNSをしていない人間は居ないと言っていた。それなのに今度は 疑惑の目に変わってしまった。 私はそんな
好色な男ではない茶店だって行ったことがない。硬派な男だ。
3の39
東岳国 過去
本物の徐有蓉は乱れてしまった髪の毛を
掻き上げた。
(せっかく ヘアアイロンとムースでふんわり仕上げたのに……)
憂鬱になる。見える景色が変わってしまった。
そのことも憂鬱だ。明るくて乾いた空気。
清潔な建物。だったのに……。また、この時代に戻って来てしまった。地味で、じめじめしていて、小汚いこの時代に。これも全て沈天祐のせいだ。新しい時代で心機一転生きようと思っていたのに!
すくっと立ち上がると持っていた柄杓を腹立たしさに投げた。すると派手な水しぶきがあげて沈んでしまった。けれど直ぐ、ぷかぷかと浮かび上がった。その柄杓を見てまるで自分のようだと口角をあげた。そうよ。どんな事をされてもこの柄杓のように私は沈んだりしない。気持ちを切り替えた。
まずはこの服を何とかしないと囚の字が、でかでかと書かれている。
衣を探そうと一度も足を踏み入れたことも無いような貧困街を歩いた。
(人目につかないようにここまで来たけれど……)
台風が通り過ぎたのかと思うほど真面な家は無く。壊れたものが散乱している。
こんな所に人が住んでいるなんて……。
嗅いだことのない 臭いに指で鼻を押さえた。
同情も何も無い。感じるのは嫌悪感だけだ。
そんな中、女物の洗濯物を見つけた。
家人の目を盗んで干してある洗濯物をクルクルと巻きながら小さくして盗んだ。その後、空き家を探して窓から誰も居ないことを確かめて素早く中に入る。長く誰も住んでないらしくカビ臭く、歩く度に埃が巻き上がる。
しかし、贅沢は言ってられない。
コンコンと咳をしながら手では埃を払うと盗んだ服に着替えた。証拠隠滅にと近くの甕に今まで着ていた服を押し込んで隠した。これで歩き回れる。戸を少しだけ開けて外の様子を伺う。大丈夫。誰も居ない。
足早に通りに戻ると市井の者に紛れた。
兵でいっぱいかと思ったが何時もと同じことに笑みが浮かぶ。まだここまで追手が来ていない。これなら目的の人物に会える。
あの方が私を拒否することは絶対出来ないんだから。どんな顔をするかしら? 楽しみだわ。その顔を想像して自信ありげに笑みを浮かべた。夜になったら行動しよう。
3の40
天祐は箪笥を開けると、しまい込んでいた行季(こおり)を取り出した。こんなに早く開けることになるとは思ってもいなかった。蓋を開けると此処に来たとき着ていた衣を取り出した。一月経っても消えることなく在る。私が他の時代から来たという証拠品だ。
容容の話では二回入れ替わったが二回とも体以外はその時代の服になっていたと言っていた。私もそれは目撃している。しかし、私は徐有蓉たちと違って刀も衣もこの時代に持ち込めた。
(何故だろう…………)
まぁその事は後で良い。先に考えるのは別の事だ。容容の話を聞いてこれからの事を考えた。徐が向こうの時代に戻ったら俊豪が捜索するはずだ。そうなれば、あの方へ助けを求める。しかし、あの方にとって徐有蓉は今や無用の長物。生きていられたら、命取りでしかない。となれば徐の命を狙うはず。そうなれば、今回のように容容を自分の身代わりに使って逃げようとすることは充分考えられる。
(もし自分にも同じ力があったなら何のためらいも無く使うだろう)
もしまた、入れ替わるなら容容に頼みたい事がある。こっちの時代の徐有容は地獄のような生活をしているのに善良なままだ。頼めば叶えてくれそうだ。そうなれば俊豪の力になるし、妹に私はこの時代で元気に生きていると伝えられる。私の仇を打つために牢に侵入したと言う。そんな事は望んでない。例え本当に死んでいても普通に嫁いで幸せになって欲しい。だが、自分の無念を晴らして欲しいと言う思いもある。どちらの気持ちもあって、どちらか片方だけと言う訳には行かない。だからと言って妹に危険な事をして欲しい訳じゃない。自分の中の矛盾した気持ちを自分でも持て余している。自分本位で考えるなら、妹は幸せに、敵討ちは俊豪にやって欲しい。俊豪なら友の願いを聞き入れてくれるだろう。
しかし、この時代の物を持ってはいけない。となれば、スマホはもちろんのこと現代の紙だから手紙も駄目。容容に口頭で伝えてもらうしか手が無い。だが、奇想天外な話だけに信じて貰うには俊豪たちが信じる証拠になるようなものが必要だが………。
自分の予想では前の時代の物なら一緒に移動するはずだ。それならその時代から持って来た物を持たせれば良いのではないだろうか?
徒労に終わるかもしれないが、万が一にでも好機が訪れるならやって損はない。
衣を捲ると佩玉を取り出した。代々家長に渡される物だ。私の代で途絶えるのかと思うと先祖に顔向けできないな……。
(あの世に行ったらその時謝ろう)
佩玉に付随して付いている玉をバラバラにして首飾りを作る事にした。その珠の中で一番大きい玉を手に出ると日に透かした。
龍の模様に目尻が下がる。
3の41
一人で何平方メートルを掃除するのは大変だ。容容は額の汗を拭いた。それでも綺麗になるのは気持ちが良い。
スーパーで買った安物のホウキで、すみからすみまで掃除していると天祐さんが声を掛けてきた。
「お~い容容」
呼ばれてリビングに行くと天祐さんが手招きする。さそわれるがままそばまで行くとテーブルの上に水色の組紐が置いてあった。昔お母さんのないしょくの手伝いをした事があるから出来が良いのが一目でわかる。ペンダントネックレスのように左右対称で珠結び、あわじ玉、帳結び、梅結びで作られて最後に黄色い玉が付いている。公主が身につけるみたいにな品だ。
(かわいらしい……)
思わず手に取りそうになる。それをギュッとこぶしを作って止めさせる。勝手にさわってはダメだ。私なんかが触ったら汚れてしまう。
「ご用は何でしょうか?」
「これだ」
そう言って天祐さんが指指した。
これがどうしたと言うんだろう?
テーブルに置かれたネックレスを見てどう言う事か分からず首をかしげた。
「首飾りだ」
「はぁ……」
それは分かる。見るからに女の子の物だ。
でも何で私にわざわざ見せるんだろう……。
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