トップアイドルのあいつと凡人の俺

にゃーつ

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14 蒼side

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普通のことのはずなんだ。

食事を摂れること、お腹いっぱいになること、そんな普通のことが伊織は出来なくなっていた。

どうしてこんな目に遭わなきゃなんねえんだ?

伊織がごちそうさまって言っただけで涙を流したおばさんを見ているとこれまでがどれほどだったのかがわかる。

2人で一つの皿でカレーを食べた時、もうお腹いっぱいだと言った伊織は半人前くらいしか食べていない。以前は2人で同じ量を食べていたのにその量で満腹になってしまったなんて信じられなかった。

そんな気持ちを押し殺して伊織を褒めた。

こんな状態になるまでなんで放っておいたんだ俺は。伊織の部屋で膝の上に乗せた時も軽すぎてびっくりした。この間ドラマでお姫様抱っこした女優より軽い気がする。

今日、おばさんから見せてもらった日記を思い出す。関わった奴らが憎らしい。本気でこの世から消してやりたいほどに憎らしい。

だから、この質問は必須だ。


「なあ、お前のこと苦しめた奴の名前教えて。」


なのに、

「言わないよ。言い出したらキリがないし、なんかお前の声のトーン怖いし。俺が死ぬ時に教えてあげる。」

---ギュッ

「死ぬなんていうな。俺より先に死ぬな、俺を1人にすんな。」

日記にあった生きている意味がわからなくなったって言葉が頭に浮かんだ。それを思い出すと恐ろしくなった。

「冗談だって。そんな落ち込むなよ、蒼らしくないぞ。なんでいきなりこんなこと聞いたんだ?」

「許せないから。」

ただその一言に尽きる。許せない、許せるわけがない、一生、許さない。

そんな思いが募りに募っていて、伊織が俺に全部を話していないことだって分かっているし隠していることがあるのも分かっている。俺には今伊織を支えル今年か出来ないことが苦しくてたまらない。

俺と話していると楽しそうにしている伊織だけれども、目の下には隈が存在を主張していて腕だって男子高校生とは思えないほど細くて骨張っている。やはり先ほどの食事量が俺はかなりショックだったんだ。中学の時、東京にしかないアメリカが本社のハンバーガー屋があってそこに始めていった日に写真を撮って伊織に送ったら対抗して有名なチェーン店で一番でかいハンバーガーを食べている写真を送ってきたことがあった。そのときには東京に遊びに来たときに一緒に俺が言ったハンバーガ屋に行って店で一番でかいバーガーを一緒に食べようなってそんな約束までしていたんだ。

伊織はいつも何でも美味しそうに食べていた。小さい頃からおやつを一緒に食べたり、夕食を一緒に食べたりと食事を一緒にする機会も多かった。伊織に小食のイメージなんてなかった。伊織に目の下にこんなに目立つ隈もなかった。

そして何より、伊織の手のひらと背中に一生残る傷なんてなかった。伊織が部活を頑張ってとか、おばさんの手伝いをしていてとかの怪我じゃない。悪意の塊でしかない傷を自分の大切な人が誰か知らないやつにつけられていたなんて、正直信じたくない事実だった。

でも、伊織の前で泣くなんて絶対にしない。伊織が一番つらかったんだ、俺は庵の近くにいることができなかった。伊織が一人で必死に耐えている間、俺は伊織に会いに行く努力もせずに東京にいた。伊織が一人でもがき苦しんでいるときに俺は伊織からの連絡がなくて焦って、催促して・・・。

きっと一生後悔し続けるんだ俺は。

ならせめて、これからの伊織の人生に伊織を傷つけたやつらを関わらせたくなんてないんだ。

「許せないって言ってくれるのは嬉しいけど、俺は一生あいつらと関わっていくつもりはないし蒼に会わせたくない。だから言わない。ほら、お前今日移動したんだし疲れただろ?早く寝ろ。ベッド使って良いからさ。」

俺の膝からするりと抜けるように立ち上がってしまった伊織は布団をめくって俺にそう言ってきた。正直納得いってないけれど、今はいったん伊織の体を少しでもよくすることが第一優先。そう自分に言い聞かせることにした。

「いや、何俺だけ寝るみたいに言ってるんだ?伊織も一緒に寝るに決まってるだろ。」

伊織の細い腕をつかんでベッドに入ろうとしたが、伊織は少しの抵抗を見せた。

「いや、俺は布団敷いて下で寝るよ・・その・・」

「なんだよ、俺は一緒に寝てえんだけど。」

「その、昼間にも行ったけど、俺ここ数ヶ月まともに寝れてなくて1~2時間で起きちゃうし、うなされちゃうこともあるからさ。蒼のこと起こしたくないんだよ。分かってくれ、な??」

なんだよ、そんなことかよ。

「却下。だから一緒に寝るんだろ?別に睡眠時間が短いのなんて普段の仕事で慣れてるしお前と一緒に寝られるの俺楽しみにしてたんだけど。それに、お前がうなされたときに俺が抱きしめたいから一緒に寝るって言ってんだよ。うだうだ言わずに寝るぞ。」

伊織をベッドに引きずりこんで腕の中に伊織を閉じ込めた。
伊織から自分と同じシャンプーの匂いがして、普段くさくて強烈な香水に囲まれているから余計にこの素朴な匂いがなんともいえなくて、何年も1人の空間で眠る日々で家に人がいる、眠るときに人がいるというのが不思議な感覚はするのに伊織だって思うだけで安心できた。

「伊織、おやすみ。」

「蒼、ありがとう。おやすみ」

伊織が嫌な夢を見ないことを願って伊織を抱きしめたまま俺は眠りについた。




数時間後、伊織の異変に気づくまでは。





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