14 / 15
14 蒼side
しおりを挟む
普通のことのはずなんだ。
食事を摂れること、お腹いっぱいになること、そんな普通のことが伊織は出来なくなっていた。
どうしてこんな目に遭わなきゃなんねえんだ?
伊織がごちそうさまって言っただけで涙を流したおばさんを見ているとこれまでがどれほどだったのかがわかる。
2人で一つの皿でカレーを食べた時、もうお腹いっぱいだと言った伊織は半人前くらいしか食べていない。以前は2人で同じ量を食べていたのにその量で満腹になってしまったなんて信じられなかった。
そんな気持ちを押し殺して伊織を褒めた。
こんな状態になるまでなんで放っておいたんだ俺は。伊織の部屋で膝の上に乗せた時も軽すぎてびっくりした。この間ドラマでお姫様抱っこした女優より軽い気がする。
今日、おばさんから見せてもらった日記を思い出す。関わった奴らが憎らしい。本気でこの世から消してやりたいほどに憎らしい。
だから、この質問は必須だ。
「なあ、お前のこと苦しめた奴の名前教えて。」
なのに、
「言わないよ。言い出したらキリがないし、なんかお前の声のトーン怖いし。俺が死ぬ時に教えてあげる。」
---ギュッ
「死ぬなんていうな。俺より先に死ぬな、俺を1人にすんな。」
日記にあった生きている意味がわからなくなったって言葉が頭に浮かんだ。それを思い出すと恐ろしくなった。
「冗談だって。そんな落ち込むなよ、蒼らしくないぞ。なんでいきなりこんなこと聞いたんだ?」
「許せないから。」
ただその一言に尽きる。許せない、許せるわけがない、一生、許さない。
そんな思いが募りに募っていて、伊織が俺に全部を話していないことだって分かっているし隠していることがあるのも分かっている。俺には今伊織を支えル今年か出来ないことが苦しくてたまらない。
俺と話していると楽しそうにしている伊織だけれども、目の下には隈が存在を主張していて腕だって男子高校生とは思えないほど細くて骨張っている。やはり先ほどの食事量が俺はかなりショックだったんだ。中学の時、東京にしかないアメリカが本社のハンバーガー屋があってそこに始めていった日に写真を撮って伊織に送ったら対抗して有名なチェーン店で一番でかいハンバーガーを食べている写真を送ってきたことがあった。そのときには東京に遊びに来たときに一緒に俺が言ったハンバーガ屋に行って店で一番でかいバーガーを一緒に食べようなってそんな約束までしていたんだ。
伊織はいつも何でも美味しそうに食べていた。小さい頃からおやつを一緒に食べたり、夕食を一緒に食べたりと食事を一緒にする機会も多かった。伊織に小食のイメージなんてなかった。伊織に目の下にこんなに目立つ隈もなかった。
そして何より、伊織の手のひらと背中に一生残る傷なんてなかった。伊織が部活を頑張ってとか、おばさんの手伝いをしていてとかの怪我じゃない。悪意の塊でしかない傷を自分の大切な人が誰か知らないやつにつけられていたなんて、正直信じたくない事実だった。
でも、伊織の前で泣くなんて絶対にしない。伊織が一番つらかったんだ、俺は庵の近くにいることができなかった。伊織が一人で必死に耐えている間、俺は伊織に会いに行く努力もせずに東京にいた。伊織が一人でもがき苦しんでいるときに俺は伊織からの連絡がなくて焦って、催促して・・・。
きっと一生後悔し続けるんだ俺は。
ならせめて、これからの伊織の人生に伊織を傷つけたやつらを関わらせたくなんてないんだ。
「許せないって言ってくれるのは嬉しいけど、俺は一生あいつらと関わっていくつもりはないし蒼に会わせたくない。だから言わない。ほら、お前今日移動したんだし疲れただろ?早く寝ろ。ベッド使って良いからさ。」
俺の膝からするりと抜けるように立ち上がってしまった伊織は布団をめくって俺にそう言ってきた。正直納得いってないけれど、今はいったん伊織の体を少しでもよくすることが第一優先。そう自分に言い聞かせることにした。
「いや、何俺だけ寝るみたいに言ってるんだ?伊織も一緒に寝るに決まってるだろ。」
伊織の細い腕をつかんでベッドに入ろうとしたが、伊織は少しの抵抗を見せた。
「いや、俺は布団敷いて下で寝るよ・・その・・」
「なんだよ、俺は一緒に寝てえんだけど。」
「その、昼間にも行ったけど、俺ここ数ヶ月まともに寝れてなくて1~2時間で起きちゃうし、うなされちゃうこともあるからさ。蒼のこと起こしたくないんだよ。分かってくれ、な??」
なんだよ、そんなことかよ。
「却下。だから一緒に寝るんだろ?別に睡眠時間が短いのなんて普段の仕事で慣れてるしお前と一緒に寝られるの俺楽しみにしてたんだけど。それに、お前がうなされたときに俺が抱きしめたいから一緒に寝るって言ってんだよ。うだうだ言わずに寝るぞ。」
伊織をベッドに引きずりこんで腕の中に伊織を閉じ込めた。
伊織から自分と同じシャンプーの匂いがして、普段くさくて強烈な香水に囲まれているから余計にこの素朴な匂いがなんともいえなくて、何年も1人の空間で眠る日々で家に人がいる、眠るときに人がいるというのが不思議な感覚はするのに伊織だって思うだけで安心できた。
「伊織、おやすみ。」
「蒼、ありがとう。おやすみ」
伊織が嫌な夢を見ないことを願って伊織を抱きしめたまま俺は眠りについた。
数時間後、伊織の異変に気づくまでは。
食事を摂れること、お腹いっぱいになること、そんな普通のことが伊織は出来なくなっていた。
どうしてこんな目に遭わなきゃなんねえんだ?
伊織がごちそうさまって言っただけで涙を流したおばさんを見ているとこれまでがどれほどだったのかがわかる。
2人で一つの皿でカレーを食べた時、もうお腹いっぱいだと言った伊織は半人前くらいしか食べていない。以前は2人で同じ量を食べていたのにその量で満腹になってしまったなんて信じられなかった。
そんな気持ちを押し殺して伊織を褒めた。
こんな状態になるまでなんで放っておいたんだ俺は。伊織の部屋で膝の上に乗せた時も軽すぎてびっくりした。この間ドラマでお姫様抱っこした女優より軽い気がする。
今日、おばさんから見せてもらった日記を思い出す。関わった奴らが憎らしい。本気でこの世から消してやりたいほどに憎らしい。
だから、この質問は必須だ。
「なあ、お前のこと苦しめた奴の名前教えて。」
なのに、
「言わないよ。言い出したらキリがないし、なんかお前の声のトーン怖いし。俺が死ぬ時に教えてあげる。」
---ギュッ
「死ぬなんていうな。俺より先に死ぬな、俺を1人にすんな。」
日記にあった生きている意味がわからなくなったって言葉が頭に浮かんだ。それを思い出すと恐ろしくなった。
「冗談だって。そんな落ち込むなよ、蒼らしくないぞ。なんでいきなりこんなこと聞いたんだ?」
「許せないから。」
ただその一言に尽きる。許せない、許せるわけがない、一生、許さない。
そんな思いが募りに募っていて、伊織が俺に全部を話していないことだって分かっているし隠していることがあるのも分かっている。俺には今伊織を支えル今年か出来ないことが苦しくてたまらない。
俺と話していると楽しそうにしている伊織だけれども、目の下には隈が存在を主張していて腕だって男子高校生とは思えないほど細くて骨張っている。やはり先ほどの食事量が俺はかなりショックだったんだ。中学の時、東京にしかないアメリカが本社のハンバーガー屋があってそこに始めていった日に写真を撮って伊織に送ったら対抗して有名なチェーン店で一番でかいハンバーガーを食べている写真を送ってきたことがあった。そのときには東京に遊びに来たときに一緒に俺が言ったハンバーガ屋に行って店で一番でかいバーガーを一緒に食べようなってそんな約束までしていたんだ。
伊織はいつも何でも美味しそうに食べていた。小さい頃からおやつを一緒に食べたり、夕食を一緒に食べたりと食事を一緒にする機会も多かった。伊織に小食のイメージなんてなかった。伊織に目の下にこんなに目立つ隈もなかった。
そして何より、伊織の手のひらと背中に一生残る傷なんてなかった。伊織が部活を頑張ってとか、おばさんの手伝いをしていてとかの怪我じゃない。悪意の塊でしかない傷を自分の大切な人が誰か知らないやつにつけられていたなんて、正直信じたくない事実だった。
でも、伊織の前で泣くなんて絶対にしない。伊織が一番つらかったんだ、俺は庵の近くにいることができなかった。伊織が一人で必死に耐えている間、俺は伊織に会いに行く努力もせずに東京にいた。伊織が一人でもがき苦しんでいるときに俺は伊織からの連絡がなくて焦って、催促して・・・。
きっと一生後悔し続けるんだ俺は。
ならせめて、これからの伊織の人生に伊織を傷つけたやつらを関わらせたくなんてないんだ。
「許せないって言ってくれるのは嬉しいけど、俺は一生あいつらと関わっていくつもりはないし蒼に会わせたくない。だから言わない。ほら、お前今日移動したんだし疲れただろ?早く寝ろ。ベッド使って良いからさ。」
俺の膝からするりと抜けるように立ち上がってしまった伊織は布団をめくって俺にそう言ってきた。正直納得いってないけれど、今はいったん伊織の体を少しでもよくすることが第一優先。そう自分に言い聞かせることにした。
「いや、何俺だけ寝るみたいに言ってるんだ?伊織も一緒に寝るに決まってるだろ。」
伊織の細い腕をつかんでベッドに入ろうとしたが、伊織は少しの抵抗を見せた。
「いや、俺は布団敷いて下で寝るよ・・その・・」
「なんだよ、俺は一緒に寝てえんだけど。」
「その、昼間にも行ったけど、俺ここ数ヶ月まともに寝れてなくて1~2時間で起きちゃうし、うなされちゃうこともあるからさ。蒼のこと起こしたくないんだよ。分かってくれ、な??」
なんだよ、そんなことかよ。
「却下。だから一緒に寝るんだろ?別に睡眠時間が短いのなんて普段の仕事で慣れてるしお前と一緒に寝られるの俺楽しみにしてたんだけど。それに、お前がうなされたときに俺が抱きしめたいから一緒に寝るって言ってんだよ。うだうだ言わずに寝るぞ。」
伊織をベッドに引きずりこんで腕の中に伊織を閉じ込めた。
伊織から自分と同じシャンプーの匂いがして、普段くさくて強烈な香水に囲まれているから余計にこの素朴な匂いがなんともいえなくて、何年も1人の空間で眠る日々で家に人がいる、眠るときに人がいるというのが不思議な感覚はするのに伊織だって思うだけで安心できた。
「伊織、おやすみ。」
「蒼、ありがとう。おやすみ」
伊織が嫌な夢を見ないことを願って伊織を抱きしめたまま俺は眠りについた。
数時間後、伊織の異変に気づくまでは。
104
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる