浮かんだノイズ

吉良朗(キラアキラ)

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第19話 フェノミナ

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 女が帰ったあと木村はしばらく放心状態になっていたが、予定どおり夜行バスで実家に帰っていった。

 一時はどうなるかと思ったが、気をとりなおした後の木村は、過去の俺の麻衣に対するちょっとしたでき心についても言及することはなかった。

 そう、単なるでき心……
 いや、冗談程度のものだ。
 そもそも最初から本気ではなかったのだから――
 相手にされなかったのではない。俺が、相手にしていなかったのだ。
 そして、それに気づいた麻衣が真に受けなかっただけだ――
 
 そう考えると、木村がどう解釈しているのか気にはなったが、同時にこういった思考さえもどこかで麻衣に覗かれているのではないかと少しうすら寒くなった。

 麻衣はもうだとあの女は言っていた。
 いや、そもそもそのような存在自体、俺は信じてはいないのだが、それでも何か心の声を聞かれているような、頭の中を覗かれているような、そんな気がして仕方がなかった。

 俺はふとステージを見た。
 女はしきりにあのステージを気にしていた。
 
 いったい何なんだあの女は?
 そういえば、そもそもなぜここに来た?
 麻衣が呼んだとでもいうのだろうか……?
 あるいは……?
 いや、ばかばかしい、やめよう……
 
 ブチッ、ブチッ。
 その時、頭上で音がした。

 まただ……

 見上げると、やはりスピーカーからだった。
 スピーカーは続けて、小さくサーッという砂嵐のような音を鳴らしていた。

 アンプの電源は入れていない。
 どこか近くでトラックでも走っていて、そいつの無線の電波でも拾っているのだろうか……?
 
 俺は不可解に思いながらもさっさと片づけを終わらせて店を閉めた。


 ×    ×    ×          


 故郷へ帰った木村は、一週間後に自分の動画チャンネルのリンクをLINEで知らせてきた。

 俺は、客のいない店内でカウンターに座り、スマホでリンクをクリックした。
 すると、ギターを弾いて唄う木村の動画が再生された。
 相変わらず、可もなく不可もないようで少し不可に寄った、そんな曲だった。

 俺はすぐに動画を停止した。
 それは木村の曲がどうこうという理由ではなく、突然天井のスピーカーと共にスマホからノイズが鳴りだしたからだった。

 ブチッ、ブチッ――
 ザ、ザザ、ザーッ――
 ガガガ、かかかぁ、くわぁわわわ……
 わわわぁぁああぁうぁえあうぇめめああぅぁ……
 ブチッ、ザザ、ブチチブチッ――

 動画アプリを閉じたが、ノイズはおさまらないため少し焦ったが、慌てて電源をオフにしてみるとスマホからのノイズは止んだ。
 しかし、天井のスピーカーの方のノイズは鳴り続けていた。
 試しにスピーカーの配線を外してみたのだが、結果は変わらなかった。

 いったいなんなんだ。
 いつまでこの調子なんだ――

 俺はため息をついた。
 このノイズのせいで、ついに店にはまったく客が入らなくなっていた。

 そもそもノイズが鳴るより前から客があまり入ってこなくなったのも不可解だが、今では入ってきてもこれもまた原因不明なスピーカーからのノイズのせいですぐに帰られてしまう。
 しかもノイズはだんだん人間や動物か何かの声のようにも聞こえる、そんな音を発するようになっていた。

 俺はオーディオ設備の業者に連絡するため、スマホを持って店の外に出た。
 スマホは店内で電源を入れているとノイズが鳴るが、店から出ると問題はなかった。

 階段を上って地上に出たところで電話をかけると、業者の担当者が、明日の夕方なら寄れる、というので来てもらうよう頼んだ。

 通話を切ると、通りの先から、おそらく仕事を終えて駅に向かう途中なのだろう、木村を最初に連れてきた警備会社の男が歩いてくるのが見えた。

「ひさしぶりですね」
 声をかけると、男はバツが悪そうな顔をしたが、俺はかまわずに続けた。
「たまには店に寄ってくださいよ」
 俺が言うと、男は階段の下の店のドアの方を一瞥いちべつしていぶかし気《げ》な表情をした。

「あ、あー、最近こっち通らなくってね」

 警備会社から駅へはこの通りが一番近くて自然なルートだ。
 俺はわざといてみた。
「あれ? 会社変わったんですか?」

 男は少し顔をしかめた。
「あ、いや、まぁ……違うんだけど……あー、悪いけどちょっと急ぎの用があるんで、また……」
 そう言ってそそくさと去っていく男の表情や声からは、『』の意志などない事がありありと見てとれた。

 俺は、遠ざかる男の背中を目で追った。

 男が店に寄りつかなくなったのは、美樹がいなくなったからだろうか?
 いや、この男は俺と美樹の仲を知ってからも店には来ていた。
 酒場として、俺の店を気に入っていたはずだ。 
 それが、いつからか店に寄りつかなくなった。

 そう、ちょうど、店の物が、不可思議な現象が起き始めた頃からだ。
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