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第14話 憑依
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視界の隅で木村が俺をジッと見ているのが分かった。俺が何かいいわけでもするのだろうと待っているようだった。
しかし、俺は何も答える気はなかった。
そんな状態で膠着状態になりかけたところで女が割って入った。
「ねえ、マスター」
俺は内心助かったというような気分で女を見た。
「わたし、さっき月ちゃんに聞いて、いろいろ知っちゃったんだけど……」
そう言って女は少し言い淀んだ。
そうか……自分に聞いた、か――
俺の思考回路はおかしくなりそうだった。
しかし、女は気にもとめずに真っ直ぐな目で俺を見た。
「マスター、お客さんに手を出してたんですね」
「え? マジかよ? え? 誰?」
木村が間髪入れずに言った。
俺は思わず弁解しそうになったのを慌てて飲み込んだ。
なんで俺がこいつらに弁解しなくてはいけないんだ――
そもそも、なんでこの女は知ってるんだ――?
女は誰もいないステージの方を一度振り返ってから再び俺を見た。
「全部バレてたみたいですよ」
その瞬間、俺の背筋に凍るような悪寒が走った。
誰に……?
誰にバレてた、っていうんだ……?
そして、なんで……?
なんで、今ステージの方を見た――?
「気をつけた方がいいです……」
女が言った。
どういう意味だ?
この女は何なんだ?
いい加減にしてくれ。
なぜ?
なぜ、知っている?
いや……
どこまで知ってる――?
「ごめん、マスター、わたしもう時間がないみたいだから。あとは月《ルナ》ちゃんに相談してみたほうがいいと思う」
女はそう言うと、慌てた様子で木村を見た。
その後、俺は困惑して、しばらく呆然としていたのだと思う。
どのくらいだろうか?
おそらく、ほんの数分、いや、たった数秒だったのかもしれない。
気づくと、木村と女は話し続けていた。
「本当に……麻衣なんだ……そうか……そうか……」
木村はそう言いながら、何か自身に理解させるように何度も頷いていた。
俺はそんなようすを呆然としたまま眺めていた。
すると、急に木村がこちらを見た。
「さっきの話……」
「え?」
木村の目に軽蔑《けいべつ》と敵意が入り混じったものが浮かんでいるのを見て、俺は思わず狼狽えてしまった。
木村が再び女を見た。
「その……マスターと……その……」
そう言って、木村は俺の方を横目で探るように見た。
木村が何を言わんとしているのかは分かった。
俺は内心動揺していたが、それを悟られないようにわざと腹立たしげに女に言った。
「いや、ちょっとさぁ、テキトーなこと言われちゃ困るよ」
そうだ、麻衣とは何もなかった。そう、それは事実だ。
「ごめん、マスター。ちょっと喋りすぎた」
麻衣は苦笑いでペロっと舌を出した。
まだ、この女は麻衣のフリをするのか――
いや、本当は分かっていた――
木村ほど素直に受け入れたわけではなかったが俺にももう分かっていた。
この女には麻衣が憑依している――
信じがたいが、そう考えないと辻褄が合わなかった。
しかし、俺は何も答える気はなかった。
そんな状態で膠着状態になりかけたところで女が割って入った。
「ねえ、マスター」
俺は内心助かったというような気分で女を見た。
「わたし、さっき月ちゃんに聞いて、いろいろ知っちゃったんだけど……」
そう言って女は少し言い淀んだ。
そうか……自分に聞いた、か――
俺の思考回路はおかしくなりそうだった。
しかし、女は気にもとめずに真っ直ぐな目で俺を見た。
「マスター、お客さんに手を出してたんですね」
「え? マジかよ? え? 誰?」
木村が間髪入れずに言った。
俺は思わず弁解しそうになったのを慌てて飲み込んだ。
なんで俺がこいつらに弁解しなくてはいけないんだ――
そもそも、なんでこの女は知ってるんだ――?
女は誰もいないステージの方を一度振り返ってから再び俺を見た。
「全部バレてたみたいですよ」
その瞬間、俺の背筋に凍るような悪寒が走った。
誰に……?
誰にバレてた、っていうんだ……?
そして、なんで……?
なんで、今ステージの方を見た――?
「気をつけた方がいいです……」
女が言った。
どういう意味だ?
この女は何なんだ?
いい加減にしてくれ。
なぜ?
なぜ、知っている?
いや……
どこまで知ってる――?
「ごめん、マスター、わたしもう時間がないみたいだから。あとは月《ルナ》ちゃんに相談してみたほうがいいと思う」
女はそう言うと、慌てた様子で木村を見た。
その後、俺は困惑して、しばらく呆然としていたのだと思う。
どのくらいだろうか?
おそらく、ほんの数分、いや、たった数秒だったのかもしれない。
気づくと、木村と女は話し続けていた。
「本当に……麻衣なんだ……そうか……そうか……」
木村はそう言いながら、何か自身に理解させるように何度も頷いていた。
俺はそんなようすを呆然としたまま眺めていた。
すると、急に木村がこちらを見た。
「さっきの話……」
「え?」
木村の目に軽蔑《けいべつ》と敵意が入り混じったものが浮かんでいるのを見て、俺は思わず狼狽えてしまった。
木村が再び女を見た。
「その……マスターと……その……」
そう言って、木村は俺の方を横目で探るように見た。
木村が何を言わんとしているのかは分かった。
俺は内心動揺していたが、それを悟られないようにわざと腹立たしげに女に言った。
「いや、ちょっとさぁ、テキトーなこと言われちゃ困るよ」
そうだ、麻衣とは何もなかった。そう、それは事実だ。
「ごめん、マスター。ちょっと喋りすぎた」
麻衣は苦笑いでペロっと舌を出した。
まだ、この女は麻衣のフリをするのか――
いや、本当は分かっていた――
木村ほど素直に受け入れたわけではなかったが俺にももう分かっていた。
この女には麻衣が憑依している――
信じがたいが、そう考えないと辻褄が合わなかった。
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