そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない

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新生活

畳のありがたさ

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 翌日、鉄次郎が種をまき終える頃、シルアとルルがやってきた。ルルが両手を広げて喜ぶ。

「完成だぁ!」
「はい。朝から来てくださって、先ほど完成したところです」

 近くで休んでいた職人たちにルルがぺこりとお辞儀をする。職人たちは大慌てで立ち上がり、何度も頭を下げていた。

「このように喜んでくださると大工として冥利に尽きます」
「本当にお世話になりました」
「いえ。何かお困りの際はまた呼んでください」

 職人たちが城へと戻っていく。彼らは城直属の職人らしいので、また会う機会があるだろう。

 うずうずしながら待っているお姫様たちに鉄次郎がドアへ手を差し出す。

「我が家へようこそいらっしゃいませ」
「あの、入っても?」
「もちろん」

 ドアを開けて二人を促す。

「有難う御座います!」

 意気揚々と入った二人だが、玄関に施された段差にシルアが首を傾げる。

「浸水対策ですか?」
「いえ、ここで靴を脱ぐのです」
「靴を?」

「はい、私の国での習慣です。室内用にスリッパを用意しておりますが、裸足でも構いません。これなら床が汚れないでしょう」

 日本での習慣を説明すると、シルアとルルが顔を見合わせた後、揃って靴を脱いだ。

「失礼します」

 玄関前に置かれたスリッパを履く。鉄次郎は裸足だ。

「まだ慣れないですが、ずっと靴より良いかも。私の部屋でも取り入れようかな」
「ルルも裸足で部屋歩きたい」

 好評のようで鉄次郎が微笑む。

「本当なら床材として有名な畳もご紹介したかったのですが、さすがにここでは無いみたいです」
「畳、気になります。どこかの国に似たようなものがあるといいですね」
「そうですね」

 そこでふと思った。鉄次郎は山を彷徨っていたところにシルアと出会ったからここにいる。しかし、ここ以外にも国は存在する。日本にいた頃よりずっと時間はあるので、機会があれば旅をするのもいいかもしれない。

「旅、かあ」
「鉄ちゃん旅に出ちゃうの!?」

「あ、いや、独り言です。すぐに出るということはありませんよ。たった今家も完成したばかりですし」
「よかったぁ。もし行く時はルルも付いていくね」

 ルルの申し出は有難いが、大事な皇女を連れて歩くにはかなりの障害がありそうだ。

「それなら私も!」
「おやおや、皇帝がお認めになって、護衛の方が付くなら大丈夫かもしれません」
「やったぁやったぁ!」

 シルアとルルが手を叩いて飛び上がる。鉄次郎が笑いながら小さく息を吐いた。
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