そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない

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新生活

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 シルアが言った通り、中庭にはルルがいた。紙とペンを持っているので、風景でも描いているのだろうか。

「ルル」

 呼ばれても、ルルは一点を見つめるままだ。あまり邪魔してもまずいので、二人はそろりと近づき、ルルを見守った。紙にはやはり絵が描かれていて、庭の花々が紙の中で踊っていた。

「素晴らしい才能だ」

 この世に生まれてまだ十年も経っていないのに、とても太刀打ちが出来ない。鉄次郎は感嘆した。

「……鉄ちゃん!」

 ペンを置いたルルが顔を上げ、二人に気が付く。ルルはすぐ立ち上がり、鉄次郎にダイブした。

「随分親し気のある呼び名だ。嬉しい」
「鉄ちゃん、遊びに来たの?」
「ルル、私もいるんだけど」

 よほど鉄次郎を気に入ったらしい。抱っこされたまま、ぎゅう、と小さな腕を大きな背中に回し下りようとしない。

「あの、ルル皇女。今日はお願いがあって来ました」
「そういう呼び方、他の人たちと一緒で嫌。ルルがいい」
「ルルさん」
「ルル」
「ルル」
「うん」

 満足そうに頷いたことを確認し、鉄次郎は切り出した。

「私に絵を描いてほしいのです」
「絵を? なんで?」
「貴方の絵が素晴らしいから」
「私の……?」

 ルルの頬が紅潮する。シルアがルルの肩に手を置いた。

「いつも美しい絵を描くでしょ。今だって、ほら」

 岩の上に置いてある紙を持ち上げ、ルルに見せる。

「すごく素敵。色も綺麗だね」
「……ありがと」

 こんなに魅力溢れる絵なのに、褒められていないのかルルが顔を鉄次郎の胸元に押し付けながら返事をした。子猫みたいだ。鉄次郎が微笑む。

「いいよ」

 とんと地面に下り、ルルが両手を腰に当てた。実に可愛らしい姿に、二人で悶える。

「どうしたの?」
「ううん。ありがとう、私たちじゃ描けなかったから助かる」
「どんな絵を描くの? お花?」

 やる気があるうちに描いてもらおう。鉄次郎が持っていた紙を開いて見せた。

「最初は自分で描こうと思ったのですが、どうにも上手くいかなくて」

 ルルがそれを覗き込む。

「これは……新種のモンスター?」
「家、ですね」

 やっぱり家には見てもらえなくて、今夜は鉄佳を抱いて寝ようと思った。
 ルルに家を建築しようとしていること、そのデザイン図を描こうとしていることを伝える。一生懸命聞いてくれた彼女は、有難いことに嫌な顔一つせず手伝うと言ってくれた。

「有難う御座います」
「楽しそう。それに鉄ちゃんといられるし」
「ふふ、私もルルといられて嬉しいです」
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