婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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「メアリー王妃様。アンヌの特技って一瞬で変わったあの体系に関係するのですか?」

「私も詳しくは知らないのよ。でも呼吸法を覚えれば誰にでもできると言っていたわ」

「いや、いや、いや。ありゃ無理だろう」

陛下は女性陣とミカエルが興奮して話す姿を静かに見つめていた。今日みんなを徴集したのは結婚式のアイデアを披露するためだった。意気揚々とみんなの前に現れたのはいいが、アンヌにいいところをすべて持っていかれてしまった。結局自分の出番は一切なかったのだ。

「わしは先に戻ろうかの・・・」

王妃をちらっと見たが、聞こえていないのかこちらを見ることもなかった。哀愁を漂わせ部屋を出ていく陛下をウエン王子とワイアットは何とも言えない目で見送ったのだ。

この時誰も気づいていなかったが、もうひとつの『ざまあ』が成立していた。メアリー王妃は元々ウェスト王国の出身だった。エスト王国に嫁いだツッティ弟妃は腹違いの姉妹だ。しかし、姉に当たるメアリーは前王妃の子供でウェスト王国国王が再婚した義母に冷たくあしらわれ、ノル王国に嫁いだ親戚を頼って生活をしていたので本人にウェスト人の自覚がないのだ。

父上が結婚相手を探していた時都合よく呼び戻されたのがメアリーだ。シェドは当時遠方な国だけに野蛮な国だと認識されていた。

義理の妹のツッティに『貴方ならお似合いの国ね』と馬鹿にされ、王族から嫁いだと思えないほどの僅かな準備で嫁いできたのだ。しかし、メアリーはシェド王国に着くと迎えに来た褐色の肌の美丈夫な父上に一目惚れし、父上も遠くから嫁いでくれた母上を大切にした。

当時は政略結婚にも関わらず愛し合うふたりに国民は大いに喜んだという。

***

「なんでメアリーが王妃で私は弟妃なのよ・・・ザブールが国王になればすべて上手く行くと思ったのに。ウラーラがこのタイミングで正気に戻るなんてすべてが台無しだわ」

「あの・・・ツッティ弟妃様、ハウバウト国王陛下がお呼びです」

「聞こえてるわよ!何度もうるさいわね」

(公務以外一切話しかけても来ないのに、一体何の用があるのよ)

「中庭で久しぶりにお茶でも飲もうなんて白々しい。あの男のせいで権力も削がれ不自由な生活をしているのに」

中庭に着くとハウバウト陛下と妻であるマデリン王妃が優雅にお茶を始めていた。

「用意に準備がかかりお待たせいたしました」

「いや、急に呼んだのは此方の方だ。気にしないで欲しい」

「はい・・・」

夫のヘキシオも一緒のようだ。久しぶりに見るヘキシオは相変わらず私を見ても笑顔すら見せない。

ウェスト王国より軍事力も高いこの国に嫁ぐことができたことを最初は喜んだが、初夜が終わると夫になったヘキシオと話す機会はなかった。会うとすれば夜伽だけ。そして長男が産まれると夜伽にすら呼ばれなくなったのだ。待遇は悪くないが、政治には一切かかわるなといったところか。

「ツッティ様も健やかにお過ごしなようで」

「はい。ありがとうございます、マデリン王妃」

「まあ、座ってくれ」

「ところで私にご用とは?」

「ああ、ツッティはシェド王国のメアリー王妃と腹違いの姉妹だったな。シェド王国の第一王子であるウエン王子とオッド侯爵家のレイシャル嬢の結婚が囁かれているのは知っているか?ノル王国はシェド王国と同盟を組み、ウェスト王国も後継者争いが片付き新たな国王であるベガル陛下がオーロラ商会と手を組んだ。我々は後れを取っている」

「オーロラ商会・・・」

(っち、ボーロがヘマをしたせいで)

「そうだ。それでメアリー王妃とはどれほど仲がいい?」

「メアリーお姉さまと?」

「腹違いといえども姉妹だ。手紙のやり取りぐらいはしているだろ?」

(ふっ、そういうことね。シェド王国との足がかりが欲しいわけね)

「お父様に嫁げばその国に尽くせと教えられているので手紙のやり取りすらしていませんが、姉妹なので会えば話はできると思います」

「そうか。ヘキシオどうだ・・・親書を出すか」

「オーロラ商会の規模を考えると親書を出すのは賛成ですが、ツッティが役に立つかは疑問です」

「なっ、なぜです。身内の私がいれば何かと役に立つはずです」

「・・・・・」

「ヘキシオ。ツッティもそう言っているのだ。一緒に行ってくれないか?」

「・・・・どうなっても知りませんからね」

「行くとは?」

「シェドにヘキシオが直接親書を届ける。今まではシェドと一切の関りがなかったが、これからはシェドを無視しては政治が立ち回らなくなるからな」

「シェドがですか・・・あの野蛮な国が」

「ツッティ・・・君のその偏見をヘキシオは心配しているのだ。野蛮な国と言われていたのはまだ貿易もなく、お互いを認知していなかった時代の話だ。肌の色が違うなど些細なことで目を曇らせるな」

「申し訳ありません。今の言葉は取消します」

「言葉にはくれぐれも注意するように。では、話は終わりだ」

***

「信じられないわ。あの姉が嫁いだ野蛮な国がそこまで重要視されるなんて」

「ツッティ様、これはチャンスです。メアリー王妃を利用してツッティ様のお立場を知らしめるのです」

ベルはウェスト王国から連れてきた侍女のひとりだ。幼いころから私を知っている人物でもある。ベルにはザーブルが産まれた時にもヘキシオとの初夜の時にも影で動いてもらった。

「そうだけど、メアリーのことは何も知らないのよ。会ったことも2・3回しかないし」

「それでも腹違いの姉妹という事実は消せません。姉妹というだけである程度は考慮されるでしょう」

「そうだといいのだけど、一緒にシェドに行く間もヘキシオと一緒なのよ。気が重いわ・・・」

「ヘキシオ陛下には気をつけなさいませ。誘惑をして少しでも仲が良くなるように努力をしないといけません」

「普段は隙がないから近づけないけど、移動の間は一緒にいるものね。頑張ってみるわ。ベル、媚薬の用意も忘れないで」

「もちろんでございます」

「ふっふっふ。楽しい旅になりそうね」
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