婚約破棄されることは事前に知っていました~悪役令嬢が選んだのは~

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明かされたアンヌの正体

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「レイシャル様、おめでとう。ウエン王子と上手く行ったようだな」

「ありがとう、ミカエル。ところでもう体は大丈夫なの?」

「ぐっふ・・・それは聞かないでくれ」

2・3日の休暇のはずが、5日も休む羽目になったミカエルはアウアー卿に『君が男で良かった。もし結婚したのが女性だったら息子は嫁を抱き殺していたかもしれん』と感謝されたのだ。そして『加減を覚えるようにきつく言っておく』と約束をしてくれた。

戻ってみたら陛下に呼ばれたと言ってベンハーやサマリ達が会議の場に集まっていた。レイシャルとウエン王子に何故かリリアンも来ている。

「リリアンは何故呼ばれたんだ?」

「私も分からないのよ」

「レイシャル様は何か聞いているか?」

「分からないけどキースを探して欲しいと陛下に伝えていたから、もしかしてキースの話もあるのかしら?」

ワイアットも王子の護衛で部屋にいるので概ねいつものメンバーが呼ばれた形だ。

「よくぞ集まってくれた」

最後に部屋に入ってきたのは陛下と王妃、そしてアンヌに見知らぬ女性と・・・女装の騎士?

「みなに紹介しよう。ドルトムント一族のアミスティ殿とレスティ殿だ」

「5人・・・」

「レイシャル?大丈夫か」

「はじめまして、キースの姉のアミスティです」

体のラインにぴったりのワインレッドのドレスは光の加減で赤に見える瞳と同じ色だ。妖艶でさり気ない仕草まで色っぽい。

「私はレスティです。キースの妹です」

レスティは動きやすさ重視なのか膨らみのあるパンツ姿だった。ボーイッシュで中世的な顔つきは男の子にも見える。

「あの・・・その女装している方は。ぶにゅっ」

聞くなというようにウエンに口を塞がれた。

「私はシュガー」

「私はハニー」

「私はドッグです」

「何故いきなり犬が入って。ぶにゅっ」

「聞くな、レイシャル。きっと聞いては駄目なやつだ」

「ふっふっふ。レイシャル様は話に聞いた通り可愛い人ね」

(うわ、同じ女性なのにぞくっときたわ)

女装している騎士を残しみんながテーブルに座ると、ワイアット様とミカエルがレスティ様の前にあるものを片付けだした。なんとなく手持ち無沙汰なレスティ様を横目に話が始まった。

「貴方がリリアン様ね。キースが迷惑をかけてごめんなさいね」

「いえ、無理は承知ですから」

「もう、兄上はどこにいたのかしら。雲隠れなんて酷いわね」

「キースを見つけたら罰が必要ね」

「ええ、私が代わりに思いっきり殴ってやるわ」

「やめなさい。そんなことを言うからキースは何も言わなかったのですよ」

「お母様は何か知っているの?」

「「「「「え?」」」」」

全員の脳が停止した瞬間だった。

「お母様・・・・・アンヌが?」

「そうです。私の本名はアンヌ・AA・ドルトムントです」

「AAって」

ドルトムントのミドルネームはドルトムント一族の位になっている。今までキース・A・ドルトムントの名前を持つキースが最高位と考えていたのだ。AAとは何か・・・。

「キースは一族をまとめる頭首で間違いはないわ。お母様のAAは決して表には出ることがない最高責任者といったところかしら」

「・・・・・・」

「そのような人が何故シェド王国の侍女長をしているのです」

ウエンが不思議そうにアンヌに見つめた。

「その話をする前に・・・キース、入っていらっしゃい」

「さすが母上ですね」

キースがいつの間にかテラスの外にいたようだ。扉を開けて入ってきた。

「キース様・・・今までどちらに?」

「・・・・・」

「貴方のそばで見守っていたのでしょう。ドルトムントは敵が多いので、キースが結婚すると聞いてどう反応するか確認していたのでしょう」

「はあ、すべて母上はお見通しですか」

「キースも座りなさい。では、なぜ私が侍女長をしているか話を戻しましょう。それはレイシャル様のお母様であるシオン様に誓ったからです。レイシャル様を見守ると」

「お母様が・・・?」

「ええ、我々はオッド卿に助けられ恩を返すためシオン様に近づいたのです。そしてシオン様の気持ちを汲み取り貴方を見守ることを決めたのです」

「だったらどうしてミリュー王国ではなく、シェドで侍女をしていたの?」

「カミュール侯爵のご子息だったオルソー様からミリューの実状を聞いたからです。オルソー様は元々オッド卿とライバルを張るほどの秀才でした。学園を卒業し文官としてオッド卿と一緒に王宮で働き始めましたが、病で倒れた時にオッド卿の使いと噓をついてお見舞いに行くとミリューがいかに悪政であるか王族が欺瞞であるかを教えてくださいました。そして、家族を愛するオッド卿はいつかこの国を捨てるはずだとも」

アンヌが誰かを思い出すように遠くを見つめると、キースが続きを話し出した。

「オッド卿は宰相の補佐として王宮で働き始めましたが、オルソー様が配属されたのは財務官補佐でした。オッド卿より早く国の裏事情を知ってしまったのです。オルソー様は病と言われていますが、ミリュー王族の秘薬である人格を崩壊させる薬で亡くなりました。脳を侵されたオルソー様はオッド卿にこの話ができなかったのだと思います。それで我々はレイシャルの婚約者であるスザン王子の素性を調べ始めました」

「スザン王子はちょろかったわね」

「ええ、アミスティお姉さんのハニートラップに簡単に引っかかったものね」

ふたりが何かを思い出したようにクスクスと笑う。

「オッド卿がスザン王子のことを調べていたので、婚約破棄できる状況を作ったのよ」

「でも、オッド卿が亡くなった。そうするとリリアンがスザン王子を誘惑してくれたのです。見守るこちらはヒヤヒヤしていましたがね」

「始まりはシオン様の思いからでした。そしてオッド卿の家族を思う気持ちと、周りの人々の思いが複雑に絡み合って今の状況を作り上げたのです」

壮大な話にみんな頭を整理するのに精一杯だった。

「でも、全て我々がお膳立てした訳ではありません。人々との出会いもオーロラ商会の収益もレイシャル様の努力が実を結んだのです」

「・・・・・何故全てを話してくれたの?」

「ふっふっふ。もうこれで大丈夫だと判断したからです。我々は元の世界に戻ります。お会いするのもこれが最後でしょう」

「もう会えないのか?」

ウエンからすると私よりアンヌと一緒にいた時間は長い。乳母のような存在だったアンヌが最後だと口にすると少し驚いた表情を見せた。

「ええ、ウエン王子も立派に成長しました。もう私がいなくても大丈夫でしょう」

アンヌはいつも通りの大らかな笑顔で答えた。

「ウェスト王国のリブルとウラーラは残しますが、何かあっても我々と連絡を取る手段はないのでご了承ください」

そう答えたのはキースだった。

「それとリリアン貴方の気持ちに応えられません。私には妻子がいるのです。仕事柄隠していて申し訳ありません」

「いえ、私が無理やり便乗したのでキース様は何も悪くありません。ただ、あの時助けていただいたことにお礼を言いたかったのです。今日はお会いできて良かったです」

「気づいていましたか。貴方を助けることができて私も嬉しかったですよ」

「では、行きましょうか」

「そうね。では陛下ならびに王妃様。今まで正体を明かさず侍女長として雇っていただいてありがとうございます。大変楽しい日々でございました」

「アンヌがいないと寂しくなるな」

「私もお茶友達がいなくなって寂しいわ。体に気を付けてね」

「ええ、皆様もお元気で・・・」

アンヌは最後にみんなをぎゅうぎゅうに抱きしめ、豊満な胸で窒息させようとしていたけど誰も文句を言う人はいなかった。

王宮の2階から帰っていくアンヌ達の姿を探すと、キースやアミスティ様、レスティ様と一緒に歩くスレンダーなアミスティ似の女性が一緒に歩いていた。今まで知っている豊満な体の女性ではない。そして、その女性が私達を振り返ると『ちゃんと食べて眠るのですよ』と叫んだ。



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