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卒業式の3カ月前、ひとりで高級店が立ち並ぶカフェに向かった。
人気店だけに人の出入りも多い。待ち合わせを装って、店内を覗くとスザン様達が見えた。前世の記憶だと、この店でリリアンにせがまれスザン王子は婚約破棄を決心する。
我ながら大胆な行動だとは思うが、これから行う計画に確信が欲しかったのだ。
店内の小物や壁紙もスザン様達が座っている位置までも物語で読んだ通り。まるでデジャブーでも見ているようだ。
今はリリアンという女生徒を取り囲んで、私の悪口を言っているようだ。王子の顔は王都民であれば誰でも知っている。それに婚約者と言えば私しかいない。悪口を言われているショックより、王族の事情を赤裸々に話す王子に言葉も出ない。
取り巻き連中も止めるどころか一緒になって盛り上がっている。平然と婚約者の悪口を言っているが、跡継ぎでもない彼らが貴族でいる為には貴族令嬢と結婚するしかない。そうしないと平民になる訳だが、彼らはそれを分かって言っているのだろうか。
周りの客が、触らぬ神も祟りなしと何食わぬ顔で帰っていく。
「ああ、レイシャルはよっぽど王妃になりたいのだろう」
「でも彼女、ちょっと前にお父さんを亡くしたのでしょ・・・そんな言い方可哀そうよ」
「ああ、リリアンは優しいな。宰相はやり過ぎたんだよ。商売に手を出したのはいいが、陛下をないがしろにして王都を我が物顔で蹂躙した罪は重い。俺にも顔を合わせれば五月蠅くお説教してきたからな」
「そうです。宰相と言う地位を使って貴族にも圧をかけていた」
「ああ、その通りだ」
「でも、王都民の為に多額の寄付をしていると聞くわ・・・」
「世間体を気にしているんだ。裏ではやましいいこともしているだろう」
「そんなことを言っていいの?いずれ王妃になる方よ」
「レイシャルの資産を取り上げるためにな。真面目だけの女は好きではないが、オーロラ商会を王族が管理すれば王都民も幸せになる、これはみんなのためなんだ。リリアンは心配するな」
「そうです。リリアンは何も心配する必要はありません。僕たちが守りますから」
「ええ・・・」
「リリアンはそれより側室になることを考えていればいい。そして、リリアンとの間に出来た子供を次期国王にすると約束しよう」
王子は愛おしそうにリリアンの頬を撫でた。
レイシャルは頭が真っ白になっていた。
オーロラ商会が陛下をないがしろにしている?お父様は何度も陛下に今の状態を改善するように訴えていた。なにも行動に移さなかったのは陛下の方だ。暴動が起きるのを阻止した英雄と言ってもいいはずだ。
それに私と結婚して、オーロラ商会を取り上げるつもりだなんて・・・今までのお父様の苦労や、私の努力はどうなる。
父の悪口が聞こえた時点で飛び出して行きたくなるのをぐっと我慢した。
「それよりリリアンを王妃にして、レイシャルを側室にするか」
スザン様が自分の考えに満足したように何度も頷いた。取り巻きの子息たちも「おお!」と声を上げ喜んでいる。
「それはいい考えですね。リリアンに王妃の座を奪われたと知れば、どのような顔をするか楽しみです」
「それは面白い余興になる。そうだな、卒業パーティーの時に婚約破棄を言い渡そう」
「それはいい考えです。多くの人が集まった場所で断罪すれば、みんなの目も覚めるでしょう」
「でも、銀髪の女性を見ただけで彼女かどうかは分かりませんよ」
「銀髪など何人もいないだろう。信憑性が増すだけで十分だ」
これ以上聞くに堪えられないと後ろを振り向くとスミスが立っていた。スミスが見つめる先には、リリアンに肩を抱き楽しそうに話す王子が映っていた。スミスの瞳には静かに揺らめく怒りが見えた。
「レイシャルお嬢様を迎えに来たら偶然話が聞こえて。早く帰りましょう」
足の力が入らず、スミスに支えられて馬車に乗り込む。
「お嬢様、唇から血が・・・」
「私唇を噛んでいたのね。気づかなかったわ」
スミスが差し出したハンカチに刺繍されたオーロラ商会のマーク。幼き母が持っている白ユリは「純潔」「無垢」を現し、母性の女神の象徴でもあった。幼き母の顔は、前世で私を守ろうと戦ってくれた母の顔を思い出させた。
(このまま物語と同じ結果にはしない。私だけでも戦ってお父様が大切にしていたオーロラ商会を守ってみせる)
レイシャルの目に強い意思が宿ったのをスミスは見逃さなかった。
人気店だけに人の出入りも多い。待ち合わせを装って、店内を覗くとスザン様達が見えた。前世の記憶だと、この店でリリアンにせがまれスザン王子は婚約破棄を決心する。
我ながら大胆な行動だとは思うが、これから行う計画に確信が欲しかったのだ。
店内の小物や壁紙もスザン様達が座っている位置までも物語で読んだ通り。まるでデジャブーでも見ているようだ。
今はリリアンという女生徒を取り囲んで、私の悪口を言っているようだ。王子の顔は王都民であれば誰でも知っている。それに婚約者と言えば私しかいない。悪口を言われているショックより、王族の事情を赤裸々に話す王子に言葉も出ない。
取り巻き連中も止めるどころか一緒になって盛り上がっている。平然と婚約者の悪口を言っているが、跡継ぎでもない彼らが貴族でいる為には貴族令嬢と結婚するしかない。そうしないと平民になる訳だが、彼らはそれを分かって言っているのだろうか。
周りの客が、触らぬ神も祟りなしと何食わぬ顔で帰っていく。
「ああ、レイシャルはよっぽど王妃になりたいのだろう」
「でも彼女、ちょっと前にお父さんを亡くしたのでしょ・・・そんな言い方可哀そうよ」
「ああ、リリアンは優しいな。宰相はやり過ぎたんだよ。商売に手を出したのはいいが、陛下をないがしろにして王都を我が物顔で蹂躙した罪は重い。俺にも顔を合わせれば五月蠅くお説教してきたからな」
「そうです。宰相と言う地位を使って貴族にも圧をかけていた」
「ああ、その通りだ」
「でも、王都民の為に多額の寄付をしていると聞くわ・・・」
「世間体を気にしているんだ。裏ではやましいいこともしているだろう」
「そんなことを言っていいの?いずれ王妃になる方よ」
「レイシャルの資産を取り上げるためにな。真面目だけの女は好きではないが、オーロラ商会を王族が管理すれば王都民も幸せになる、これはみんなのためなんだ。リリアンは心配するな」
「そうです。リリアンは何も心配する必要はありません。僕たちが守りますから」
「ええ・・・」
「リリアンはそれより側室になることを考えていればいい。そして、リリアンとの間に出来た子供を次期国王にすると約束しよう」
王子は愛おしそうにリリアンの頬を撫でた。
レイシャルは頭が真っ白になっていた。
オーロラ商会が陛下をないがしろにしている?お父様は何度も陛下に今の状態を改善するように訴えていた。なにも行動に移さなかったのは陛下の方だ。暴動が起きるのを阻止した英雄と言ってもいいはずだ。
それに私と結婚して、オーロラ商会を取り上げるつもりだなんて・・・今までのお父様の苦労や、私の努力はどうなる。
父の悪口が聞こえた時点で飛び出して行きたくなるのをぐっと我慢した。
「それよりリリアンを王妃にして、レイシャルを側室にするか」
スザン様が自分の考えに満足したように何度も頷いた。取り巻きの子息たちも「おお!」と声を上げ喜んでいる。
「それはいい考えですね。リリアンに王妃の座を奪われたと知れば、どのような顔をするか楽しみです」
「それは面白い余興になる。そうだな、卒業パーティーの時に婚約破棄を言い渡そう」
「それはいい考えです。多くの人が集まった場所で断罪すれば、みんなの目も覚めるでしょう」
「でも、銀髪の女性を見ただけで彼女かどうかは分かりませんよ」
「銀髪など何人もいないだろう。信憑性が増すだけで十分だ」
これ以上聞くに堪えられないと後ろを振り向くとスミスが立っていた。スミスが見つめる先には、リリアンに肩を抱き楽しそうに話す王子が映っていた。スミスの瞳には静かに揺らめく怒りが見えた。
「レイシャルお嬢様を迎えに来たら偶然話が聞こえて。早く帰りましょう」
足の力が入らず、スミスに支えられて馬車に乗り込む。
「お嬢様、唇から血が・・・」
「私唇を噛んでいたのね。気づかなかったわ」
スミスが差し出したハンカチに刺繍されたオーロラ商会のマーク。幼き母が持っている白ユリは「純潔」「無垢」を現し、母性の女神の象徴でもあった。幼き母の顔は、前世で私を守ろうと戦ってくれた母の顔を思い出させた。
(このまま物語と同じ結果にはしない。私だけでも戦ってお父様が大切にしていたオーロラ商会を守ってみせる)
レイシャルの目に強い意思が宿ったのをスミスは見逃さなかった。
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