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お父様が亡くなった時ショックで思い出したことがある。
お父様が亡くなったと知らせを受けた日、気を失った私は前世を思い出したのだ。私の記憶だとレイシャルは卒業パーティーで婚約破棄を言い渡される。
なぜ知っているかと言うとこの物語を前世で読んだからだ。
日本という国に住んでいた私は、母とふたりで貧しい生活を送っていた。遊びに行くお金や本を買うお金もないので、河原で偶然拾った本をよく読んでいた。
「本当に麻衣はその本が好きね」
「友達にもらったけど、結構面白いのよ」
1年前に父親は母と私を捨てて浮気相手と家を出て行った。それも通帳や家にあったお金や金目なものを一切合切持っていってしまったのだ。私が子供のころから貯めていたお年玉が入った貯金と母が働いたパートの給料でなんとかギリギリ食べて行ける生活だった。
苦しかった反面、父の機嫌を気にする必要がなくなった生活は私たちにとって1番穏やかで楽しい時間でもあった。
「じゃあ、お母さんお仕事に行ってくるね」
「うん。ご飯炊いて待ってるね」
「ちゃんと勉強もしなさいよ」
「分かってるって」
***
母を見送って2DKの狭い部屋で、ごろんと寝転がる。
「レイシャルみたいにお金があっても幸せになれない人っているんだな。もったいないなあ~」
そんなオッド公爵家は毎日両親の喧嘩が絶えず、母親はいつもその不満をレイシャルに当たる。そのストレスを使用人たちに向けるのだからもう悪循環でしかない。物語の中のレイシャルは母親が甘やかしたせいでとても我儘だった。使用人達は奴隷のように扱うレイシャルを憎んでいたのだ。
「食べて行けるだけでも幸せなのにね~」
父親は宰相の仕事が忙しいと言って余り屋敷には近寄らず、母親は寂しさと不満から贅沢な生活から抜け出せなくなっていたのだ。そして、父の知らないところでオッド侯爵家の資産まで手に付けていた。
私が記憶するお母様は家族や使用人たちから愛されていたし、両親も仲が良かった。物語のお母様が全くの別人のようだ。
物語と同じなのはお母様の身体が弱かったこと。でも、シェド王国へ静養には行っていない。お父様は確かにシェド国王と親しくなったが、雰囲気の悪い屋敷に連れて帰ることはなかった。だから、シェド王国へも招待もされていないし、ウエン王子は登場すらしていないのだ。
そして決定的に違うのは、レイシャルとスザン王子の仲が良好だったことだ。物語のレイシャルは成績も悪く、スザン王子の自尊心を傷つけることはなかった。それにレイシャルは王妃になりたい一心でスザン王子に媚びていたのだ。それはスザン王子にとっても都合が良かった。
都合のいい女にされたレイシャルは、14歳の時にスザン王子に『どうせ結婚するのだから』と言われ処女も捧げている。
そして、男爵令嬢のリリアンの登場だ。真実の愛に気づいたとスザン王子に告げられるが、処女まで捧げたレイシャルが面白くないのは当たり前だ。悉くリリアンを虐めるのだ。レイシャルの我儘に付き合ていた友人もそのことを知るとあっと言う間に離れて行った。今までの計画がすべて崩れ落ちたのだ。
母親が亡くなり、父はオーロラ商会を興したが、その時初めて母が資産の大部分を使い込んでいることを知る。そのせいで、規模は今とは考えられないほど小さい。
レイシャルも働く気もなく、父が協力を仰いでも無関心だった。父は僅かな従業員と必死に収益を上げ得ようとしたが、そのお金を寄付しても世の中を変えるには焼け石に水だ。
王都は益々治安が悪くなり、暴動が起きるのではないかと物々しい雰囲気になっていた。
それでも不幸続く、お父様が亡くなり茫然とするレイシャルに追い打ちをかけたのは王都での暴動だ。
貴族も屋敷を襲われ、置いてあった金目のものは全部奪われた。屋敷で働いていたし使用人は誰ひとりレイシャルを助けることもなく、寧ろこの屋敷を襲うよう誘導した節もある。
公爵家は破綻。気づいたらレイシャルは娼婦として売られその後のレイシャルの最後は書かれていなかった。
***
レイシャルが目を覚ました時全身から汗をかいて寝着が肌に張り付いていた。そして、しばらくの間身震いが止まらなかったのだ。
もう一つ思い出したのは、レイシャルの母は前世の母だという事だ。前世での死因も思い出した。浮気をした父が家に戻ってきて母によりを戻そうと迫ったのだ。
母は『もう、貴方の出る幕はない』と断ると、感情的になった父が台所から包丁を握って戻ってくると母と私に包丁を突き刺した。母は必死に私を守ろうと庇ってくれたが、最後は覚えていない。きっとその時に死んだのだろう。
時間軸は良く分からないけれど、この世界でも私は母から産まれた。それに母も前世を覚えていたのではないかと思う。
『大丈夫・・・・もう、イベントは起きないわ』母の最期の言葉。
レイシャルはずっと意味が分からなかった。でも、前世を思い出した今はその言葉の意味が理解できる。前世でも大好きだった母が、今世でも守ってくれたのだ。
「ありがとう、お母さん」
お父様が亡くなったと知らせを受けた日、気を失った私は前世を思い出したのだ。私の記憶だとレイシャルは卒業パーティーで婚約破棄を言い渡される。
なぜ知っているかと言うとこの物語を前世で読んだからだ。
日本という国に住んでいた私は、母とふたりで貧しい生活を送っていた。遊びに行くお金や本を買うお金もないので、河原で偶然拾った本をよく読んでいた。
「本当に麻衣はその本が好きね」
「友達にもらったけど、結構面白いのよ」
1年前に父親は母と私を捨てて浮気相手と家を出て行った。それも通帳や家にあったお金や金目なものを一切合切持っていってしまったのだ。私が子供のころから貯めていたお年玉が入った貯金と母が働いたパートの給料でなんとかギリギリ食べて行ける生活だった。
苦しかった反面、父の機嫌を気にする必要がなくなった生活は私たちにとって1番穏やかで楽しい時間でもあった。
「じゃあ、お母さんお仕事に行ってくるね」
「うん。ご飯炊いて待ってるね」
「ちゃんと勉強もしなさいよ」
「分かってるって」
***
母を見送って2DKの狭い部屋で、ごろんと寝転がる。
「レイシャルみたいにお金があっても幸せになれない人っているんだな。もったいないなあ~」
そんなオッド公爵家は毎日両親の喧嘩が絶えず、母親はいつもその不満をレイシャルに当たる。そのストレスを使用人たちに向けるのだからもう悪循環でしかない。物語の中のレイシャルは母親が甘やかしたせいでとても我儘だった。使用人達は奴隷のように扱うレイシャルを憎んでいたのだ。
「食べて行けるだけでも幸せなのにね~」
父親は宰相の仕事が忙しいと言って余り屋敷には近寄らず、母親は寂しさと不満から贅沢な生活から抜け出せなくなっていたのだ。そして、父の知らないところでオッド侯爵家の資産まで手に付けていた。
私が記憶するお母様は家族や使用人たちから愛されていたし、両親も仲が良かった。物語のお母様が全くの別人のようだ。
物語と同じなのはお母様の身体が弱かったこと。でも、シェド王国へ静養には行っていない。お父様は確かにシェド国王と親しくなったが、雰囲気の悪い屋敷に連れて帰ることはなかった。だから、シェド王国へも招待もされていないし、ウエン王子は登場すらしていないのだ。
そして決定的に違うのは、レイシャルとスザン王子の仲が良好だったことだ。物語のレイシャルは成績も悪く、スザン王子の自尊心を傷つけることはなかった。それにレイシャルは王妃になりたい一心でスザン王子に媚びていたのだ。それはスザン王子にとっても都合が良かった。
都合のいい女にされたレイシャルは、14歳の時にスザン王子に『どうせ結婚するのだから』と言われ処女も捧げている。
そして、男爵令嬢のリリアンの登場だ。真実の愛に気づいたとスザン王子に告げられるが、処女まで捧げたレイシャルが面白くないのは当たり前だ。悉くリリアンを虐めるのだ。レイシャルの我儘に付き合ていた友人もそのことを知るとあっと言う間に離れて行った。今までの計画がすべて崩れ落ちたのだ。
母親が亡くなり、父はオーロラ商会を興したが、その時初めて母が資産の大部分を使い込んでいることを知る。そのせいで、規模は今とは考えられないほど小さい。
レイシャルも働く気もなく、父が協力を仰いでも無関心だった。父は僅かな従業員と必死に収益を上げ得ようとしたが、そのお金を寄付しても世の中を変えるには焼け石に水だ。
王都は益々治安が悪くなり、暴動が起きるのではないかと物々しい雰囲気になっていた。
それでも不幸続く、お父様が亡くなり茫然とするレイシャルに追い打ちをかけたのは王都での暴動だ。
貴族も屋敷を襲われ、置いてあった金目のものは全部奪われた。屋敷で働いていたし使用人は誰ひとりレイシャルを助けることもなく、寧ろこの屋敷を襲うよう誘導した節もある。
公爵家は破綻。気づいたらレイシャルは娼婦として売られその後のレイシャルの最後は書かれていなかった。
***
レイシャルが目を覚ました時全身から汗をかいて寝着が肌に張り付いていた。そして、しばらくの間身震いが止まらなかったのだ。
もう一つ思い出したのは、レイシャルの母は前世の母だという事だ。前世での死因も思い出した。浮気をした父が家に戻ってきて母によりを戻そうと迫ったのだ。
母は『もう、貴方の出る幕はない』と断ると、感情的になった父が台所から包丁を握って戻ってくると母と私に包丁を突き刺した。母は必死に私を守ろうと庇ってくれたが、最後は覚えていない。きっとその時に死んだのだろう。
時間軸は良く分からないけれど、この世界でも私は母から産まれた。それに母も前世を覚えていたのではないかと思う。
『大丈夫・・・・もう、イベントは起きないわ』母の最期の言葉。
レイシャルはずっと意味が分からなかった。でも、前世を思い出した今はその言葉の意味が理解できる。前世でも大好きだった母が、今世でも守ってくれたのだ。
「ありがとう、お母さん」
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