偽りオメガの虚構世界

黄金 

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67 様々な夜

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「今日楽しかったねぇ~。」

「ああ。」

 本来はバース性を考慮して修学旅行の部屋割りはシングルになっている。既に番になっているペアのみにダブルの部屋は許可されている。
 のだが、当たり前のように雲井ペアは二人部屋を取っていた。
 今年の二年生はアルファが多い。
 それを目当てに入ったオメガも多い。
 なので今年はダブルの部屋希望者が多かった。
 学校側は諦めた。もう自由にしてと許可しまくっている。しれっと普通のカップルも混ざっているが、校長は何も起きませんようにと神頼みをするしか無かった。

 二人は同じ布団で寝るのは初めてではない。
 識月が本邸で暮らすようになってから、よく晩御飯を父皓月同様離れに食べに行き、そのまま仁彩の部屋で寝る事もある。
 そう、本当に寝るだけ。

 今日もダブルベットに潜り込んだ仁彩を 抱え込むように識月は抱き締めた。
 細い華奢な身体だ。
 大きな猫目が見上げてきて、にこりと笑うので、オデコにキスを送った。

「おやすみなさい。」

「おやすみ。」

 これ以上に進んでいない。
 雫と皓月が密かに大丈夫だろうかと心配している事を、二人は知らない。
 二人とも特に話し合ってはいないが、初めては発情期でと決めていた。
 きっと周りにそれを教えれば、どんなロマンチストだよと馬鹿にされるとわかっているので、二人の秘密にしている。

 だが、仁彩は興味がある。
 まさかアルファの恋人が、しかも識月の様な誰もが認めるアルファ中のアルファが、仁彩の未来の番になるのだ。
 ポワポワっと嬉しさが込み上がる。
 実はこの修学旅行で、少しだけ先に進んでみてはどうだろうかと考えていた。
 最後まではしないが、すこーしだけ。
 ただ仁彩にその知識は薄い。
 少しがどこらへんか迄は分かっていなかった。
 なので識月に聞くつもりでいた。
 
「ね、ねぇ識月君…。」

 ベッドサイドのウォールライトだけ点けられた部屋は薄暗い。
 仁彩の期待に煌めく瞳を見て、識月はコクリと喉を鳴らしてしまい、気付かれなかっただろうかと内心狼狽えた。

「あのね、そのぉ~、キスしながらシコシコしても良い?」

 識月は目を見開き驚いたまま固まった。
 仁彩の発言に驚いたのだが、当の本人はわぁ識月君驚いてる~と呑気に笑っている。

「…………………誰がそんな事…、鳳蝶、いや楓か?」

「う、うん、楓君がそう言ったら大丈夫って教えてくれたんだよ。」

 少し頬を染めながら仁彩は見上げてくる。
 仁彩、鳳蝶、楓はよく三人で男子オメガ会を開いている。単なる無駄話をしているだけの時間だが、その時どこまで識月と進んだのか聞かれたのだ。
 なのでまだセックスした事ないとは言っていないが、普段は一緒にお休みと言って寝ているだけだと教えた。
 鳳蝶は識月君の理性に感心していた。仁彩は誰ともお付き合いした事が無かったのでよく分からなかった。楓君も流石雲井識月、鉄壁の精神力が逆に怖いと言っていた。
 楓君はそれを崩したくて堪らないと言い出し、このセリフを言ってみてくれとお願いしてきたのだ。
 シコシコ?と思ったが、何となくそれを言えば少し進むのではと仁彩も考えた。
 もう少しだけ、識月君と気持ち良い事をしてみたかった。

「……してみたいのか?」

「え、うん。少しだけね、すこーしだけ、もう少し識月君を感じられたらなぁって。」

 言ったらダメだっただろうかと覗き込むと、切長の目が仁彩を見つめていた。視線が痛いほどに熱い。
 普段冷静で表情が変わる事が無いだけに、仁彩はその色気とも言える熱い視線にぶわわと顔を赤らめた。

 後頭部をゆっくりと撫でられる。
 すすすと降りて項を人差し指で愛撫しながら、ゆっくりとキスが降りてきた。

「じゃあ、すこーしだけ。」

 そう識月君が少し笑って呟くと、身体を弄られズボンに手が侵入してきた。
 キスは続いている。
 いつもより苦しいのに気持ち良い。いつも寝る前にするキスは舌が入ってきてもゆっくりと気持ち良い快感が伴うものだったのに、今のキスは身体の中の熱を呼び覚ます激しいものだった。

「……………んっ、………ぅんん、……んんっ!」
 
 パンツ越しに仁彩の陰茎が撫でられゾクリと背筋に快感が昇った。
 硬さが増して、ピンと勃ち上がると、熱い塊が押し付けられる。
 いつの間にか自分のものも、識月君のものも外気に晒されていた。
 ドクドクとして暖かい生き物のようだ。
 識月の片手で両方握り込まれると、それが倍以上ある識月の陰茎なのだとハッキリ分かる。
 ふわわぁっ!おっきい!熱い!
 と、心の中で叫んでいたが、口は識月に塞がれているので喘ぎ声しか出ない。
 
 ゆっくりと扱かれて、先っぽから出てくる汁が識月の手に絡まり出すと、グチュグチュと音が鳴り出した。
 その音がまた仁彩の興奮を上げてくる。
 気持ちいい、苦しいけど、気持ちいい。
 頭の中はそれでいっぱいになる。
 これが少しだけ先と言うなら、この先はどうなるんだろうと考えると、ますます興奮してくる。

「…んっ!んんんんんっ!」

 舌を絡め取られ、ジュウと吸われると、先に吐精してしまった。
 はぁはぁと息が上がる。

「仁彩、もう少し我慢して。」

「…………ふぇ?……ぴゃっ!」

 仁彩が吐き出した白濁を更に手に絡めて、仁彩の柔らかい陰茎とまだ硬くて熱い識月の陰茎をグチグチと扱かれる。
 気持ち良いのか苦しいのか分からず、ぐるぐると目がまわる様だ。

「…あっ………あっ……やぁ、ん!」

「ん、もう少し…………っ!」

 暫く扱かれ続け、漸く識月が果てる頃には、仁彩はふにゃふにゃに力尽きていた。
 

「…ふぇ……、もうしゅこし、しゅごい………、………、…………ぐぅ。」

 仁彩は力尽きて寝てしまった。

「…………………。」

 セックスは未経験とは知っていたが、発情期が既に何度か経験済みなので、もう少し耐性があると思っていたのに、仁彩は思ったよりも耐性が無かった。
 少し、か。少し…………。

「少しだけ先に耐性をつけるか……。」

 識月は静かに決意を固めた。








 オメガ男子会で楓が仁彩にいらぬ事を言含めていたが、大丈夫だろうかと鳳蝶は心配していた。
 相手が理性の強い識月なので、無茶苦茶に抱かれる心配はしていないが、なんせ仁彩なので不安が残る。
 仁彩の突飛な行動は読めないのだ。
 何も考えていない人間程予測不可能な者はいない。
 
 予測不可能といえは今目の前にいる光風もそうなのだが。
 こっちは頭が悪いわけでも、何も考えてないわけでも無い筈なのだが、全く行動が読めない。
 最近は鳳蝶に合わせてくれるので、識月は何処に居るのか分かりやすくなったと言っていた。
 識月にも読ませない行動を取れる光風は、ある意味凄いなと思う。

「どーしたのぉ?そんな熱心に見つめて~。襲ってほしいの?」

「ちがうわっ!」

 既にこちらも就寝に入っていた。
 光風と鳳蝶は二人きりで夜を過ごすのは番になった日を除けば初めてだった。
 なので鳳蝶はかなりこの修学旅行に緊張していた。

 昨夜は初日の移動から直ぐにスキー研修となり疲れて寝てしまい、今日も一日スキー。
 これは合宿では?と言う意見も多々あるが、概ね皆楽しんで過ごした。
 識月と仁彩が本当にソリで遊んでたのには皆生暖かい目で見送っていた。これが他の人間なら馬鹿にされるところだが、あの雲井カップルに茶々を入れる人間はいない。

「明日は散策だね~。」

「一応グループ行動だけどな?」

 本来は文化遺産や寺仏閣、市場、街散策等を巡るのだが、今回は雲井皓月の計らい?の下、会社所有の研究施設が近いという事で、希望する研究所を見学出来る様になっていた。
 鳳蝶と光風は環境科学研究課が所有する植物園に行くつもりだ。完全ガラス張りの温室になっており、多種多様な植物が育てられていると聞き、光風が行きたいと言ったからだ。あらゆる環境とあらゆる四季に分けられているらしく、相当な広さがあるので専用の乗り物を貸し出してくれる。ここを選んだ生徒はかなり多い。
 もっと偏差値の高い高校なら違う研究施設を選ぶのだろうが、この高校は県内でも中の上あたり。分かってて皓月は制限付きだが許可を出した。どうせ大した所は見ないと思われている。
 生徒が選んだ場所は、植物園、水族館ばりの水槽が見れる海洋研究所、試食ができる食品加工研究及び調理部門だった。
 一部例外は識月と仁彩が秘匿部署で歓待を受けるのと、楓と史人の薬学研究所だけだった。
 他家のアルファ生徒が大人しく一般生徒に混じっていたのは、何か圧力があったのだろうと思われるが、鳳蝶は怖くて聞けなかった。

「俺達のグループバラバラだもん。」

「……そーだな。」

 明日はほぼ光風とデート散策になりそうだと思い、鳳蝶は少し嬉しくもある。
 病院を退院してから直ぐにテストがあり、そこから直ぐに修学旅行だったので、一足飛びに番になった二人はちゃんとデートもした事がない。
 修学旅行がデートと言うのもおかしいが、二人行動でゆっくり遊べるのだ。

「鳳蝶、嬉しい?」

 光風が横に並んで寝転がり、鳳蝶を覗き込む様に聞いてきた。
 深く奥底まで見るような視線に、鳳蝶は頬を赤く染めてプイと横を向く。明日が来るのが待ち遠しいと思う自分の心を見透かされた気がしたからだ。



 光風の目には明日の話をする時の鳳蝶の周りに、咲き誇る花が見えている。
 鳳蝶の感情の波に乗って揺れる花群は、香るはずのない匂いを放つ。
 鳳蝶から溢れる花の吐息。
 瞬く度に散る光が、光風に想像力を働かせる。
 恥ずかし気に横向く顔に手を伸ばし頬を撫でると、長い睫毛が何度か瞬いた。

「鳳蝶、可愛いね。」

 相変わらず唐突に褒める光風に、鳳蝶は真っ赤になった。
 鳳蝶には何故光風が可愛いと言うのかよく分かっていない。

「お、おま……、何でいつも急なんだよ…。」

 恥ずかしくて突っ伏した鳳蝶に、光風は笑ってなんでって言われてもねぇ~と首を傾げた。光風にしてみれば、鳳蝶が綺麗で可愛いのは当たり前のことだった。
 


 光風の顔が近付き口つげられると、鳳蝶はその気持ち良さを知っているので拒めない。

「……あぅ…………ふ…ん………。」

 お互いの舌を絡め合い、潤んだ瞳で光風を見ると、奥深くまで歓喜する瞳とぶつかり嬉しくなる。
 クチュと離れる口から唾液が垂れるが、そんなこと気にならないくらい鳳蝶は光風に寄り添った。

「………明日、散策。」

 鳳蝶の呟きに、光風はクスッと笑う。

「ずっと抱っこして移動して良いよ~?」

 流石にそれは恥ずかしいので、鳳蝶は迷いはしても今日は我慢する事にした。

「俺の可愛い鳳蝶は気持ちいい事が大好きだねぇ。」

 笑いながらそう言われ、鳳蝶は恥ずかしくてグリグリと光風の首に頭を押し付けた。









 楓は雪の中に立っていた。
 寒いのでモコモコに着込んでいる。
 学生は禁止されたが、ナイターがあるのでまだ滑っている人間は多い。

「………沙織は番で妻になるんじゃなかったの?」

 目の前には久我見湊がいた。
 言われた湊は薄っすらと笑う。

「……………人形に妻が務まるわけないだろう?」

 利用された沙織は、三年前のあの日、サブ垢に入った自分ごと湊が作った人工知能に食べられた。
 あの空間は『another  stairs』と切り離された独特な空間だった。例えサブ垢でもタダでは済まない。
 その後会うことも無かったが、廃人か記憶障害でも起こして人前に出れないのだろうと思っていた。
 アルファ至上主義の湊が、戸籍もない奴隷まがいの使用人を妻にするわけがない。
 まだ人形と言っているだけマシなのかもしれない。

「そんで、近くに居るみたいだから出てきたけど、何しに来たの?」

 湊は沙織と護衛らしきスーツ姿の数名と一緒に来ていた。
 沙織には以前の様な表情はなく、虚な目で湊の隣に並ぶだけ。
 たった一人、修学旅行で来ている楓相手に、大袈裟な程の人数を揃えてきた。
 
「そろそろ完成しそうだからお前の八尋を貰い受けに来た。」

「ふぅーん、どうやって?」

 スーツ姿の男達が楓を捕まえようと走り寄ってくる。
 楓は嘲笑った。
 楓の姿がフッと消える。

「バッかだなぁ~。何の予防も無しに出てくるわけ無いじゃん。」

 そう言う楓の姿はどこにもいない。

「どこだ?」

「言うわけ無いでしょ?」

 じゃあねと消える楓の気配に、湊がギリッと歯軋りした。

















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