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30 愛の歌
しおりを挟む金泰家屋敷の奥の離れ、宵闇の中、月が綺麗に登る頃に、精霊達が集まりだす。
白銀の光が舞い降り、金と銀の魚の群れが池の中を悠々と泳いでいた。
外へ続く障子は全て開け放たれ、襖も取り払い四間全てを使って金玲は銀玲の舞を堪能していた。
着物の着用時に中に着る様な肌襦袢を夜着として着ているが、金玲に舞を見せる為に、白から黒にグラデーションした生地に金と銀の糸で鳥と花を刺繍した羽織を羽織って舞っていた。
帯を締めているわけではないので、銀玲がフワリと回る度に裾が広がり、長い袖が腕の動きに合わせてヒラヒラと蝶の様に舞う。
扇をゆっくりと開きながら口元を隠し、流し目で金玲を見やると、金銀の眼はキラキラと煌めきながら見ていた。
腰を落としヒラヒラと扇を流すと、銀の蝶が生まれ花が舞い散る。
ヒラヒラ、ヒラヒラ。
闇夜に金銀の雨が音もなく降り注ぐ。
踊りに合わせて口遊む歌を、精霊達が拾い上げては幻視を運んでいた。
踊り終わって扇を畳んで手を揃え畳に膝をつき、ゆっくりとお辞儀をする。
そこまでが礼儀。
最近銀玲は歌にしろ舞にしろ、お辞儀から初めてお辞儀で終わるのを礼儀と感じ、務めて必ずするようにしていた。
白の巫女の白巫女装束は婚姻前の服で、伴侶を持てば着る必要がなくなる。
顔を晒し、銀玲として歌舞音曲を披露するにあたって、自分からも相手の様子がよく分かるようになり、相手に対しての礼儀を物凄く感じるようになった。
今までやったりやらなかったりのお辞儀を必ずやる!自分の技量がまだまだである事を銀玲は反省し、指の先まで意識してお辞儀をするようにした。
まあ、あまり離れから出してくれないので披露する場面も少ないのだが。
それでも三ヶ月に一度くらいのペースで他の泰家に嫁いだメンバーで集まれるようになった。
子供を連れて持ち回りで其々の家へ遊びに行く。
自分達の芸事を披露し、子供達の習い立ての芸事も披露して、食事をしてお喋りに興じるのだ。
先程金玲に披露した扇舞は、次の集まりで披露するつもりだ。
「どうでしたか?」
「上手だったよ。前回よりも腰を落とした静止も上手になっていた。」
少し息を荒げて聞いてくる銀玲に、笑顔で金玲は褒めてくれる。
ふふふと笑って金玲の隣に来た銀玲はコロンと寝転がる。
折角の羽織が皺になるが、少し休憩だ。
子供達は五歳になった。今は寝室でぐっすりと眠っている。
子供達が眠ると離れは金玲と銀玲の二人の時間だった。
あれから蛇だった銀の精霊王は人化する迄に回復し、十歳程度の男の子に変わった。
銀の髪に銀の眼の涼やかな顔の男の子姿は、清涼な空気に包まれており、人ならざる美しさを持っていた。
銀の泰子も十歳くらいになるとこんな感じなのかなぁ、頭良さげでいいなぁ等と考えながら、銀の精霊王にさよならを告げた。
お迎えには当たり前のように金の精霊王が来て、嬉しそうに抱っこして消えてしまった。
消えながらバイバイする銀の精霊王はなんとなく諦め顔だったのが笑えた。
「次の集まりには、子供達に何をさせようかなぁ。」
舞か、歌か、うーんと悩む。
習い立ての子供達は何をやらせても可愛い。真面目な銀の泰子にやんちゃな金の泰子という感じだ。
次は青泰家に集まる。
蒼矢は初め笛から練習しだした。
何で笛?と聞いても何故か答えてくれなかった。青蒼が……、と呟いて黙ってしまった。
基本スペックの高い蒼矢はあっという間に笛を習得したが、集まりの日に聴いて欲しいというので皆んなで聴き、出来の良さに拍手で褒めると泣いて喜んだ。
慌てて私と桃華兄上と赤永で慰め、そんなに褒められたのが嬉しかったのかと思ったが、良かったこれで………!と謎の発言を繰り返してた。
青蒼の稽古はそんなに厳しいのだろうか?
以前青泰家に嫁いで大丈夫だったか確認した時は、一緒にいてやらないと駄目な気がするから大丈夫と言ってたので、仲は良いんだと思うけど。
泣いている蒼矢をヨシヨシと三人で慰めていると、元赤の泰子の赤保永が「なんか四人集まってるの良いな……。」と言う発言に、元緑の泰子の緑華が「え、やめてくれ。お前まで変態の仲間入りするのか?」と引いていた。
その日は金玲と青蒼は仕事でいなかった。
「何を楽しそうに考えてるんだ?」
子供に何をやらせるかから考えていたはずなのに、クスクス思い出し笑いしだした銀玲を見咎めて、金玲も隣に寝転がった。
あれから二人とも髪は長く伸び、腰の位置まできている。
黒の髪と金の髪が畳の上に広がり、精霊達がホヤホヤと髪を弄ぶように漂う。
「うーん、色々です。私は歌で貴方に出会いました。今ある幸せは金玲のおかげです。」
子供の頃、お前は白の巫女なのだからとあらゆる稽古が始まり、ただ言われるがままに修練を積んだ。
お前には剣舞が合いそうだと子供用の刃の無い剣を持たされ、それを振れるようになれと言われた。
身体を鍛え剣を振り、誰に褒められるでもなく努力する日々。
屋敷の奥まった小さな自分の部屋で、豆だらけの手を見て薬を塗って、布団に包まった。
一緒に誰かいてくれないかな……。
誰でも良い、頑張ったね、上手だねって褒めて欲しい。
気付いたら一人で、子守唄なんて聞いたこともなかったけど、寂しくて歌った。
「ん~~~♪んんん~~~~♪」
包まった布団の上に光が集まりだし、その光に気付いたジオーネルは頭を出した。
歌って!歌って!
「てきとうに歌ってるだけだよ?」
いいよ!歌って!いっぱい歌って!
集まる精霊は少なかったけど、喜んでくれるので歌った。
歌詞もない歌だった。
「もっといっぱい歌ったら精霊が集まって悲しくなくなるかな?」
歌って!歌って!
他の子達にも聞こえるようにいっぱい歌を運ぶよ!
「そうなの?じゃあ私は歌を歌うよ。」
ジオーネルは剣を辞めて歌を歌った。
剣舞を勧めたのになぜ歌をと嫌がられたが、気にせず歌った。
ただの鼻歌に歌詞をつけた。
精霊に感謝を。
精霊王に感謝を。
世界を愛しています。
太陽に、月に、水に、樹々に、私は感謝を乗せて歌います。
そうしたら、いつか私を必要としてくれるモノが出来るでしょうか。
誰か好きだよって言ってくれるでしょうか。
精霊達は大丈夫、貴方の歌が貴方のものである限り、誰かが貴方を愛してくれるよ、と言った。
だから私は愛の歌を歌い続けた。
金玲は私の歌を初めて綺麗だと言ってくれた人。
精霊達が言う通り、歌を歌い続けたら褒めてくれる人が出来た。
だからもっともっとと欲が出て、修練を積んだらもっといっぱいの人に褒められるようになったけど、やっぱり最初に褒めてくれた金玲の事が忘れられなかった。
とても綺麗な金の光を放つ人。
「私の幸せだって銀玲、君のおかげだ。」
頬に手を寄せて撫でながら甘く言われる。
二人で目を細めて笑った。
銀玲が歌を口遊みだしたら金玲も歌い出した。
二人で転がりクスクスと笑いながら歌う。
貴方を愛しています。
貴方は愛してくれますか?
私は歌を歌います。
貴方も一緒に歌ってくれますか?
精霊は集まり、回り出す。
金の雲を作り、銀の雨を降らす。
池には逆さまの金の雲と、逆さまに銀の雨が降り、水面を波立たせないように静かに金と銀の魚が、水の中を夜空を駆け巡った。
上も下もない空の中、中天には二人が転がる離れの屋敷が浮かび上がる。
精霊が運ぶ幻視の中で二人はクスクスと笑いながら歌った。
パタパタと足音がして、小さな二人分の裸足が頭の先で止まった。
「まぁた、ふたりで歌ってる。」
「金泰家は昨夜もさわがしかったってまた街の人達からウワサされますよ。」
金の泰子と銀の泰子はこの騒がしさに起こされた。
度々やらかす両親に、最近子供達は口喧しい。
はい、ごめんなさい。
素直に謝る金玲銀玲に、子供達は泰家の大人達を真似して、よろしいと大柄に許した。
私は愛の歌を歌う。
この幸せに感謝をしながら。
精霊の愛の歌を歌う。
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