精霊の愛の歌

黄金 

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24 銀玲と金玲

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 金泰家の最奥の離れに、現在金泰家の大事な大事な宝が隠されている。
 湖かと思えるほどの大きな池に張り出す様に、平屋の日本家屋風屋敷が建てられており、色彩豊かな一般住宅や精霊殿とは違い質素を好むのか木材の色を残して漆を塗られただけの屋敷だ。
 屋根の色も濃い黒灰色。
 睡蓮の花が咲く池には錦の鯉。
 広い縁側まで瓦屋根が張り出し、涼やかな風が吹き抜ける。
 母屋と離れは一本の通路でしか繋がっておらず、厳選された使用人しか入ってこない。

 広い縁側の一番端は、主人の伴侶のお気に入りの場所。
 足の無い竹を編んで作った椅子にはいくつも厚手の座布団が敷き詰められ、椅子自体も大きいので昼寝ができる仕様になっている。低い備え付けの机にはお菓子とお茶を置き、今日も黒髪の伴侶は歌を歌っていた。

「ねんねんよ~♪ねんねんよ~♪」

 適当に口遊む子守唄なのだが精霊達がふわふわと漂い集まっている。
 精霊達が守る様に籠に入った二つの卵を取り囲む。
 卵の大きさは人間の赤ちゃん入ってそうなくらい大きい。

 卵は昨日金の泰子と精霊殿の祈りの間へ授かりに行った。
 半精霊に男性も女性も関係ない。
 精霊殿に行って産む側が籠を持つ。
 二人で精霊力を練ると、産む側のお腹に熱が溜まりぐるぐると回って、集まった精霊の力を借りてお腹に抱えていた籠に卵が出来るという、聞くだけなら簡単な作業になる。
 だが不思議なことに選霊の儀でちゃんと簪を交換した人間としか卵は出来ない。
 普通の一般住人もその町その町の精霊殿で同じ事をやっている。
 精霊王の制約が関係してそうだけど、向こうの世界みたいにお腹を痛めて産むという事が無い分安全ではある。
 子供の人数は泰子だけ一人と決まっているが、他の人は何人でも授かる事が出来る。その代わり、ちゃんと育てきれなければ落人行きなので誰でも子供は大事に育てるし、育てれないくらい授かろうと思う人間もいない。


 特別に銀泰家復活の為に、金泰家の子と銀泰家の子二つを授かった。
 緑の精霊王から貰った祝福の種もちゃんと飲んだ。そうする事で授かる卵に祝福がいくのだそうだ。
 精霊力を高める為に二人で歌った。
 いつか夢見た様に低い金の泰子の声と高い自分の声が綺麗にハモッて楽しかった。
 二人でいつも歌う愛の歌を歌った。
 二つの籠に入った卵を大事に金泰家へ持ち帰ったのは昨日の事だ。
 卵を授かるとこの卵の子達が泰子になる為、金の泰子は名前を授かることになる。私の銀玲から一字とって、金の泰子は金玲になった。
 ジェセーゼ兄上達も私達より早めに授かり、桃華と緑華になっている。
 赤の泰子はサフリが赤永(せきえい)だったので、泰子は一字付け足して赤保永(せきほえい)になったらしい。
 名前も番い、生涯を共に過ごす伴侶になるという制約なのらしい。
 この制約は泰家を引き継ぐ重要な役割のある泰子にのみある制約だそうだ。
 選霊の儀からずっとここにいる為名前についても本人達から聞いてはいないが、金玲から教えてもらった。

 ジオーネルこと銀玲は幸せだった。
 選霊の儀から直ぐに卵を授かりに行きたかったが、金玲が翼のやらかした青泰家への対応や、選霊の儀の後処理など、やるべき事を済ませなければならないというので、待ったのだ。
 我儘はいけないと思い、頑張って下さいと毎日送り出した。

 二つの籠に入った二つの卵を見て、嬉しくってまたふにゃりと笑ってしまう。
 銀色の蛇の銀の精霊王が片方の籠からシュルルと顔を出した。

「ククク。」

 どうしたのかと覗き込んでいると、待っていた人物の声が聞こえた。

「ずっと此処に居たのか?冷えてしまうぞ。」




 漸く青泰家への対応が決まり、精霊殿へ卵を授かりに行けた。
 身体の中を巡る精霊力にハァハァと息を吐きながら、歌を歌うジオーネルを支えて、二人で精霊力を練り合わせた。
 産む側が辛そうで代わってあげたいと言ったら、向こうの世界の出産はこの比では有りません。全然大丈夫です、と言って二つ卵を授かった。
 この時から私は金玲となり、銀玲とは名を分け合う魂での番になれたのだ。
 顔を赤らめて嬉しそうに笑う銀玲と二人で大事に卵を持ち帰った。
 今日は朝から所用を済ませたが、暫くはこの離れへ籠る事が出来る。
 卵は半年間、親の精霊力を渡してあげなければならない。
 片側にだけ負担を掛けてはいけない。
 二人で精霊力を分け与えて行くのだ。
 特に自分たちは二人の泰子を育てなければならない。与える精霊力も多いので、銀玲だけにやらせられない。

 いつも銀玲が歌を歌ったり二胡を弾いたりしている縁側に行くと、二つの籠を眺めて幸せそうに笑う銀玲がいた。
 ふわふわと細い目を笑みに閉じて、そばかすの浮いた白い頬を赤く染めている。
 卵をスルスルと撫でる姿は愛おしい。
 少し伸び出した黒髪を留める髪留めを贈ろうと決める。
 結べる長さになったら組紐でもいいかもしれない。
 眺めながら近付いていると、銀の精霊王が先に気付いたようだ。
 頭を出してこちらを見ている。

「ずっと此処に居たのか?冷えてしまうぞ。」

 声を掛けると銀玲がパッと顔を上げた。嬉しそうに立ち上がろうとするので手を貸す。

「お疲れ様です、金玲!」

 選霊の儀が始まる頃、銀玲はこんな顔して話しかけて来ていたのに、何故あの時邪険にしてしまったのかと後悔してもしきれない。
 銀玲は自分が鬱陶しすぎたので、逆に申し訳ないと身を小さくしていたが、私が柔軟な対応をしていれば良かったのだ。
 そうすれば、銀玲が嫉妬で周りに当たり散らす事も、元黒の巫女に邪魔をされる事も無かっただろうに……。
 元黒の巫女との情事は金玲の中でどす黒い負の記憶となっている。思い出したくも無いし、思い出したら気持ち悪い。正直何故霊薬を飲んでいた期間の記憶が残っているのか腹立たしい。
 この気持ちのままではいけないと、忙しいのを理由に卵を授かるのを少し伸ばし、身を清める為の洗礼を行っていた。
 精霊殿に毎日祈りに行き、聖水で身を清める。
 そうしないと銀玲をめちゃくちゃにしてしまいそうな気がしてならなかった。

「中に入ろう。」

 籠を二つとも持つと銀玲は素直についてくる。
 自分の伴侶がこれから何をしようと考えてるかも知らずに。
 視線が合うと黒い瞳がふにゃりと微笑む。
 薄い唇が少し開き笑み作る。

 黒い瞳を銀に変え、口遊む子守唄はどんな喘ぎを出すのか………。
 ごくりと喉を鳴らす金玲に銀玲は気付いていない。

 
 
 











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