8 / 31
8 『薄紅色の幻想歌』
しおりを挟む金と赤の泰子のイベントは終了してしまった為、残る青と緑の泰子のイベントをチェックする事にした。
最後の銀の精霊王との戦闘は四泰子必須なので邪魔出来るかなと思って、とりあえずやれる事はやってみようと思う。
緑の泰子の動向チェックの為、使用人にお菓子という名の賄賂を渡し、緑の泰子が花を生けるための生花を商人から届けさせる日を教えてもらう様にしといた。
緑の泰子はジェセーゼ兄上に手伝ってもらうつもりだ。
後は青の泰子だ。
青の泰子は苦手だ。
言い方がキツい。
中性的な顔して毒舌?
そのくせ弓弦のゲーム知識からすると、仲良くなるとデレる。そんなところも苦手かも。
本当は翼がイベントをやる前に、このイベントを自分か別の人間かにやって貰うのが良いのかもと思ったが、適当な人間がいないし私自身でやるのは嫌だった。
イベント発生の場所は分かってるので修練棟で張り込みだ。
スチルに桜の木と池の水が描かれていた。という事は西棟の端っこの部屋!
陽の光が入っていたので午前中から午後少し回った辺りまで!
という事で東棟の二階の端っこを本日独占した。
部屋で二胡を弾く真似をしながらまんじりと待つ。
来た来た。
胡弓を持った翼がやって来た。
一番軽そうな楽器持ってきたな…。
貸し出し場所から持って来たのだろう。
スチルでは琴が描かれていた。
いや、そこ中国的に古琴描いとくべきじゃ?と今なら思うが、琴にしろ古琴にしろそこそこ大きさあるので別の楽器を持ってきたのだろう。
翼らしい。
予定通り西棟の一階端に入って行った。
大きい桜の木が枝を沢山伸ばして花を咲かせているので、いい隠れ蓑だ。
幹の影になる様縁側に座り、翼が胡弓を弾くのを見ていた。
…………酷い。
その一言に尽きた。
そもそも楽器は全て難しい。
だから皆稽古をする。修練を積んで精霊力を上げ、音の彩りを精霊達に手伝ってもらう。
ゲームでは不思議な音に惹かれて青の泰子が来るとなっていた。
このビヨーンという音が不思議な音?
いや、来たな?
凄いなこれぞ強制力?
この音でも来ちゃうとか。
欄干に寄りかかり頭だけ出して覗き見る。木の幹に隠れるのも忘れない。
『薄紅色の幻想歌』
不思議な音色に誘われて青の泰子がやってくる。そこには楽器を演奏する黒の巫女が一人で練習していた。
本来なら下手ながらも一生懸命弾く黒の巫女に、精霊達が集まり桜の花びらを集めてくる。
桜の花びらの絨毯の中にいる巫女を見つけ、青の泰子はその美しさに見惚れるのだ。
………しかーし!
花びらないやん。
「あっ!青の泰子!やだっ、見られちゃった!恥ずかしいっっ………。」
翼は顔を赤て斜め下に俯いた。
待ち構えておいて恥ずかしいもへったくれも無い。
恥ずかしいのはお前の腕前だ!
「誰が練習しているのかと思えば翼でしたか。難しいでしょう?私が教えましょうか?」
「はい!」
ばあぁ!と顔を輝かせる翼。
とりあえずシナリオに沿って動いている。
そこからは本当に練習になった。
ガチの練習をただ見守る時間……。
翼はどうするつもりだ?
本気で練習のみになりそうな雰囲気に翼は焦っている様だ。
そもそも青の泰子が感動する場面、桜の精霊が集まって花びらを舞わせるっていうシーンになってないのだ。
どーしようと思いながら長時間縁側にいた為か、使用人が向こうから見ていた。
やばい、出て行けと言われるっ。
慌てて二人から見えない様、桜の幹に隠れて二胡を手に持つ。
膝に乗せて縦に構え、左手で棹を動かした。
フイィ~と音が響く。
結構音が大きいからあまり弾きたく無かったが、追い出されるのはまずい。
青の泰子と翼の攻略具合はやっぱり気になるのだ。
桜がサワサワとざわめき出した。
薄紅色の花びらがクルクルと回りだし、ジオーネルに遊んでとやってくる。
あ、やばい。
音を止めて、シッシッと手を振ると、精霊達は文句を言う様に手に纏わりついて離れて行った。
そのまま今度はこっちとばかりに翼の方へと遊びに行ってしまう。
翼の指導に集中していたのか、青の泰子はこちら側に気付かなかった様だが、突然寄ってきた精霊と花びらに驚いた様だ。
「わぁ!!」
翼が感嘆の声を上げた。
「凄いですね……。」
桜の花びらが二人の周りに広がり、ふわふわと翼の髪の毛に降った。
あぁ~~~~!!!
無意識に手伝ってしまった!
「貴方の演奏に惹かれたのでしょうか?」
青の泰子はそう言って翼の髪についた薄紅色の花びらを取ってあげた。
あーこれは見た。
無課金モードのスチルだ。
金チケットでは耳だったか頬だったかを舐めるとか書いてあったっけ?
途中途中出てくる選択肢間違えるとただ練習して終わりとなる。そうなりそうだったのに翼の攻略を手伝ってしまった。不可抗力だ!
自分の馬鹿さ加減に涙が浮かんだ。
はぁ、と溜息を吐くとトストスと板の間を歩いて来る足音が近付いて来た。
あ、やばい!練習してないのがばれて使用人が声を掛けに来たのかもしれない!
慌てて縁側の先を見ると、歩いて来るのは金の泰子だった。
なんでこの人がここに……?
「うーん、ジオーネル様練習してるのかなぁ?」
「ずっとあそこにいるわよねぇ?声かけるぅ?」
「えぇ~怒られない!?」
使用人達の声が何気なく耳に入り立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「あ、金の泰子様!!いや、そのぅ~……。」
言いにくそうにしながらも使用人達は訳を話してくれた。
東棟の一番奥でジオーネルが練習せずに縁側に居るらしい。
基本練習する者の為の修練棟なので、声を掛けるべきかどうか迷っていたらしい。
ここは使用人の彼等では白家の令息には声が掛けにくいだろうと、私から注意しに行くことにした。
最近何かと注意ばかりしているから、特に何も考えずに引き受けた。
そこには確かにジオーネルがいた。
縁側の端の桜の大木の側で、桜の花びらに染まって座っていた。
二胡を弾く為に胡座をかいてはいたが、スッと伸びた背筋に品よく二胡を持つ手は、普段の彼とは違った美しさを見せていた。
どこか遠くを見ているのか、瞳は潤み流線を描いた眉は少し垂れて悲しげになっていた。
白を基調とした服に真っ白の長い癖毛の髪。真っ白の肌はよく整えているのかきめが細かく、顔に浮かんだそばかすを際立たせていた。
細い目にそばかす顔と聞けば、あまり見目が良い方では無さそうに感じるが、その姿には何故か色気を感じさせられた。
そばかすが逆に、きめの細かい色白さを強調しているのかもしれない。
薄い唇がはぁと息を吐き、憂いを滲ませる。
もっと近くで見ようと無意識に足を進めていた。
近付く此方に気付いたのか、ジオーネルは私の方を見やった。
こんな顔だっただろうか?
あまり人の顔に頓着しない方だが、少し前まで毎日の様に話しかけて来ていた人物だ。
少し考えて、ああ化粧をしていないのかと気付いた。
こんなにそばかすが有るとは知らなかった。目も前より細い気がするから、化粧で大きく見せていたのだろうか?
目の前に来てまじまじと観察していると、ジオーネルは慌て出した。
また怒られると思ったのかもしれない。まぁ、確かに注意しに来たのだが。
「ああ、あの、金の泰子は何故ここに!?」
顔をほんのり染めてあたふたとしている。
「使用人達が注意しに行くべきかどうか迷っていたので代わりに来た。手が休んでいる様だが?」
今度は顔を青くさせて俯いた。
「あ、そ、そうですね。もう今日は集中出来なさそうなので止めておきます。」
慌てて立ち上がったジオーネルから薄紅色の花びらがヒラヒラと舞い落ちた。
頭を下げて立ち去る姿を見送って、ジオーネルが見ていた先を見やる。
そこには反対棟の一階にいる青の泰子と翼がいた。
練習もそこそこに髪についた花びらを取り合って話に夢中になっている様だった。
これを見ていたのか?
翼の周りにも薄紅色の花びらが広がり、精霊達が集まったのが分かった。
黒の巫女の力で集まった花びらがジオーネルのとこまで飛んだ?
それに嫉妬でもして見ていたのだろうか。
翼は黒の巫女としてよく頑張っている。
赤の泰子ともよく外に出て鍛錬をしている様だし、私にも歌を一緒に歌おうと誘って来る。今だって青の泰子に楽器を習っているではないか。
最近ジオーネルが側に寄ってこないのは黒の巫女が努力する姿に押されているせいだと思う。
化粧を落とし今まで華美だった衣装も質素にして、楽器の練習等して心を入れ替えようとしているのかもしれない。
日々煩わしさを感じていた存在が鳴りを顰めた。
精霊殿の神官達は誰か泰子に翼を嫁がせようと思っている様だが、私は銀玲を探さねばならない。
誰が銀玲なのだろうか……。
白家のジェセーゼが一番の有力候補だが、緑の泰子が歌舞音曲が違うのではと言っていた。
歌を歌う白の巫女。
早く手に入れたい。
早くあの歌声を手に入れたい。
519
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる