7 / 31
7 『夕日色に染まる赤の誓い』
しおりを挟む赤の泰子攻略時、主人公が剣舞を踊りたい!と言う。
踊りたい!と言ってそんな簡単に踊れるもんでも無い。
ゲームで主人公が天霊花綾にいるのは約二ヶ月程度。
たったそれだけで精霊王を満足させる芸を身につけられるのか?
んなわけない。
そもそも剣舞とは剣を持って踊るのだ。
ゲームで主人公はそれはもう見事に剣を持って舞っていた。
剣って重いんだよ?
結構鍛えちゃうよ?
片手でブンブン振り回せないよ?
翼は金の泰子を攻略してると思ってた。
だから他の泰子は好感度落とさない程度で、ガッツリ行くとは思ってなかった。
外の鍛錬場に行こうとしてる赤の泰子を追って、翼が走って行くのが見えたけど、そこまで気にしてなかった。
「翼、今日は行くか?」
「うん!今日はお昼ご飯も持って行こうよ!」
顔をほんのり赤らめた赤の泰子。
目が恋してる。
落とされてるよ。
確か金の泰子の『月光の下で聴く音は』の後に赤の泰子の『夕日色に染まる赤の誓い』と言うイベントがある。
金、赤、青、緑の順で毎回イベントが流れるのだが、その時点で一番好感度が高い攻略者じゃないと上手くいかない。
上手くいけばスチルがゲット出来る。
翼は歌を選んでたし、昨夜金の泰子とイベントこなしてた。
なのに……。
『夕日色に染まる赤の誓い』と言うイベントの内容はこうだ。
剣舞を踊りたいが、剣も出来なければ舞も出来ない。
そもそも体力がない。
でも、やりたい!
演習場で夕方まで特訓する主人公の熱意に赤の泰子が力になると言ってやってくる。儀礼用の装飾の施された剣を見せいつか一緒に舞おうと誓う。
夕日を背負って笑う赤の泰子の姿に主人公はポーとなる。スチルは赤い夕日の中二人で剣を交わして笑い合い姿。
金チケットで金の泰子の時の様にキスシーンが入る。
主人公を逞しい腕で抱き上げて、黒の巫女を自分より上に持ち上げた逞しさにキュンとくるとか?
自分より目線上にした黒の巫女を見つめる眼差しにキュンキュンくるとか?
バックの赤とオレンジ、そして少し暮れ掛けた紫が入った夕陽の背景は秀逸で、影になった赤の泰子と黒の巫女が色っぽいとか?
涎垂れてるとか?
とにかく色っぽいんだそうだ。
何度も言うが課金したないから実物見た事ない。
でもネットで検索かけるとそーいう内容らしい。
で、この様子じゃ上手くイベントがこなされてしまったんだろう。
簡単に攻略されてんじゃねーよっ!と赤の泰子に怒鳴りたい。
ゲームみたいに制限ないからやりたい放題出来るんだろうか……。
翼の手腕が怖い。
この分だと青の泰子と緑の泰子もやる気だろう。
「ジオーネル?」
ビクゥと肩を振るわせ驚いてしまった。
「ジェセーゼ兄上。」
ジェセーゼ兄上は一人だった。
最近泰子達はバラバラだ。前まではジェセーゼ兄上を囲んで固まっていたのに、ゲームが始まるとこんなに希薄になってしまうのかと不思議だった。
そりゃそうだよな。
全員仲良くとかハーレムじゃあるまいし。
いや、もしかして翼はハーレム目指してるのか?
じゃないと金の泰子も赤の泰子も攻略しに行かないだろう。
「そんなにびっくりしなくていいだろうっ?」
ムッとした様に言われてしまった。
「すみません、考え事をしてまして…。」
ジェセーゼ兄上は向こう側で鍛錬場に歩いて行く二人を見て、あぁと納得顔だった。
「最近泰子達は黒の巫女に骨抜きだ。」
そういう割にはジェセーゼ兄上は特に気にした風もないな。
「私としては肩の荷が下りた気分だ。」
「肩の荷?」
「そうだろう?彼等の期待は私ではない。」
…………ああ、成程。
泰子達は銀玲と思ってジェセーゼ兄上を囲っていたのだ。
でもジェセーゼ兄上は銀玲ではない。
それがわかるのは銀玲本人の私だけだが、兄上は案に自分は銀玲では無いと言っているのだろう。
精霊王の制約のせいで特定する言葉を言えないのだ。
何気ない会話で名前を出す事は出来ても、誰が誰だという特定する様な言葉は言えなくなる。喋れなくなるし、文字としても書けない。
「バカみたいだ。私の精霊名など直接聞かずとも知る事は出来ると思わないか?」
実はゲームで兄上の精霊名は知っている。
ジェセーゼ兄上の精霊名は桃華(とうか)だ。名前の通り黒色の瞳から桃色に変わる。
私と違って癖毛だけど柔らかく波打つ白髪と、吊り目気味の大きな眼は猫みたいで可愛らしい。
正妻の子なので、私より泰子の妻となるべく厳しく教育されている。期待も大きいと思う。
歌舞音曲は舞踊。薄い布の天女の羽衣を両腕に軽く掛けて、ふわふわと踊るのだ。
全てゲーム知識だけど。
知ってるけど知ってるとは言っちゃダメだしなぁ~。
「ジェセーゼ兄上の歌舞音曲なら分かるかも。」
だって普段白家の屋敷でも稽古はしてるのだ。
何の稽古をやってるか取捨選択していけば分かる。
「へぇ、じゃあ何だと思ってる?」
「舞踊です。」
「なんだ、じゃあ知ってるのか。だったら分かるだろう?私もお前のを知ってるんだ。」
そー言われるとそうかも。
たらりと汗が流れる。
別に知られても困る事ないけど、ちょっとした秘密を知られちゃうと焦るよね?
「お前は歌だけは外で歌わないんだ。暇さえあれば修練してるのにな。………愚鈍な金の泰子を見てると苛つく。」
最後の方小声だったけどバッチリ聞こえてしまった。
金の泰子を愚鈍扱い。
流石に兄の邪魔をする事は白家に怒られるので、泰子達がジェセーゼ兄上の周りにいる時は大人しくしていたけど、兄上的には嫌だったんだろうか…。
「ある程度どの歌舞音曲か絞って名簿で照らし合わせていけば誰が誰が絞り込めると思わないか?」
「確かに……。でも最近思うんですけど、私の歌舞音曲など、誰も興味湧かないのではないでしょうか?」
ジェセーゼ兄上は眼をパチパチとさせていた。ホントに猫みたいだ。
「黒の巫女か?あんなの気にするなっ。さっきの赤の泰子との修練だって自分は敷布の上でお茶飲みながら応援しているだけなんだぞ?そんなやつにお前が負けるわけなかろう!」
詳しいな?それよりも翼は身体動かしてないのか。
ジェセーゼ兄上が意外と腹違いの弟の事を評価してくれている事が嬉しかった。
弓弦の意識が覚醒する前は、ジェセーゼ兄上は苦手だった。
話せば大概怒られていると感じてたからだ。
でも今話してみると口調こそ強めだが、話はちゃんと出来てる。異母弟の事もちゃんと気にかけていて良い兄だ。
「私が負けたら、此処にはいなくなると思います。」
ジェセーゼ兄上は翼と私が勝ち負けを競っている事は知らない。純粋に歌舞音曲での実力の事を言っているのだろう。
でもどんなに歌の修練を積んでも、恋愛に勝てなければこの世界に残れない。
「そんな馬鹿な。お前の歌に敵う人間などいないだろう。」
ジェセーゼ兄上はちゃんと私が銀玲だと気付いているのか。
気付いてくれる人がいた事が、こんなに嬉しいとは。
金の泰子が気付くことは無いかもしれないと思うと、自然と俯いてしまう。
「最近、お前はおかしいぞ?やたらと大人しいというか……。何かな、悩みがあるなら、わ、私にいいい、言え、ばいぃぞ?」
どうやらこれが本題だったらしい。
気になってたのだろうか。
言っても良いのだろうか?
特に金の精霊王から口止めはされてない。
「………じゃあ、実はですね…、」
思い切って黒の巫女と伴侶を巡って勝負をしている事を言った。
鈴屋弓弦の事は伏せたが、銀の精霊王から銀の瞳を貰っている事と、黒の巫女か私が銀の泰子を産まなければならない事、二人も泰子が産まれたら困るので片方は招霊門から向こうへ行かなければならない事を話した。
「はぁ!?なんでお前が落人にならなければならない!」
特に精霊名の様に制限がかかってないのかスラスラと説明出来た。
「もし向こうに行っても一応私の居場所は有りますので、心配はしなくてもいいですよ。ただもう兄上にも会えなくなります。」
「…………金の泰子にもだろう?好きなんだろう?最近纏わり付いてないと思ってたが、まさか諦めてるのか?」
諦めてる……。
というより自信が無い。
一度翼に恋愛で負けてるのだ。
自信なんてあるはずが無かった。
「どうにかしてお前が………!!!」
ジェセーゼ兄上の口がハクハクとなって言葉が出ずに口を押さえた。
「あーもう!この制約のせいでややこしくなってるんだ!」
恐らく銀玲と言おうとしたのだろうが言葉が出なくて頭に来ているらしい。
口煩いが心根の優しい人なんだなと暖かい気持ちになった。
「うーん、じゃあ兄上に一つ手伝ってもらっても良いですか?」
私のお願いに兄上はまた目をパチパチさせた。
やっぱり猫っぽい!
応援ありがとうございます!
102
お気に入りに追加
2,205
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる