3 / 31
3 銀玲とは誰だ?
しおりを挟む翼はいつの間にかここにいた。
目の前には開いた巨大な石造りの扉。
覗き込めば白いヒラヒラとした服を着た顔を隠した人達。
ただ驚いているのだけは雰囲気で分かった。
フーヘイルというサラサラヘアを胸辺りまで伸ばした黄緑色の髪と、茶色の瞳の司祭様が頬を染めて色々説明してくれる。
三十歳くらいの男の人だ。
神官様って感じの長い服を着ているが、どこか中国っぽい。
精霊殿と言われる場所も柱は朱色で天井は派手な竜とか彫られた天井画。
上は着物っぽい前合せの羽織で下はゆったりした足首の締まったズボン。その上にベストきたり長い羽織もの羽織ったり、泰子達は生地も高そうな刺繍入りのを着てたり。
巫女と言ったり、建物中国で名前は西洋とか和洋中を組み合わせた精霊のいる世界観……。
これってやってたスマホゲームじゃない?
よくある異世界召喚が自分の身に起きたのでは?
しかもこれ主人公枠!
このゲーム、主人公のデフォルト名なくて自分でつける。
ま、態々デフォルト名有っても名乗らないけどね。勿論攻略対象者には本名で呼んでほしい!
だってゲームの中じゃ、お前とか君とかで表現されるけど、現実だったら翼って呼んでもらえる!きゃー!!
僕の前には金の泰子、赤の泰子、青の泰子、緑の泰子が勢揃いだ。
金の泰子は金髪金眼 人々を導く泰家の子であろうとする真面目な人。
赤の泰子は赤髪赤眼。身体が一番大きくて頼もしい、溌剌とした人。
青の泰子は青髪青眼。ほっそりとした女顔の美青年。きつい性格だけど仲良くなってくると優しくなる。
緑の泰子はあまり周りと関わらず過ごす人。自由人だが金の泰子と仲が良い。
銀の泰子は流石にいないか……。銀の泰子は隠れキャラだから四人ともハッピーエンド迎えないと出てこない仕様になっていたもんね。
勿論皆んなかっこいい!
僕が黒の巫女だから最初から好感度高め。モードが優しいになってるかもしれない。
この後重要な選択が出てくる。
誰をメインに攻略するかだ。
顔なら勿論金の泰子!でも、最後を考えるとなぁ~。
このゲーム、無課金ならハッピーエンドか友情エンドしかない。課金するとR18が入る。
これって無課金状態?課金状態?
友情エンドで終わるつもりはない。だって、友情エンドは誰にも選ばれず元の場所に帰っちゃうからだ。普通の大学生になって、あれはなんだったんだろう?って夢オチ状態になる。
冗談じゃない!
こんな美形集団に囲まれて誰とも結ばれないなんて!
しかもこんな貴重な体験が夢で終わるとか有り得ない!
恋人の蒼矢には悪いけど、ここは頑張らせてもらう。
悩んだ挙句に、結局皆んなおんなじようなもんかと開き直り、僕は金の泰子を選んだ。
「君の歌舞音曲は歌なんだね。私と一緒だ。」
金の泰子の声はバリトンボイスだ。
真面目なキャラに信頼と安心感のある少し低めの声に、ゾワゾワっとする。
「は、はいぃ!」
上擦った返事にクスリと笑われてしまった。笑顔最高!
例え知らない世界でもゲームの内容知ってるので落ち着いたものだ。
夜になり、精霊王に献上した蒸留酒が下げ渡されるので、それを飲み交わす為のお食事会に参加させてもらった。
そそくさと金の泰子の横をゲットする。
白の巫女の演芸があるので、会場は精霊殿の中だった。
そーいえば僕も選んだ攻略対象者の好きな芸事を披露しなきゃだったんだ。
金の泰子は歌。
歌かぁ~~~そこまで上手ってわけじゃない。まぁ、普通ー。
さぁさぁ、どうぞとフーヘイル司祭が巫女服を持ってきた。
仕方なし着替えて白の巫女達を差し置いて一番最初に歌う。
歌は最近覚えたばかりの流行りのバラードだけど。大学生なってカラオケ行ったら歌おう思ってたやつ。
なんか知らんけどウケたみたい。
「聴いたことのない歌だったけど凄く良かったよ。」
金の泰子も褒めてくれた。
実はこれも選択肢なんだよね。どんな歌、歌う?で『楽しい』『悲しい』『怒り』『優しい』の四択なんだ。
金の泰子は『悲しい』が一番好感度が上がる。現実世界でも失恋ソングとか人気でるし『怒り』や『優しい』よりはいいかなと思う。最初の選択で『楽しい』にして微妙な褒め方されたんだよね。
それとゲームではそこまで分からなかったけど、黒の巫女が白巫女装束着る必要あるのかな?髪が黒だからなんとなく透けてそうだし、歌声とか向こうの歌でバレバレだと思う。
ま、言われた通りやるけどね。
着替えて戻ってくるうちに何人かの演目が終わっていたらしい。
拍手の中金の泰子の隣に素早く戻った。泰子はお疲れ様と律儀に労ってくれる。
手元を見ると一枚の紙を持っていた。
「それ何ですか?」
「ああ、これは今日の白の巫女の演芸の順番だよ。」
そんなもんがあったんだ。
「金は銀玲(ぎんれい)の歌を楽しみにしてたからな。」
金の泰子の更に奥から緑の泰子が顔を出した。
中国系のカッコいい顔って感じの人だ。こんなスッキリした顔も大好き!
後ろで緑の長髪をゆったり纏めて簪で留めている。適当にやったんだろうって感じて後毛がいっぱい落ちてるのにそれがまた似合っていて感動!
「全員見てるが?」
「銀玲以外は見てるだけだろ?」
茶化すように話す緑の泰子に、金の泰子は苦虫を噛み潰したような顔で答えている。本当に仲良いんだなぁ。
「ぎんれい?」
名簿を見せて貰うと一番最後に出てくるらしい。
銀玲は精霊名で、白の巫女の二つ目の名前だ。精霊力に優れた者は精霊王から名を貰うことが出来る。白の巫女は白髪の時点で精霊名がある。
名は本人しか分からず、伴侶が決まるまで伏せられている。
説明によると最後になる程、精霊力のある巫女なんだとか。
芸目に歌と書いてあった。
この世界は歌や踊り、花道や書道と言ったら芸術事に優れた人間が尊ばれる。
「金の泰子は銀玲が好きなんですか?」
「好きというか、歌がな。私も歌うが銀玲の歌は誰とも比較できないほど素晴らしい。」
「今年は白の巫女が三十人もいるから待つの大変だけど、黒の巫女も食べながら待っとくといい。」
緑の泰子の勧めでゆっくり食事を摂る事にした。
ゲームにこんな流れ無かったけどな?
あまり攻略に関係ない話って事かな?
不思議に思いながらも、泰子達とお喋りしながら待った。
最後らへんになると金の泰子がソワソワし出して、緑の泰子が揶揄っている。
そんなに楽しみなんだろうか?
漸く最後の巫女が出てきた。
さっきまでざわめいていた会場が、一気に静まり返ってくる。
白巫女装束を引きずるサラサラとした音だけが響くほどに鎮まった空気に、注目していたのが金の泰子だけでは無いのだと分かった。
白い手袋をした巫女の手が胸の前で組み合わさり、小さな息遣いが聞こえた。
小さく高く始まる高音の声が伸びやかに空気を振るわせる。
歌う歌は愛の歌。
感謝と慈愛の込められた、誰かを何かを愛する歌。
一小節という短い時間で変化が起き始める。
こぽりと地面が揺れた。
フワフワと白い光が現れる。
光が舞い、地面から草木が生え出した。
花が咲き乱れ、花びらが次々散っては風に舞う。
光蝶が生まれ、大気を小鳥が走った。
樹木は大木となり、そこかしこに精霊達が集まっていた。
美しく羽を生やした少女であったり、長い白髭を蓄えた老人であったり、姿は千差万別でも分かることは清廉で美しい。
それは、光と自然が舞う幻想の世界だった。
ーーーこれはっーーー
ゲームのエフェクトだっ。
主人公黒の巫女が修練を積んで精霊力が上がってくると、エフェクトが追加されていく。
最初は全くのゼロ。段々と光、花、樹木、蝶、鳥と増えていくのだ。
ゲーム上分かりやすくされただけのエフェクトと思っていたが、現実ではこんな幻想的な光景になるだなんて!
これは黒の巫女がやるはずだった光景だ。
誰だ、これは!?
銀玲なんて名前の奴ゲームには出なかった。
モブだなんて有り得ない。
だって金の泰子が顔を赤らめて恍惚として聴き入っている。
目の前を光る蝶がハタハタと飛び、翼の前に煌めく鱗粉を落としていった。
とてもリアルなのに向こう側が透けて見える。
銀玲が歌い終わると、幻視はゆっくりと元に戻り出した。
一礼し、巫女服の裾をフワリとはためかせ銀玲は退出していく。
遅ればせながらパチパチと拍手が鳴り出し、白い影が消えても鳴り止まなかった。
590
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる