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神様のいいように
104 デウィセンを追う
しおりを挟む久しぶりにテトゥーミに会った。
会った途端テトゥーミは文句を言い出した。
「いつも僕は置いてけぼりなんですよ。」
そー言えば前にもそんな言い合い、というか一方的にテトゥーミが怒っている姿を見たなと思う。
「テトゥーミ様はトステニロス様が好きなんだ?」
一緒に愚痴を聞いていたアオガが尋ねた。アオガは恋バナ好きだよな。
「はい、好きです。なので毎回お付き合いして下さいと告白しています。」
「こ、告白?」
「で、返事は?」
「毎回テトゥーミにはもっといい人が見つかるからと言われてしまいます。」
うわぁぁ~~!と俺とアオガは小さく叫んだ。
俺達は今聖王陛下の執務室にいた。
数日前からトステニロスがフィーサーラを連れて出た為、町の治安維持をやっていたテトゥーミが執務室に呼ばれたわけだが、俺とアオガを見つけて話し掛けてきた。
執務机では黙々とクオラジュ達が仕事を進めている。
テトゥーミも最初は手伝っていたのだが、話に夢中になりだしアゼディムからソファに引っ張ってこられて座らされてしまった。
「どこが好きなの。言っちゃ悪いけど、トステニロス様って人当たりのいいお兄さんっぽいけど、裏では結構黒そうって気がするんだけど?」
アオガ、そんなズケズケと言っていいのか?
「知ってますよ!でも知ったの大分後なんですもん!その時には優しくて好きになってましたもん!」
「いつから好きなんだ?」
そー言えばテトゥーミ達って何歳くらいなんだろう?
「えっと、トステニロスが天空白露での勤務が多くなった後からなので二十年以上でしょうか?」
「へぇ~ずっと片思いなんだ?」
テトゥーミはコクリと頷いた。
俺達の話し声は静かな執務室に響いているが、クオラジュとロアートシュエ、アゼディムは黙々と仕事を進め続けている。やかましくないのかな?
「テトゥーミって今歳いくつ?」
天上人は二十五歳で開羽すると歳がそこで止まってしまう。なので本人に聞かないと実年齢が分からない。
「僕は九十歳ですよ?」
しかもコイツら歳を聞くと大体これくらいっていう年齢を言うのだ。細かく聞いても覚えていなかったりする。長生きだからだろうか。
「トステニロスは?」
「百三十歳です。」
結構な年上だった。しかもサティーカジィよりもテトゥーミが歳上!
アオガは知っていたのか驚いていない。元赤の翼主と緑の翼主だしな。有名人だよな。
でも何でトステニロスは恋人作らないんだろう?
「なーなー、クオラジュ、トステニロスは番作らないのか?」
前にも何でかテトゥーミを避けていると言っていた。津々木学の頃にも歳上で結婚願望はないと言う人は男性にも女性にもいたので、そんなもんかなとも思っていたが、何か他の理由があるのかなと思い尋ねてみた。
カリカリと書き物をしていたクオラジュがペンを走らせる手を止めて顔を上げる。
いつも思うけどクオラジュって姿勢がいいよな。俺なら熱中するとついつい腰が曲がってしまう。
「……トステニロスはあまり他人を領分に入れません。」
クオラジュは理由を知らないらしい。
「クオラジュは知らないでしょう。クオラジュの両親が関係していますので。」
聖王陛下が口を挟んだ。
「ロア……。」
アゼディムが話すのを止めようとしている。
「いいのですよ。」
事実なのですから。聖王陛下はそう言って笑った。いつも微笑んでいる人だが、今の微笑みは少し悲し気だ。
「クオラジュの父親は青の翼主一族の一員、母親はトステニロスの異母姉でした。」
クオラジュの母親はトステニロスの義理の姉だった。ネリティフ国の隠された姫。強い神聖力を宿しているのに、黒を纏わないエマラジュはネリティフ国の王族の中でも肩身が狭かった。
それはトステニロスも同じことが言えた。
トステニロスもエマラジュも王族ではないと言われ育ち、逆にその神聖力の多さからやりたくもない仕事を任されることが多かった。
トステニロスは焦茶の髪に銀色の瞳、エマラジュは橙色の髪に氷銀色の瞳をしていた。
エマラジュは美しかった。
その美姫に貴族はこぞって言い寄ったが、エマラジュは全てを跳ね除けていた。
エマラジュもそんな生活に耐えきれず、先に出て天空白露に身を寄せていたトステニロスを頼って逃げ出した。
トステニロスもエマラジュも天空白露の神聖力に頼ることなく天上人となれる程の神聖力を持っている。
強い天上人の移住に天空白露は歓迎した。
特に青の翼主一族は二人を受け入れてくれた。
「トステニロス、私、番が出来たわ。」
幸せそうに笑うエマラジュに、トステニロスは嬉しそうに祝福した。
こんなに幸せになれるなら、もっと早く国を出れば良かったと思った程だ。
そんな幸せそうな義理の兄弟は天空白露の中でも目立つ存在だった。
「ご存知の通り女性は少ないうえに天上人となるとさらに少ないのですよ。神聖力も多いしその華やかな美しさは有名でしたから。だから私の一族にも狙われてしまいました。」
聖王陛下も机から離れて俺達のソファの方に座ってしまった。アゼディムが仕方ないとばかりに紅茶の用意を始める。
休憩だな。
「でも番は人生一度っきりだろ?」
そうですね、と聖王陛下は頷く。
「テトゥーミには言いにくかったのですが、トステニロスにもいい人がいたのですよ。」
「ええーーー!?」
テトゥーミが叫んだ。初耳だったらしい。そしてクオラジュも知らなかったらしい。
「クオラジュが産まれる前の話ですから。それにトステニロスの恋人は緑の翼主一族の者でしたし。………番になる前に殺されましたから。」
聖王陛下は悲しそうに微笑んだ。
緑の翼主一族ならテトゥーミと同じだ。
「誰に殺されたんだ?」
「同族にですよ。エマラジュに惚れていた私の一族の者が、エマラジュが番になり同時に子供を身籠ったと知って腹いせに殺しました。」
「うわ、ひどっ!」
「え?じゃあそれってトラウマじゃん。」
俺達は他人事だから思わず簡単に言ってしまったが、告白して振られ続けているテトゥーミはガックリしていた。それにクオラジュにしてみれば母親と叔父の話だ。気に障ったかなと思いチラリと見ると、目が合いニコリと微笑んだ。怒ってはいないようだ。
「あわわ、テトゥーミ、気にするなよっ!」
「そーだよ!ヤツも男だ!」
アオガは何の慰めだろうか。
「色仕掛けをやっては怒るでしょうか…。」
クオラジュまで考えだしている。というかテトゥーミに色仕掛けは無理なんじゃないか?
「その時のトステニロスの恋人殺したヤツはどうなったんだ?」
「トステニロスが………あっ。」
聖王陛下が言いそうになって止めた。言っちゃまずい感じ?
「聞かない方がいいだろう。」
アゼディムまで止めてくる。まぁ、もういないやつならどうでもいいかと聞くのは辞めておこう。なんか怖い話っぽいし。
テトゥーミは一気にしょんぼりしてしまった。
「そうなんですね。そりゃあ、亡くなった恋人さんが恋しいですよね……。」
ちょっと半笑いだ。俺とアオガはアワアワと慌てる。興味惹かれて聞き過ぎてしまった。テトゥーミには痛い話だろう。
「僕、ちょっと休憩してきます。」
今まで休憩していたのだが、テトゥーミは出て行ってしまった。
「ああ~~~。」
俺とアオガは悲痛な声を出す。テトゥーミがショックを受けてしまった。
「何故態々教えたのですか?」
クオラジュがまた書類を捌きながら聖王陛下に尋ねた。
「トステニロスは恋人が殺された時、殺した相手をこれでもかというくらいに痛め付けました。」
「あれは…、酷かった。」
アゼディムまでポツリと呟く。
え。トステニロスってそういうキャラ?アオガが言うように黒いキャラ?優しいお兄さんに擬態してんの?
「私の叔父ですしね。」
クオラジュは納得している。
「テトゥーミが同じ目に会う時どうなるでしょうか?」
聖王陛下はふぅーとお茶を飲みながらしみじみとしている。
「テトゥーミが同じ目に?」
「いや、そもそもテトゥーミって滅多に天空白露から出ないよな?」
「そうなんですよぉ~。」
呑気に聖王陛下は頷いた。
外出しないテトゥーミが危険な目にあった時?
あれ?何で外出しないの?
「ああ、そうなんですね。」
クオラジュが突然納得した。
「え?何?どゆこと?」
テトゥーミに仕事を振っているのはクオラジュだ。
クオラジュはテトゥーミに仕事を振るが、テトゥーミは脇道に逸れてしまうためなかなか進まない。よくトステニロスが手伝うのだが、テトゥーミの仕事を手伝うということはテトゥーミの仕事内容をトステニロスが更に割り振っていることになる。
「年の功ですか?」
ロアートシュエは上手く話の流れを作ってクオラジュに気付かせた。
さりげなくクオラジュはロアートシュエを弄り返す。
「私は気になっているだけですよ。」
「ご自分の仕事も気にして下さい。」
クオラジュの冷たい対応に、ロアートシュエはハイハイと頷いた。
「どゆこと?」
俺は話の流れが分からずアオガに尋ねた。
「んー…、多分トステニロス様がテトゥーミ様の仕事を選別してるんじゃないかな?」
「え?外に行かないように?」
それって思いっきりテトゥーミに干渉してんじゃん。
アゼディムが俺とアオガが飲んでいたカップを取り上げた。
「お菓子の食べ過ぎだから動いてくるといい。」
片付けるつもりのようだ。確かにずっとここで喋っていたしなぁ。
「お邪魔しましたぁ~。」
「失礼しました。」
アオガを連れて部屋の外に行く。クオラジュがフリフリと手を振って見送ってくれた。今日は机から離れなかったので本当に忙しかっだんだろう。帰って来たら労おう。
「アオガ、テトゥーミ探そう。」
「了解ー。」
俺は探せないのでアオガにテトゥーミの神聖力を追ってもらって探すことにした。
テトゥーミはトボトボと歩いていた。
トステニロスはテトゥーミがどんなに頑張ってもテトゥーミの方を向いてくれない。テトゥーミももういい歳だ。天上人になった者は、大体八十歳を過ぎた頃から番を探したりする。勿論その前に番を見つける者もいるし、二百歳頃に漸くという人もいる。
焦ることはないが、テトゥーミはトステニロスが好きだった。
テトゥーミは何事も不器用だ。
能力は高いと言われるのに、やろうとすると失敗しかしない。
お喋りが多くて注意力散漫なので、一つのことを終わらせるのも遅かったりする。
自分でも自分がダメな人間だと思っているのだが、そんなテトゥーミをトステニロスはよく助けてくれる。
どんなに失敗してもトステニロスだけは突き離さなかった。
依存していると言われるけど、トステニロスがいないと上手くいかないことが多いし、トステニロスがいてくれたら失敗することも少ない。失敗しても一緒に解決してくれるのもトステニロスだけだった。
「…………ちゃんとなんでもやれるようになったらいいのかな?」
昔の恋人だった人はどんな人だったんだろう?
聖王陛下にもっと聞いてみればよかった。ショックで思わず出て来てしまった。こういう時知りたいことを知る前に逃げ出してしまうのも悪い癖だと分かっている。
「はあ~~~~。」
考え込んで歩きながら、テトゥーミは町の方まで出て来てしまっていた。最近は地守護が大陸の方に巡行に出ている為、町の警備が手薄になっていた。
飛行船の発着場でこ競り合いがあったり、夜の警備が手薄になったりした時テトゥーミも指揮をとりに出る。天空白露は聖王陛下の結界内なので、凶悪な犯罪はまずない。
なので神聖力の多いテトゥーミなら割とあっさり解決出来る。
テトゥーミに来る仕事はそういうのが多かった。
書類仕事は苦手だった。
いつの間にか花守主の屋敷の前まで来ていた。
「あれ?」
今花守主の屋敷は無人のはずだ。新しい花守主ヌイフェンは、開墾地の近くに仮住まいをしている。ここからだと遠いからだ。屋敷の中にあった透金英の森は全て枯れているので、屋敷は暫く閉鎖すると言っていた。屋敷の封鎖をしたのはテトゥーミ自身だ。結界で閉じて誰も入れないようにしたし、老朽化しないように時を止めた。時止まりの術の応用だ。
こういう対人のない神聖力を使った結界なら得意なテトゥーミだった。
中に気配がある。
テトゥーミは少し迷って中に入った。
極小さな穴だ。でもなんだかよく分からない。
中に入って庭の方からグルリと屋敷を巡り、枯れた森に出た。透金英の森だ。
その中央に小屋がある。前まで罪人を入れていた牢だろう。今は違う処罰にしなければと、罪人は別の牢を用意して結界で閉じ込めている。背中を切ることも神聖力を吸わせることもない。
森の端に広場があった。
罪人が死んだ時埋葬していた場所だ。
そこの土がボコッと動いた。
「ひっ………!」
手が出ている。
えっと、最近は、そうだ、元識府護長ノーザレイを埋めたところだ。え?何で動いてるの?
テトゥーミはサアァァと青褪めた。
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➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。
➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。
個人サイトでの連載開始は2016年7月です。
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