落ちろと願った悪役がいなくなった後の世界で

黄金 

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全てを捧げる精霊魚

87 精霊魚なんですよ…。

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 クオラジュは朝からサティーカジィを説得に行っていた。早くトステニロスとアオガの詳細を掴まなくてはならない。
 サティーカジィの方からファチ司地へ連絡を取る手段がないのか確認すると、向かう側から遮断されているという。ではネリティフ国内のどこでもいいから遠見は出来るのかと聞くと、ネリティフ国自体が何かで閉じられてしまっていると言った。
 ではその閉じている結界らしきものを通過して遠見は出来ないのか聞くと、精霊魚化しても無理だとまた言う。

「やる気はあるのですか?」

 サティーカジィの屋敷でクオラジュは脅した。お互いソファに座っているのだが、神聖力の圧にサティーカジィは狼狽える。

「相手の方が神聖力が上なのです。おそらくこの前見たファチ司地と話している男かと。」

 元から持つ神聖力はどうにもならないのだとサティーカジィは言った。

「ではイツズに今すぐ説明をして、魂の契約を行ってください。そして祈りの間に行きましょう。」

「それは……。」

 サティーカジィは口篭った。
 バァンと扉が開く。

「あのっ!僕が何か手伝えるんですか?」

 イツズはトステニロスとアオガが行方不明になっていることを聞いていた。サティーカジィから行方を見ることが出来ないのだとも聞いていた。
 クオラジュがここ最近サティーカジィに何か話をしに来ていることも知っていた。
 サティーカジィはイツズを大切にしてくれるし好きなこともさせてくれるが、大事なことは教えてくれない。長く同じ時間を過ごせば過ごすほど、そのジレンマは大きくなっていく。
 だから今日は朝早くから来たクオラジュとの話を、こっそり聞き耳立てていた。そして自分にも出来ることがあるらしいと知る。

「イツズ、簡単なことではないのです。」

 サティーカジィはイツズを大事にし過ぎだ。イツズだって仲間に入りたい。なんの力も無いけど、一緒に悩んだりしたいのに。
 それなのにまだ教えてくれない。
 
「なんでですか!?僕だって、僕だって………!」

 クオラジュは二人の成り行きを見守っている。

「イツズ……、私は…。」

 サティーカジィ様は優し過ぎるのだ。それは本当にもどかしいほどに!

「僕、アオガ様が言ってたヘタレって何のことだろうって思ってたんですけど……。」
 
「え?」

 涙目で話し出したイツズにサティーカジィは慌てつつも、何のことだろうと虚をつかれる。

「サティーカジィ様はヘタレなんだぁあぁぁぁ~~!」

 イツズは叫びながら出ていってしまった。

「ええぇ!?」

 置いていかれたサティーカジィはへたり込む。

「……………えぇ?」

 クオラジュが珍しく肩を揺らして笑っていた。


 その後二人で聖王宮殿に向かいロアートシュエとアゼディムと共に話し出そうとしていた時、ロアートシュエから郊外の開墾地で異変があると言われて急いだ。
 ツビィロランの魂で繋いだ存在も途切れてしまっている。
 空間を遮断された周辺には護衛につけていた神聖軍がなんとか入ろうと攻撃をしていたが、全く入れない状態になっていた。

「これは……、どこかから空間が無理矢理繋げられているようですね…。」

 ロアートシュエは聖王として天空白露と繋がっている。なので天空白露の地に異変があればすぐに分かるのだが、何処か別の場所と繋げられているのだと言った。

「無理矢理?…………っ!ツビィロラン!ツビィ!!」

 剣を抜いてクオラジュが神聖力を纏わせ切り付け叫ぶ。ガギンッと音が鳴り響き、空間にヒビが入るが割れる気配はない。
 薄暗い何かがツビィロラン達がいる場所を覆っていた。

「中には誰が?」

 アゼディムが部下に尋ねると、中にはツビィロランの他に赤の翼主、イツズ、花守主がいると答えた。

「よりによってフィーサーラですか。」

 クオラジュの声が低く唸る。答えた兵士はヒィッと叫んだ。
 番にはまだなれないが、魂を繋げたので開墾地は近いし直ぐに行けると思ったのが失敗だった。最近窮屈な思いをさせていたので気晴らしにイツズと会うのを許した所為だ。
 ありったけの神聖力を込めて、剣が壊れるのも構わずに黒いモヤに突き刺した。剣はめり込み停止する。

「サティーカジィっ!この剣を通して中の様子を見て下さい。」

「分かりました!」

 剣を手放したクオラジュの代わりに、サティーカジィが剣の柄を握る。
 サティーカジィは剣からクオラジュの神聖力に自分の神聖力を流して中を覗いた。

「!イツズだけいます。空間に穴が空いていますね。中にモグラが……、生きてイツズを追いかけています!急がないと!」

 イツズは一人でそこにいた。他の三人は見当たらず、もしかしらたら穴に落ちたのかもしれないという。

「どけっ!」

 アゼディムがクオラジュの剣の上から更に自分の剣を叩きつけた。クオラジュの剣とアゼディムの剣はどちらもバキンとあり得ないくらい粉々に砕け散ったが、同時に薄暗く覆っていたモヤも砕け散る。
 三人分の神聖力を受けて剣は耐えきれなかった。

「イツズ!」

 サティーカジィが叫ぶと、イツズは涙目で逃げてきた。

「サティーカジィさまぁ~~!」

 抱き付いてツビィがっ!と泣く。予想通りツビィロラン達は穴の中に落ちたらしい。

「何だこの穴は…。」

「………場所の方向は、竜の住まう山の東側のようですね。」

 アゼディムとロアートシュエがすかさず穴を調べる。

「…………ネリティフ国?」

 クオラジュは思わず頭に浮かんだ国名を言う。
 東側といっても広く、様々な国も集落も存在している。だがこの時期に他の国が考えられるだろうかと思い呟いた。

「クオラジュ、あり得ますよ。黒い神聖力です。」

 クオラジュとサティーカジィは目を見合わせた。

「サティーカジィ、この穴は閉じようとしています。私が開けますので、貴方はイツズと見て下さい。言っている意味はわかりますよね?」

 それは重翼であるイツズに触れ、精霊魚化して中を見ろという意味だった。
 クオラジュは自分が目隠しを作り周囲から見られないようにしてから、穴をこじ開けるので、そこにサティーカジィが遠見で神聖力を流し通り道を作るよう言った。
 サティーカジィはイツズを見た。
 イツズはサティーカジィをしっかりと見返し、頷く。

「何を心配しているのか分かりませんが、僕は大丈夫です!早くして下さい!ツビィに何かあったら嫌です!」

 サティーカジィはツビィロランに嫉妬しそうだ。いや、今までもそうだったのだ。ただその感情はいけないと思い心の奥深くに封印してきた。そんな醜い感情は持ちたくない。
 イツズはサティーカジィの手を取る。

「僕はサティーカジィ様と一緒にやれることがあるなら、その方が嬉しいんですよ?なんでいつも隠すんですか?」

 イツズはサティーカジィと共に居たいという感情があるのだ。ちゃんと、ある。

「一緒に居続けたいと思うなら、僕を同じ場所に置いて下さい!」

 例え苦しくても、嫌なことでも、それがサティーカジィと同じ気持ちなら、一緒に苦労したい。そう思っている。出来れば助けてあげたいし、慰めることができるなら慰めてあげたかった。

「イツズ………。」

 サティーカジィは迷いながらもイツズの手を取る。
 イツズはサティーカジィが握る手を見た。その手の甲にピキピキと白くて小さくて滑らかな鱗がビッシリ浮き出てくる。

「…………え?」

 イツズは目を見開いた。そしてサティーカジィを見上げる。サティーカジィの顔にも鱗が生え、瞳は大きく丸く変わっていた。耳は魚の鰭のように形を変え、握っている手は小さく震えている。

「…………嫌ではありませんか?」

 サティーカジィはイツズに尋ねた。
 イツズはふるふると首を振る。

「いいえ、なんだろう……うーん、かわいいです。蛇ですか?」

「………………精霊魚です。」

 サティーカジィの鼻がクスンとなる。何故みんな魚と言ったり蜥蜴と言ったりするんだろう。しかもイツズは蛇…………。

「ロアートシュエに結界で覆わせたので遠慮なく中を見て下さい。」

 意気消沈しているサティーカジィに、追い討ちをかけるようにクオラジュが命令した。

「後でこの姿について説明しますが、とりあえず先に魂の契約をします。」

 精霊魚の姿を見られた以上、イツズにも同じように魂の契約で縛りつけなければならない。

「はい、よく分かりませんけど、お願いします。」

 サティーカジィはイツズを抱き締めた。抵抗もなくすんなりと抱きしめ返すイツズに安堵する。この鱗姿を見て嫌がられなくて良かったと思う。この姿を見せれる人間は限られているので、他の普通の人達がどんな反応をするのか分からなかったのだが、好きな人が嫌がっていないのならと安心した。

 サティーカジィはイツズに触れると神聖力が上がる。その増幅された神聖力を閉じようとしている穴に向かって放った。サティーカジィの手から水が流れ、穴に向かう。
 隙間から染み込み水は神聖力となって穴を貫通した。

「クオラジュ、向こうに通りました。」

「はい、では開けます。」

 バリバリと静電気が眩い光りを放って水の中を走る。
 そして穴を通れるくらいに壊した。
 クオラジュが黎明色の羽を広げる。

「行きます。」

 そう言って先に飛び出していった。











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