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第四章 王都観光

第十四話 作業厨、ドルトンに会う

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 キン カン キン カン

 ドルトン工房の中に入ると、室内に響き渡る槌を打つ音が耳に飛び込んできた。槌を打つ振動で、そこら中に保管されている武器防具もカタカタと揺れていた。音や振動が外に漏れていないのは、壁に防音が付与されているからだろう。

「これぞ鍛冶屋って感じだなぁ……」

 これぞ鍛冶屋だ!って感じの内装に、俺は内心興奮していた。
 すると、奥から見覚えのあるドワーフが出てきた。

「お! 誰かと思えばレインとニナじゃねぇか。そういやあんたらにコイン渡したって報告をあっちの領主から聞いたって親方が言ってたな」

 そう言って楽しそうに笑うこのドワーフの男性の名前はムートン。メグジスから王都までの護衛の依頼を俺達に出した人だ。

「ああ。また会ったな。てか、ムートンはここが仕事場なのか?」

「そうだ。俺はここの商業部の上から2番目でな。親方の弟子が造った装備を売る為に遠方へ行くことが主な仕事なんだよ」

 ムートンは誇らしげにそう言った。てか、上から2番目の人が直々に売りに行くって凄えな。普通は無いだろ。

「そうなんだな。でさ、ドルトンさんは今、手は空いているのか? 依頼をしに来たんだが……」

 忙しい時に声をかけるのは忍びないと思った俺は、ムートンにそ問いかけた。

「今は特に依頼は無いから大丈夫だ。槌は打ってるが、それは日々の鍛錬としてのやつだから気にしなくていい。遠慮なく大声で話しかけてくれ。小さい声だと気づいてくれんからな」

 俺も、作業を始めると無意識に周囲からの音をシャットダウンする。
 もしかしてドルトンは俺と同類なのか?だとしたら凄い気が合いそう。

「分かった。ありがとな」

 俺は礼を言うと、ニナと共に案内板を頼りにドルトンの部屋へ向かった。

「ここか」

 ドルトンの部屋の前に立った俺は、そう呟いた。
 ドルトンの部屋にはドアがなく、外から中が筒抜けだ。そして、中にはただひたすらに槌を振る1人のドワーフがいた。

「そうね。入りましょ」

 ニナはそう言うと、中へ入った。俺も、ニナの後に続いて中に入った。

 カン カン カン カン

 案の定、すぐ横にいても気づく素振りすら見せない。作業している時の俺と同じだ。

「ドルトンさーん。気づいてくださーい」

 声をかけてみたが、気づいてくれない。まあ、これはただ単に俺の声が小さいことが原因だ。
 咄嗟に出るような叫び声ならともかく、こういう時に大声なんて出せない。集中している人に声をかけて、邪魔してしまうのはいくらムートンから許可が出ているとは言え、出来ないのだ。

 と、言う訳で、ここは圧倒的コミュ力を持つニナに託すとしよう。
 道行く人に道を尋ねると言う、俺では何千年経っても出来なさそうなことを、ニナは平気でやってのけるのだ。
 そんなニナなら、ドルトンにも大声で声を掛けられるだろう。
 そう思った俺は、ニナに期待の眼差しを向けた。

「そんな声じゃ気づいてくれないわよ。ここは私に任せて……ドルトンさーん!」

 ニナは口に手を当てると、大声でドルトンの名前を呼んだ。間近で聞いていた俺が、咄嗟に無音サイレントを使ってしまうぐらいの大きさだ。

「ん? おう。元気のある嬢ちゃんだな。悪いがちょっと待っててくれ。キリのいい所で終わらせるから」

 ドルトンはそう言うと、再び槌を振り始めた。
 その後、30分程経った所でドルトンは槌を置くと、俺達の方を向いた。

「待たせて悪かったな。では、自己紹介をしよう。俺の名前はドルトン。ここの工房長だ」

 作業着を着た、黒髪黒目のビア樽体型のドワーフ、ドルトンは腕を組むと、そう言った。

「ああ。俺の名前はレイン。Aランク冒険者だ」

「私の名前はニナ。私もAランク冒険者よ」

「レインとニナか。ああ、よろしくな。……ん?お前さんの肩に乗ってるちっこい狼は従魔か? 名前はなんていうんだ?」

 自己紹介をすると、ドルトンは俺の両肩に乗っているシュガーとソルトに興味を示した。

「この子がシュガー、この子がソルトだ」

 俺は2頭をそれぞれ撫でると、ドルトンに紹介した。

「ほう。シュガーにソルトか。いいな。可愛い。俺、こういう可愛い動物が好きなんだよな」

 どうやらドルトンも、もふもふが好きなようだ。

「よし。んじゃ、再度コインを見せてくれ。さっき見せたと思うが、ここでも確認しねぇといけねぇんだよ」

「分かった」

「ええ。ほら」

 俺達は推薦コインを取り出すと、ドルトンに見せた。

「問題ねぇな。んじゃ、依頼を聞こうか」

「ああ。えっと……どっちからにする?」

 俺はニナを横目で見ると、遠慮がちにそう言った。
 気持ちとしては真っ先に頼んでみたいのだが、ニナに相談せずにいきなり言うのはちょっと抵抗がある。

「私は別にどっちでもいいわ。レインの好きなようにしたら?」

「分かった」

 ニナがそう言ってくれたので、ここはお言葉に甘えるとしよう。

「俺からの依頼は、この剣とこいつの強度を上げることだ」

 俺は鞘からダークを抜き、台の上に置いた。その後、無限収納インベントリから魔導銃を取り出すと、ダークの隣に置いた。

「む……とてつもない剣だ。どれどれ……」

 ドルトンはダークを手に取ると、じっと見つめた。

「……アダマンタイトとオリハルコンの合金か。並の国宝よりも素晴らしい一振りだ。俺が手を加えるとすれば、やはり鍛冶のスキルで素材そのものの強度を上げることぐらいだな。だが、これには強力な効果が複数付与されていて、手を加えたらそれらが全部消えちまう可能性が高い。弱いやつならどうにかなるんだけどな……」

 良い剣だとは思っていたが、まさか国宝級だとは思いもしなかった。
 手を加えたら付与が消える可能性が高いと言われたが、また付け直せばいいだけなので、問題はない。

「それに関しては大丈夫だ。その剣に付与したのは俺だからな。また付け直せばいい」

「ん? お前さん付与師なのか? Aランクで?」

 ドルトンは目を見開いて驚くと、そう言った。
 非戦闘系天職ではBランク冒険者になるのが精一杯で、Aランク冒険者になれるのはほんの一握りだとニナから聞いたことがある。なら、その驚きようも納得だ。
 まあ、俺は付与師ではなくて錬金術師なのだが、同じ非戦闘系天職であることに変わりはない。

「いや、俺は付与師ではない。付与はスキル結晶で手に入れたんだ。実際は錬金術師だ」

「結局非戦闘系じゃねぇかよ……。まあ、いいか。問題ねぇってことは分かった。で、こっちは何だ? 奇妙な魔道具だな」

 ドルトンはダークを置くと、今度は魔導銃を手に取った。ニナも、興味深そうに魔導銃を見ている。

「……これはお前さんの自作か?」

「ああ。そうだ。試行錯誤を繰り返して、ようやく作れたものなんだ。用途は聞かないでくれよ」

「なるほどな。お前さんは随分と腕の立つ錬金術師なんだな……」

 ドルトンはそう言うと、魔導銃を置いた。そして腕を組むと、「むむむ……」と何か考え始めた。
 その後、おもむろに俺の目を見ると、口を開いた。

「よし。ちょっと取引しねぇか? お前さんの腕を借りてぇんだよ」
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