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2 よのなかのふじょうり

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 施設に帰ってから、先生は騒ぎの詳細を二人に問いかけた。
 彼も予想はしていたのだろう。
 説明の途中で声が詰まりだした真理子の頭を優しくぽんぽん、と叩いた。
 横で京子がぎゅっ、と真理子の腕に抱きついた。

「怒らないんですか? せんせい」
「だって君達はもう、ケガをさせたことに関しては、彼に謝ったし。僕には君等を怒る理由は無い」
「あ…… いつ…… うちじゃあ、まいにち、風呂に入ってないのか、っていった」
「そんなこと、無いのにね」

 彼は悲しそうに目を伏せた。

「でも、そうやって見てしまうのが、ここ以外のところ、だからね」
「そぉなの?」

 彼はゆっくりと分かり易い言葉で、二人に向かって、「世の中の不条理」について話した。
 言葉自体は分かり易いものであったが、真理子は彼の話すことの半分も判らなかった。
 いくら真理子が聡い子だったとしても、小学校二年の児童では判る話と判らない話があるのだ。

 それでも彼女もこれだけは理解できた。
 ここと「世の中」じゃ、あたし達に対する目は違うんだ。

 あたし達は、皆と違う場所から、走らされてるんだ。

 当時、ハンデという言葉を知らなかった彼女は、少し前の体育の時間を思い出した。
 皆が一斉にゴールにつける様に、と足の速い子はスタートラインを少し後ろにずらして走らされたのだ。
 あんな感じだ、と真理子は思った。

 あんな感じだけど―――
 別にあたし達は、足が速い訳じゃあ、ないのに。



 それから真理子は変わった。
 いや、パワーアップした、と言うべきか。
 幼いなりに彼女は「よのなかのふじょうり」に対して決意したのだ。

「だったら何か言われない様にすればいい」
「後ろからスタートされられても追い抜いてやる」

 負けず嫌いと遺伝的有能さがかみ合って、彼女はそれ以来、成績優秀、もめ事も起こさずに小中学校を過ごしてきた。

 ずっとかばってきた京子は、その細い身体とよく動く体を、「慰問」でやってきた小さなバレエ団を経営する女性に目をつけられ、引き取られていった。

「うまく行くといいね」

 真理子は京子の後ろ姿を見ながら先生に言った。
 本気でそう思った。

「そうだね」

 先生は答えた。



 真理子自身は、中学を卒業するまで施設に残った。
 「優秀な子を」という望みの引き取り手が無い訳ではなかった。
 しかし彼らの欲しいのは、自分達の言いなりになる「優秀な子」であって、ぎらぎらした目で自分達をにらみ付ける彼女ではなかった。
 それはそれで、構わなかった。
 真理子は自分のことは自分でするつもりだった。
 自分の手で、道を拓いて行くつもりだった。

 
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