公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎

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二章 士官学校

授業のはじまり③

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「失礼します」

昼休みに色々と聞いていたからか、ジェイデンは少し緊張しながら魔法学の教室へと足を踏み入れた。



教室は静かだった。
ここには、ジェイデンとルイスしかいない。
他の生徒は、試練場でそれぞれのペアと魔力操作の続きをしている。
他の教師が数人、目付と救護役で彼らに付いていた。

「さて。まずは今の君の魔力量と属性について把握させてもらおうかな」
「はい」

ルイスに促されて、人の顔ほどもある巨大な宝珠の前に立つ。

「これは魔力を測る魔道具。手を乗せるだけでいいよ」

淡く光る水晶のような宝珠だ。
言われるままに、腕を伸ばして手を置く。
つるりとした表面からひんやりとした冷たさが手のひらに伝わってきたが、すぐに体温に馴染んで暖かく感じた。

「属性を鑑定するから、しばらく手を置いていて」

どうやら属性鑑定の魔道具らしい。
光の大きさで、魔力量も簡易的にみることができる。

「…ふむ。五大属性魔法はどれも会得済みか。さすが公爵家だね」

高位貴族は、その血ゆえに生まれながらにして魔力が高く、使える属性も多い。

宝珠を覗きこみながらルイスが鑑定結果の説明を始めた。

「後は雷魔法の素質がある。まだ使えてはいないようだけど、訓練次第ではできるようになるだろう。後は…」
「え、雷魔法が使えるんですか?!」

ジェイデンが驚いて聞き返したことで、ルイスの言葉を遮ってしまった。
反射的に大きな声を出してしまってから、慌てて我に返る。

「すみません、びっくりして…。あの、母方の家系が雷魔法を使うので」
「ああ、アルトワ家の雷魔法か」
「はい。私はこれまで全く使えなかったので、素質がないものと思っていました」

ルイスは驚くジェイデンから宝珠に視線を戻した。
宝珠をジェイデンの反対側から操作して、より具体的な鑑定結果を口にする。

「君は五大属性の中でも、風魔法が強すぎるみたいだ。魔力量の底上げをして、他の属性もバランスよく伸ばせば雷魔法も使えるようになるだろう」

そう指摘されて、ジェイデンはなるほどと納得した。

ルーが得意な風魔法に合わせた連携を取っていたこともあり、ここ数年は風魔法の威力ばかりが伸びていた自覚はあった。

「そういえば君の母上は、雷魔法の使い手では当時王国一と言われていたね」

ルイスの言葉に、宝珠に落としていた視線を上げる。
ひと時の間を置いて、コクリと頷いた。

ジェイデンはこれまでに雷魔法が使える予感が全く無く、てっきり素質自体がないものと思っていた。

アルトワ家の直系はもうジェイデン以外は絶えている。
自分以外に雷魔法を使える可能性のある者は少ない。母や祖父が得意としていたという雷魔法への憧れは幼い頃から持っていた。

「雷魔法は素質があっても、魔力量が桁違いに多い者にしか使えない。君はその歳にしては魔力量が多いようだけど、今のままでは足りないだろう」
「では、どうすれば…」

淡々と説明するルイスに、ジェイデンは焦りの滲んだ顔を向ける。
ルイスは彼の視線を正面から受け止め、くすりと口元を綻ばせた。

「他の生徒と同じように訓練を積むことだね。まだ十五だろう、伸び代はあるはずだ」

安心させるように、ルイスが柔らかい笑顔を向ける。

「はい。頑張ります」


ジェイデンの手の下の宝珠は、彼の素質を祝福するように様々な色の光が渦を描くように輝いていた。












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